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「プリウス超えの超低燃費!」でも人気はイマイチ?初代ホンダ インサイトの試行錯誤と苦悩【推し車】

打倒プリウスに燃えたホンダ初のハイブリッドカー

トヨタ博物館にも展示されている初代インサイト(2004年式で、車重850kgとあるのでCVT車の模様)

「後出しするからには、なんとしてもプリウス以上の燃費を叩き出さねばならない。」

ホンダ初のハイブリッドカー、初代インサイトの開発チームにかかるプレッシャーたるや、相当なものだったと思います。

元は1997年の東京モーターショー(現・ジャパンモビリティショー)で発表された4人乗りのコンセプトカー、「J-VX」でしたが、当時としては斬新すぎた部分を現実的な技術へ置き換えると、プリウスの10・15モードカタログ燃費28.0km/L超えは容易ではありません。

それでも1999年11月には5速MT車で35.0km/Lを叩き出し、プリウスの215万円に対し5万円安い210万円で発売、プリウスが燃費を上げれば改良で上回り、最後はモデルチェンジした2代目プリウスすら凌駕しました。

もっとも実用性がほとんどない「燃費スペシャル」だった初代インサイトですが、2代目や2022年末まで販売した3代目がフツーの実用ハイブリッドセダンだったのに比べ、「打倒プリウス」でわかりやすいクルマだったと思います。

このままなら面白かったがコンセプトカー止まりだったJ-VX

ホンダミュージアムにも誇らしげに展示されている初代インサイトは、車重820kgとあるのでスポーティな5速MT車

初代インサイトの原型で、東京モーターショー1997へ展示されたコンセプトカー、「J-VX」は、その年の12月に発売されたトヨタの初代「プリウス」とはまた異なる、「ひと味違うホンダらしいハイブリッドカー」として注目を浴びました。

ホンダは公害対策エンジンCVCCでその名を轟かせ、1990年代に入ってもULEV仕様シビックを販売したり、EVプラスというBEV(純電気自動車)を北米でリース販売したりと環境対策には熱心な一方スポーツ性にも熱心で、環境とスポーツ性能の両立がテーマ。

J-VXも単なるハイブリッドカーではなく、コンパクトな軽量アルミボディへ1リッター直噴VTECエンジンを搭載、アシストモーターの駆動はバッテリーではなくウルトラキャパシタという、ある意味先進的すぎて現在でも大規模に使われていない技術を使っていました。

それでもJ-VXは4人乗り、実質的には2+2シーターだと思いますが、実用性と経済性(燃費性能)、走行性能を高い次元でバランスさせた、面白いエコカーだと強い印象を残します。

ただし実際はあくまでショー向けのコンセプトカー、いわばハリボテも同然であり、市販車はもっと現実的な技術を用いて開発が進んでいたものの、思ったように燃費が伸びずにかなり苦労していたようです。

アレコレ試すも伸びない燃費、風洞で缶詰のデザイナー

後輪をスパッツで覆う涙ぐましい姿は、まさに「超燃費スペシャル」

2つのモーターを緻密に制御するスプリット式ハイブリッドシステム「THS」を使うトヨタに対し、ホンダはモーターアシストと回生ブレーキを兼ねた1モーター式のシンプルな「IMA」と呼ばれるシステム。

ザックリ言えば通常のエンジンと駆動伝達系の間に薄型アシストモーターを組み込み、必要に応じてアシスト/回生によるバッテリー(結局ニッケル水素バッテリーになった)と電気のやり取りをする仕組みです。

初代インサイトの頃はまだ全気筒休止が可能な「VCM」採用前だったので、アイドリングストップ時以外は常時エンジンが駆動し、EV走行はしないのでエンジン効率も大事。

そこで1リッター3気筒SOHC VTECエンジン「ECA」では直噴も試されましたが、日本ではともかく北米やヨーロッパの日本より高速の走行環境では思ったような燃費低減効果が得られず、普通のポート噴射へ。

ならば現在の日産e-POWERやダイハツe:smartのように、通常はモーターだけで走り、必要に応じてエンジンで発電した電気も使うシリーズハイブリッドも試しましたが、出力を求められる場面では結局エンジンをうならせねばならず…と、うまくいきません(※)。

(※現在、ホンダがシリーズハイブリッドに近いものの高速巡航でエンジン駆動を使う3モード式のe:HEVを使っているのも、この時の経験からだと考えられます)

結局、加速時アシスト、減速時回生用のモーターを組み込み、エンジンを高効率で使い切る市販型IMAに行き着いたのは1996年頃だったらしく、さらに「目標を達成するまで出てくるな」と、文字通りデザイナーを風洞に缶詰にして空気抵抗低減を図りました。

やった!プリウス超えの超低燃費!実用性は知らないけど!

