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「ぶっとび天才タマゴ」整備士は悲鳴…ユーザーは広さに歓喜!初代トヨタ エスティマ【推し車】
トヨタのぶっとび天才タマゴ
2019年に最後の3代目が廃止されるまで、人気車とまでは言えないものの根強い需要で消えるのが惜しまれたトヨタのミニバン、エスティマ。
終始タマゴ型のフォルムで、同ジャンルミニバンが似たようなデザインばかりの中でも独特の存在感を放ち続けていましたが、その原点は「天才タマゴ」をキャッチコピーにした初代モデルにあり、現在なら商品化がなかなか難しそうな、いろいろぶっとんだクルマでした。
北米ミニバンブームを追いかけた意欲作
「広々とした車内空間に多人数乗車、またはシートを畳めばたくさんの荷物も積める貨客兼用の多目的車」は、商用車ベースなら昔から存在しましたし、日本でも1960年代にマツダ ボンゴやトヨタのハイエース、ミニエースなどが登場し、意外と古いコンセプトです。
ただし乗用車ベースで上質な乗り心地を含め、貨客兼用から「客」寄りにした近代的な意味でのミニバンは、1980年代半ばにルノー エスパスやダッジ キャラバンなどにより、「新時代のクルマ」として一気にメジャーとなりました。
1980年代を通じて、売れすぎで地元メーカーの経営圧迫に雇用問題まで絡むアメリカからのジャパンパッシング、円高進行による高価格化で、それまでのやり方では商売が成り立たなくなっていた日本にも、無縁な話ではありません。
日産 プレーリー、三菱 シャリオ、マツダ MPVといった、新時代に対応し、現地生産まで視野に入れた近代的ミニバンが次々に登場、ホンダも後にオデッセイへ至るプロジェクトをスタートさせており、トヨタも将来的な北米の売れ筋確保に動きました。
それが1990年に発売、海外では「プレビア」などの現地名で販売された、初代「エスティマ」です。
アンダーフロアミッドシップのタマゴ型ボディ
デザインとスペース効率追求を両立したアンダーフロアミッドシップ
日本国内で「ハイエース」をはじめ、車内スペースがとにかく広い商用1BOXベースミニバンが好調だったトヨタですが、それゆえ新型ミニバンも「車内スペースを最大限」が必須と考えたようです。
それでいていかにも商用車ベースらしい、耐久性重視で騒音や足回りのドタバタ感など、快適性や操縦性、走行性能が二の次になっていたところは極力、乗用車に近づけなければいけませんし、もちろん同じボディの商用車があってもいけません。
国内外の他社新世代ミニバンは、いずれもフロントにエンジンを搭載したボンネットタイプで、見た目は乗用車に近いとはいえ、いくらエンジンルームをコンパクトにしても、その分だけ車内長が圧迫されます。
そこでトヨタが採用したのはアンダーフロアミッドシップ構造で、1列目シート下あたりの床下にエンジンを搭載して後輪を駆動、動力系と駆動系の大半を食い込ませない前後に広々とした車内空間を実現しつつ、ミッドシップとして高い走行性能を目指したのです。
奇怪な横倒しエンジンとタマゴ型ボディが最大の特徴となった
さすがに冷却系やエアコン、オルタネーターなど各種の補機類は床下に収まらないのでフロントに配し、なんと床下のエンジンから補機類用ドライブシャフトを伸ばして駆動するという、凝ったメカニズムでした(そのため4WDなら前向きのドライブシャフトが2本ある)。
エンジンそのものも、シリンダーを75度も傾けたトヨタ初の「横倒しエンジン」、2TZ-FEを新開発して押し込み、整備性は劣悪でしたが、とにかくレイアウトを成立させます。
補機類を押し込むスペースがフロントに必要だったものの、むしろ逆手にとって段付きボンネットとせず、ボディ前端からフロントガラスを経てルーフまで、さらに貨客兼用ではなく乗用車とアピールするように丸みを帯びたリアまでのワンモーションフォルム。
この曲線と、ちょうど「黄身」にあたる部分へエンジンが乗るミッドシップレイアウトから見事なタマゴ型となり、「天才タマゴ」というキャッチコピーで売り出しました。
天才タマゴは2ストロークエンジンがお好き?
幻のS-2機関
ところで初代エスティマには、「S-2機関と呼ばれる2ストロークエンジンを搭載する予定だったが開発に失敗し、結局普通のエンジンを積んだ」というエピソードも有名です。
実際、2ストロークエンジンは効率やトルク特性に優れており、排ガス規制や燃費の問題をクリアすれば自動車用内燃機関として非常に魅力的な事から、現在もヤマハが競技用オートバイに採用したり、マツダが新たに特許を取るなど研究開発が続いています。
当時のトヨタもDOHC4バルブの4ストロークエンジンをベースに、ユニフロー掃気ディーゼルと同じく(出力向上用ではなく)強制掃気用のスーパーチャージャーを備えた直噴2ストロークの「S-2」(あるいは直噴ストロークから「D-2」とも)を開発。
東京モーターショー1989ではソアラ(2代目)に搭載した「S-2 XV」を展示し、「S-2は来年発売のエスティマに搭載予定」とまでアナウンスしますが、初代エスティマには最後まで搭載されず、2.4リッター直4DOHCの4ストロークエンジンに終始します。
S-2機関の代わりになったのはスーパーチャージャー
この事実をもって「エスティマはS-2機関の開発失敗で仕方なく普通のエンジンを積んだ」という意見もありますが、実際には苦労して詰め込んだ4ストロークエンジン版「プレビア」(エスティマ)を同時に展示していますから、両者は並行開発と考えるべきでしょう。
ただしこの2.4リッター2TZ-FEは明らかにパワー不足で、例によってフロントに搭載し、ドライブシャフトで駆動するスーパーチャージャーを追加した2TZ-FZEで後からパワーアップするも、元から良くない燃費がさらに劣悪になりました。
S-2機関を失った理想の終焉
なお、当時の日本ではボディが大きすぎた(現在のアルファードより小さいですが)という声もあり、5ナンバーサイズに縮小したエスティマエミーナ/ルシーダでは、小型軽量化とディーゼルターボの追加でアンダーパワーを克服します。
しかし大柄ボディが必要な海外ではそうもいかず、さりとて大排気量エンジンを積む余地など皆無、しかも床下で頑張ってうなるエンジンで快適性が損なわれるのは小型版エミーナ/ルシーダでも同じです。
トヨタも「こんな奇天烈なエンジン配置はもうゴメンだ」と考えたのか、エンジンや駆動系を流用できる派生車もルシーダ/エミーナ以外に開発せず、高コスト体質で評判が悪いトヨタ版アンダーフロアミッドシップはこれっきりでオシマイ。
なお、ミニバンとしての商品性はイマイチな初代エスティマですが、スーパーチャージャーのパワーとミッドシップの操縦性は本物で、デザインも秀逸なため愛好家は多く、後に一部サーキットで開催されたミニバンレースでは、初代オデッセイと熱いバトルを魅せました。
※この記事内で使用している画像の著作者情報は、公開日時点のものです。
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- 執筆者プロフィール
- 兵藤 忠彦
- 1974年栃木県出身、走り屋上がりで全日本ジムカーナにもスポット参戦(5位入賞が最高)。自動車人では珍しいダイハツ派で、リーザTR-ZZやストーリアX4を経て現愛車は1989年式リーザ ケンドーンS。2015年よりライタ...