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「こんなのはダメだ!」発売まで壮絶な舞台裏があった3代目マツダ アテンザ【推し車】

FRの新型はあるのか注目されるMAZDA6(旧アテンザ)

マツダミュージアムへ展示されている、3代目アテンザ初期型の25S Lパッケージ

2023年1月現在も「MAZDA6」(2019年7月に改名)の名で販売されている、マツダのフラッグシップサルーン/ワゴン「アテンザ」。

3代目アテンザとして日本で発売したのが2012年11月でしたから、既にデビューから10年以上を経たロングセラーモデルですが、2015年1月のマイナーチェンジでアダプティブLEDヘッドライトを採用した時にフロントマスクは大幅に変わっています。

現在マツダミュージアムに展示されているのは、発売当時そのままの初期型で、モチーフとなった「靭(SHINARI)」、直接のプロトタイプである「雄(TAKERI)」とは印象がだいぶ異なり、マイナーチェンジで「雄(TAKERI)」にようやく近づいた、とよくわかります。

マツダがSUVへ力を入れている今、シンボルとして残りCX-60同様のFR車として新たな歴史を刻むのか、あるいは高度な経営判断でその役目を終えるのかという分岐点にある今、マツダミュージアムの3代目アテンザセダン初期型を通し、その高い志を再確認します。

最新「アテンザワゴン」中古車情報
本日の在庫数 242台
平均価格 117万円
支払総額 48~265万円

「エクステリア」、「インテリア」、「走り」それだけでいい

「靭(SHINARI)」(右上)から「雄(TAKERI)」(左上)へ、そして生まれたのが3代目アテンザ

あるクルマが開発される際、デザイナーやエンジニアがどれだけ工夫を凝らして無駄を削ぎ落とし、コストダウンと高品質化の間で苦しみ抜いても、ユーザーの要望を可能な限りすくい上げた結果、結局は無個性なデコレーションケーキになってしまいがちです。

2002年に再建なったマツダの旗揚げとして発売された新世代フラッグシップサルーン、「アテンザ」も、2代目(2008年)では無個性化による存在感の希薄化に苦しんだクチですが、それだけに2012年にモデルチェンジした3代目には、強烈な個性が必要でした。

ならば、マツダのフラッグシップサルーンへ求められる個性とはなんだろう?と追求したのが、2010年に発表されたコンセプトカー「靭(SHINARI)」で、これは現在もマツダ車のほとんどに採用されているデザインテーマ、「魂動-Soul of Motion」の原型です。

その極端にワイド&ローな躍動感あるフォルムの4ドアクーペは魅力的だったものの、3代目アテンザのプロトタイプとして現実的なデザインへと落とし込んだのが、2011年に発表されたコンセプトカー、「雄(TAKERI)」。

しかし、「雄(TAKERI)」に到るまでもデザインの難関は高く、車内でお披露目された試作車が、「なんだこれは!靭(SHINARI)を持って来い!」と役員に怒鳴られ、突き返されたこともあり、スタイリングだけでも2回作り直したそうです。

なぜそんな苦労をしたかと言えば、徹底的なマーケティングを経て作るクルマなど平均的でつまらないからもうやめよう、SKYACTIVテクノロジーをフルに使った素晴らしいクルマを作るのだから、好きな人はとことん好きなクルマでいいじゃないか、というわけです。

そういうユーザーがマツダにどんなクルマを求めているかといえば、「エクステリア」、「インテリア」、「走り」の3点で、これを突き詰めていったのが「雄(TAKERI)」と、3代目アテンザでした。

奔放なデザインを可能にした大型化

「靭(SHINARI)」以来のフロントグリルからヘッドライトへ至るメッキのアクセント、「シグネチャーウイング」が特徴的

3代目アテンザは2代目から全長で125mm、全幅45mm、ホイールベースも105mm拡大されてひと回り大きくなり、全高アップは10mmに抑えられて、ワイド&ローの伸びやかなデザインが可能になりました。

これは日本国内で使うにはいろいろと注文が出そうなサイズですが、そもそも万人向けなど想定しておらず、ここまでの大型化で可能になった走りを楽しむ人がターゲットですから、問題ありません。

一応は、「デザインと走りのためにその大きさが必要なのはわかったから、取り回しだけは配慮してくれ」と注文がつき、前輪の切れ角を大きくする工夫で最小回転半径は0.1~0.2mほど大きくなるだけで済みましたが、配慮といえばそれくらいなものです。