前から見ると普通にコンパクトカーだが、ボディ後ろ半分はほとんどバッテリーでラゲッジスペースはかなり底が浅い

こうして1999年11月に発売された初代インサイトは、J-VXをマイルドにしたようなデザインと、空気抵抗を極限すべくスパッツを履かせてほとんど隠れた後輪、かつてのスポーツクーペCR-Xを思い出させるような3ドアファストバックのクーペとなっていました。

わずか820kg(5MT車)の軽量に抑えた車重と、空力性能も頑張った甲斐があって10・15モード燃費は28.0km/Lのプリウスをはるかに上回る35.0km/L!(5MT車。CVT車でも32.0km/L)

しかも構造上、プリウスのTHSのように動力分配機構で擬似的な無段変速を行うのではなく、純ガソリン車と同じ変速機を組み込めたので、イージードライブ用のCVTだけではなく5速MTも設定、後のCR-Zへ続くスポーツハイブリッド的な走りも可能です。

ただし実用上は究極の「燃費スペシャル」、前席はともかくJ-VXでは狭くとも存在した後席は消え失せ、リアへ巨大で35kgもあったニッケル水素バッテリーを積んだ上のラゲッジは非常に底が浅く、小さなアンダートレイも含め、荷物はあまり積めません。

形は2+2シータークーペっぽいものの、中身は純然たる2シーター燃費スペシャルクーペで、ホンダ開発陣はこれを「燃費レーサー」と呼んでいたようです。

小さいながらも5人乗りで独立トランクもちゃんとある4ドアノッチバッククーペだった初代プリウスに対し、実用性については思い切って割り切った恰好であり、最大乗車人数で割った実用燃費では褒められませんが、ともかく燃費No.1は達成しました。

さらにそこからがまた「執念の打倒プリウス!」で、プリウスが2003年9月に2代目へモデルチェンジ、燃費スペシャルグレードの「S」で35.5km/Lを叩き出すと、2004年10月の改良で36.0km/L(5MT車)となり逆転!

2006年8月に販売終了するまで、燃費No.1の座を譲らなかったのです。

JAF登録車両にならずモータースポーツに無縁なのが惜しい

ジムカーナやラリーで走らせたらと興味は尽きないが、JAF登録車両ではないので全日本選手権など上級イベントに出られないのは惜しかった

初代インサイトは東京~鹿児島無給油走行チャレンジで1,300kmを走りきり、仮に40L燃料タンクを使い切ったとしても32.5km/Lの実燃費を叩き出す低燃費ぶりでしたが、他にも1リッターVTECエンジンとモーターアシストによる走りの良さも称賛されました。

サスペンションの熟成不足や、リアの重いバッテリーによる重心位置最適化が今一つという声もありましたが、総じて「スポーツカーのような走りだ!」という声は多く、モータースポーツ、それも超短距離タイムアタックのジムカーナで走れば面白そうです。

実際、全日本ジムカーナ選手権には排気量1リッター未満でヴィッツやマーチなど1リッター自然吸気コンパクトカー、ダイハツ ミラTR-XXなど550cc軽ターボが出場できる「N1クラス」が2003年に作られたものの、インサイトの姿は見られませんでした。

全日本戦、あるいは地方戦に出場するために必要な「JAF登録車両」へ登録していなかったからですが、もしインサイトが登録されていれば、出場していたかもしれません。

もっとも、後年CR-Zが出場した時は「1分程度のコースでも繰り返す全開加速に回生が追いつかず、途中からバッテリー切れでヘロヘロになっていた」という実例もあるので、本当に活躍できたかはわかりませんが。

※この記事内で使用している画像の著作者情報は、公開日時点のものです。

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執筆者プロフィール
兵藤 忠彦
兵藤 忠彦
1974年栃木県出身、走り屋上がりで全日本ジムカーナにもスポット参戦(5位入賞が最高)。自動車人では珍しいダイハツ派で、リーザTR-ZZやストーリアX4を経て現愛車は1989年式リーザ ケンドーンS。2015年よりライタ...

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