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スリップストリームとは?燃費や速度への影響は公道でも存在するのか?

大気中を移動する物体は常に空気抵抗を受けていますが、この抵抗を少なくするため前走者の後方に後走者がつき、風除けとして使うことで加速エネルギーの温存や燃費性能の向上を受けようとするのがスリップストリームです。モータースポーツの世界では古くから利用されているスリップストリームを速度や燃費への影響や、公道での利用の可否を含めてスリップストリームを解説します。

スリップストリームとは

大気中を移動する物体は常に空気による抵抗を受けています。
この抵抗、すなわち空気抵抗は低速域では限定的なものになり、例えば人間が徒歩で移動中にはほとんど感じることがありません。
しかし、空気抵抗は相対速度の2乗で増えて行くため、ある程度の速度になると急激に抵抗が強まり、加速のエネルギーの多くが空気抵抗に打ち勝つのに費やされて、結果として速度が制限されて頭打ちとなります。
この状態のときに物体の後方では前方で空気が押しのけられた分、気圧が低下します。
そこでは螺旋状の空気流が発生することで後方の空気や物体を吸引する効果を生み出すほか、空気抵抗も通常よりも低下した状態となります。
この状態のことをスリップストリームと言います。

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スリップストリームとスポーツ競技

スリップストリームはスピードを競うさまざまな競技で利用されています。
マラソンや駅伝などの長距離走では、前走者を風除けに使うことで体力の消耗を防げることが広く知られていますし、自転車のロードレースでは選手の疲労がひとりに偏らないように、走行グループごとに各チームが協力して先頭交代が行われるほか(各チームのエースは先頭選手交代に加わらず温存されますが・・・)、同チームの選手が一列に並んで走行する「トレイン」が行われています。

モータースポーツ

デイトナ・インターナショナル・スピードウェイ NASCARレース

©everystockphoto.com/ soldiersmediacenter

超高速域で競われるモータースポーツの世界では、古くからスリップストリームをいかに効果的に用いるかが左右する重要なファクターとなっています。
スリップストリームの範囲は高速になるほど広がりますが、モータースポーツが行われる速度域ではある程度接近しないと効果が現れにくく、そのためレーサー同士は競技を競うライバルでありながらも、利用する側もされる側も双方がある種の信頼関係がなければ行えません。

競技におけるスリップストリームのメリットとデメリット

モータースポーツにおけるスリップストリームを利用するメリットは、前走車が風除けとなることで後走車は加速のためのエネルギーを温存することで追い抜きが容易となり、追い抜きの際の負荷も軽減させることができます。
いっぽうデメリットは、空気の薄いスリップストリームから空気圧の高い層への移動すると空気の圧力が急激に変化するため、クルマが不安定になりやすく、また速度によってはスリップストリームの周辺域に後方乱気流が発生するため、抜き去りの際にクルマの挙動が極端に乱れることになります。
モータースポーツで後方のマシンがスリップストリームから出た途端、スピンやコースアウトを喫する場面がしばしば見られるのはそのためです。
また、ラジエターなどの冷却装置の性能が低下するほか、エアロパーツなどの空力部品の性能も満足に発揮されずダウンフォースも低下するなどの欠点もあります。

1999年のル・マン24時間レースでトヨタTS020を追っていたメルセデスベンツCLRの5号車がインディアナポリスのコーナー手前の直線区間で浮き上がり、空中で回転しながらコースアウトした有名な事故は、車両の欠陥だけでなく、前走車のスリップストリームの影響があったものと見られています。

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スリップストリームで速度が上昇?

前述の通り、スリップストリームを利用した場合、後走者は空気抵抗を受けないために加速のためのエネルギーを温存することができ、結果としてパワーの劣る動力で速く走ることができます。

一例を挙げると、ギネスブックに記載されている自転車の最高速度記録は268.831km/h(念を押しますが、自動車ではなく自転車)です。
これは1995年にオランダのフレッド・ロンペルバーグが米国のソルトフラッツ(塩湖)で叩き出した記録です。
この記録は前方に風よけ板を付けたクルマを走らせ、スリップストリームを利用して達成しました。
自転車単独での最高速度記録が132.5km/hであることを考えると、スリップストリームの効果が理解できると思います。

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スリップストリームで燃費が向上するのか?

スリップストリームが空気抵抗を受けず、エネルギーを温存できるというメリットは、速度だけでなく燃費性能向上に役立たせることができます。

それではスリップストリームを使うとどれくらいガソリンを節約できるのでしょうか?
日本でもCS放送局「ディスカバリーチャンネル」で人気を博した『あやしい伝説』(原題「Myth Busters」)の番組企画で実施されたデータがありますのでご紹介しましょう。

時速約90km/hでトラックの後方を乗用車が走った場合の燃費改善率

燃費改善率
車間距離30m11%
車間距離15m20%
車間距離6m 27%
車間距離3m39%
車間距離0.6m28%

この実験によるとスリップストリームを利用した場合、もっとも燃費が改善される車間距離は3mで、じつに40%近い燃費の改善が期待できるとのことです。

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危険な公道でのスリップストリーム

しかしながら、クローズド・サーキットで利用されるスリップストリームは、運転技量の優れたプロのレーサーによって行われるものであり、前走車と後走車の双方がある種の信頼関係がなければ行えないものです。

雑多な車種、さまざまな技量のドライバーが運転する混合交通の公道では、そのような信頼関係を結ぶことはまずできませんし、公道でスリップストリームを使うことは大変危険です。
また、車間距離をスリップストリームの効果が生まれる距離まで詰めることは、最近問題になっている「煽り運転」と見なされ、道路交通法26条「車間距離の保持」違反となり、処罰の対象となることから絶対にやってはいけません。

自動運転時代のスリップストリーム

スリップストリームについてご紹介してきました。

先ほど公道では危険と述べたスリップストリームですが、じつは安全を確保した上で燃費の改善を図るべく、自動運転技術を利用した隊列走行の実験が世界各国で始まっています。

日本ではNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)により、高度道路交通システム(ITS)を使った大型トラックの隊列走行の実験に成功しています。
走行速度80km/h・車間距離制御精度4m・に設定されたこの実験により、空気抵抗の低減の結果、平均約15%の省エネ効果が確認されました。
システムの信頼性向上やインフラ整備の問題が残されており、実用化はまだまだ先になりそうですが、将来的には燃費性能の向上というスリップストリームの恩恵を受けるべく、高速道路を隊列走行するクルマを見ることができるようになるかもしれません。

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この記事の執筆者

山崎 龍この執筆者の詳細プロフィール

1973年1月東京生まれ。自動車専門誌の編集を経てフリーライターに。自動車専門誌を中心に、航空、ミリタリー、映像作品、オタクカルチャー、政治などの 様々なジャンルに寄稿する雑文ライター。 著書に『最強!連合艦隊オールスターズ』『萌えだらけのクルマ選び』(共にイカロス出版)、『「...

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