「靭(SHINARI)」ほど奔放でなくとも躍動感にあふれたデザインのキモは、ノーズからとリアフェンダーのラインがフロントフェンダーの後ろですれ違っているところで、現実的なサイズへ落とし込んでも、見る角度によって印象が変化していくドラマ性をもたせています。

さらに全体的なイメージに大きな印象を与えているのが付け根を後方に移動し、角度を起こしたAピラーと、可能な限りホイールベースを伸ばして短くしたオーバーハング、傾斜搭載したエンジンで低くしたボンネットフード。

これによってロングノーズ化が可能となり、短いテールと相まって、4ドアノッチバックセダンでありながら、FRの5ドアスポーツクーペ風デザインとなり、従来の5ドアハッチバックを廃止して、セダンは4ドア一本に絞られました。

これも「細かい装備や荷室容量に満足感を求めないユーザー」を対象としたからで、あらゆるユーザーへ売りたい八方美人的なクルマなら、まず無理だったでしょう。

そこは多少大きくなろうが妥協しないと決めていたところで、爆発的ヒットよりも「マツダの象徴」であることを第一にしたクルマだとわかります。

SKYACTIVテクノロジーとの相乗効果で走りも抜群

ロングホイールベースと詰められたオーバーハング、後退したAピラー付け根によるロングノーズといった特徴が、サイドからだとよくわかる

デザイン重視の大型化でしたが、その恩恵は初代CX-5に続く「フルSKYACTIVテクノロジー化」による性能面にも及びました。

ホイールベース延長による高速安定性向上はもとより、風洞実験を繰り返してリファインしたデザインは空力性能を最適化、オーバーハングが短く、長いノーズに傾斜搭載されたエンジンとキャビンの間に空間ができたため、効率的な排気系統を組み込みます。

さらに、運転席足元にホイールハウスの出っ張りがなく、ペダルレイアウトも自由になった結果、積極的なシフトワークで自在にクルマを操りたいMT派も満足させたほか、キャビンがリア寄りとなったため、前後重量配分の面でも有利に働きました。

従来からの2リッター/2.5リッターガソリンエンジンの「SKYACTIV-G」化のほか、低圧縮比で軽快に吹け上がる画期的な2.2リッタークリーンディーゼルターボ、SKYACTIV-D2.2も搭載され、余裕ある動力性能を、これもSKYACTIVの6速MTか6速ATで操ります。

単に新型エンジンというだけでなく、「踏み込み量に応じてドライバーの意思を察し、イメージ通りの加速を行うスロットル制御」など至れり尽くせりですが、重箱の隅をつつくようなユーザーにまで忖度していてはできない相談です。

時間や技術的制約から未消化だったフロントマスクのフェイスリフトや、インテリアの充実、各種予防安全装備の追加も問題なく飲み込むなど、3代目アテンザの大型化はデビューから11年経り、MAZDA6と名を変えても販売できるほどの余裕を生みました。

どうなる今後のMAZDA6?

斜め後ろから見ると、リアフェンダーから降りていくラインとフロントノーズからのラインがフロントドアあたりですれ違い、絶妙な躍動感を与えている

3代目アテンザ/MAZDA6は、単にマツダのフラッグシップサルーンというだけでなく、主力SUV「CX-5」とも共通点の多いクルマですが、それだけにFRベースで直6エンジンも積む新型SUV、「CX-60」の登場と、それでも存続するCX-5、どちら寄りになるのでしょう?

数字が車格を表すと素直に解釈するなら、次期MAZDA6はCX-60と共通点の多いFRフラッグシップサルーンとなるはずですが、次期型の有無はまだ噂レベルに過ぎません。

CX-5のようにSUVでも「マツダらしい走り」を実現できたことが自信となって、アテンザ/MAZDA6の開発と改良にも大きく役立っていた事を考えると、CX-60の経験が活かされた次期MAZDA6への期待も高まります。

可能であれば、やはり妙な忖度などせず北米や欧米向けメインで構いませんから、いかにもマツダらしいFRスポーツセダンとして、次期MAZDA6の実現と日本での販売に動いてほしいものです。

※この記事内で使用している画像の著作者情報は、公開日時点のものです。

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執筆者プロフィール
兵藤 忠彦
兵藤 忠彦
1974年栃木県出身、走り屋上がりで全日本ジムカーナにもスポット参戦(5位入賞が最高)。自動車人では珍しいダイハツ派で、リーザTR-ZZやストーリアX4を経て現愛車は1989年式リーザ ケンドーンS。2015年よりライタ...

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