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今は数少なくなったAT車のオーバードライブスイッチって何?
大抵のミッションにはある、オーバードライブって何?
変速比が異なる複数のギアから最適を選択する変速機(ミッション)
一般的に、走行性能と経済性(燃費)のバランスは変速比1.000、すなわちエンジンのクランクシャフトの回転を、減速せずミッション(変速機)から先へそのまま出力する「直結」が最適。
ただし、ほぼ0回転から最大トルクを発揮するモーターならともかく、内燃機関(エンジン)は低回転でトルクが少なく、発進や加速、登坂時には高回転での大トルクが必要です。
速度や勾配など走行環境に応じた最適な回転数を得るため、変速比が異なる複数のギアを駆使するのが変速機で、大きく分ければ手動変速するマニュアルトランスミッション(以下、MT)、自動変速するオートマチックトランスミッション(以下、AT)があります。
技術の発達が利用可能にした、経済性の高い変速比がオーバードライブ
さらに、エンジンの発達で高速巡航や、ある程度までの速度は最適回転数未満でも走行可能になると、低燃費で部品の摩耗も少なく経済的な領域、「オーバードライブ」を有効活用する変速比1.000未満のギアを使うようになりました。
昔はオーバードライブ領域のギアを「オーバードライブギア」、あるいは直結を「トップ」として「オーバートップ」などと言った時代もあったものです。
現在のクルマでも、変速機があるなら「オーバードライブ」と呼ばれる変速比の領域を使いますが、最近は「オーバードライブスイッチ(以下、ODスイッチ)」がほとんどなくなったため、用語としても使う機会は減りました。
昔のミッションにはなぜオーバードライブスイッチがあった?
ATの制御が未発達の時代には必要だった、ODスイッチ
大昔はMTでもATでも、通常のミッションへオーバードライブを追加し、使用はドライバーによるODスイッチ操作で選択式でした。
オーバードライブギアを組み込むのが当たり前になるとMTからODスイッチは消えますが、ATではエンジンブレーキ多用、加速重視などオーバードライブギアへの自動変速を避けたい時もあります。
そのため任意でオーバードライブギアの使用をOFFにできるODスイッチを残した方が好都合でしたが、現在のATは技術の進歩により、コンピューター任せで十分になりました。
信頼性や耐久性を重視するなど何らかの事情で、あえて昔ながらのメカニズムを踏襲する一部車種を除き、ODスイッチの必要性はなくなったのです。
中にはODスイッチがないAT車もあった
なお、最初からオーバードライブギアを持たないAT車はもちろん、昔でも全てのAT車にODスイッチがあったわけではなく、ホンダのように4速ATのシフトセレクターを「D4」(オーバードライブON状態)、「D3」(OFF状態)とした例もあります。
また、走行状況に応じた無段変速機構であるCVTも、ODスイッチはありません。
代わって増えたのは「スポーツ」や「スノー」を意味する「S」モードなどモード切り替えスイッチと、マニュアルモードです。
ATのオーバードライブスイッチを使うと、何ができる?
ONならオーバードライブギアを含めた自動変速
かつて4速AT時代にはほとんどの車へ装備されていたODスイッチですが、通常の状態が「ON」で、オーバードライブギアを含む範囲で自動変速が行われます。
おそらくほとんどのドライバー、特にAT限定で運転免許を取得した場合、「D(ドライバー)」に入れた後は完全にクルマ任せのコンピューター任せで自動変速させるのが当たり前となっており、ODスイッチの装着率が高い4速ATの時代でも、OFFにして走る事は少なかったはずです。
OFFではオーバードライブギアを使わない自動変速
通常の状態からスイッチを押せば「OFF」で、流れが悪い道や、オーバードライブギアの回転数では登坂するのにトルク不足など、頻繁にシフトダウンする場合や、長い下り坂でエンジンブレーキを多用したいなら、直結ギア(4速ATなら3速)までの範囲で自動変速させます。
エンジン回転数が上がり気味で燃費が悪そうですが、アクセルを一定に保てばかえって燃費がよかったり、変速ショックを減らして快適性を上げ、ブレーキの摩耗を抑えてフットブレーキの使いすぎによる過熱など故障も回避できるメリットもあり。
電子制御の発達でコンピューター任せになる前は、ATでもドライバーがこの程度の選択はする必要があったのです。
他にもある、ATの手動操作方法
エンジン性能に余裕の出たクルマが経済性を高める手段としてオーバードライブ領域の活用が始まり、大昔のMT車を除けば、「AT車の自動変速範囲をユーザーがある程度は手動で選択する」という役目が主だったODスイッチ。
最後に、AT車で他にもいくつかある手動操作方法を説明します。
通常のAT車でもMT感覚の操作
普通のAT車でも、シフトセレクター(大抵はレバー式)やODスイッチを駆使して、ある程度MT車並みの変速操作が可能です。
4速AT車なら「D(ドライブ)」のままオーバードライブONで4速から、OFFで3速、セレクター操作で2速や1速へ手動シフトダウンできますが、「この回転数以下ならシフトダウンする」というリミッターがあり、エンジンブレーキかフットブレーキで減速(回転数低下)が必要になります。
レーシングカートのように左足ブレーキを駆使する上級テクニックもありますが、ミニサーキットなど練習できる環境で慣れないうちは、公道でも試すべきではありません。
各モードの活用
車種によっては、シフトセレクターやコンソールのモードセレクターで、それぞれ変速に関わる制御のモードを選択できます。
もっとも生活に身近なのは、雪道や凍結路などのスリップしやすい路面で、あえてエンジン回転数を抑えた2速発進、低いトルクによる穏やかな走行を可能にするスノーモードで、やり方は車種によって異なるため、説明書などで把握しておきましょう。
他にスポーツ走行重視のスポーツモードや、SUVでは極端な凍結路や積雪路、悪路を安全に走り切る、スタック脱出など特殊なモードでは、エンジンやブレーキ、ATとの統合制御を最適化するよう、手動で選択可能です。
MT感覚が味わえるマニュアルモード
スポーツ系の車種やグレードでは、多段式のステップATかセミAT、さらに通常は無段階変速のCVTでも何段か固定した変速比を設定し、手動変速可能なマニュアルモードがあります。
フロア式シフトレバーを前後に倒すシーケンシャル式、ステアリングのノブやボタンを操作するスイッチ式、ステアリング奥のパドルを操作するパドルシフト式と変速方式は多様。
ただし、直線の多い高速走行ならともかく、激しいステアリング操作を行う本格的なスポーツ走行でスイッチ式やパドル式は操作しにくいものが多く、MTと似たシーケンシャル式が一番使いやすいかもしれません。
クラッチを切った状態からのゼロ発進以外、AT限定免許のドライバーでもMT並の操作ができる装備ですが、スポーツ走行以外では必要性が薄いため、最初だけ物珍しさで遊ぶものの、その後は放置というドライバーも多そうです。
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- 執筆者プロフィール
- 兵藤 忠彦
- 1974年栃木県出身、走り屋上がりで全日本ジムカーナにもスポット参戦(5位入賞が最高)。自動車人では珍しいダイハツ派で、リーザTR-ZZやストーリアX4を経て現愛車は1989年式リーザ ケンドーンS。2015年よりライタ...