更新
セルモーターが回らないとどうなる?故障の原因と修理方法・費用
目次
セルモーターとは?
セルモーターとは、エンジンを動かす始動装置です。バイクではセルモーターと呼ばれることが多いのですが、車ではスタータやスターティングモーターなどと呼ばれたりもします。
エンジン始動に欠かせないセルモーターですが、永久的に使うことができるわけではありません。
セルモーターとはどんな装置なのかを分かりやすくお伝えするとともに、故障した場合の対処法をお伝えしていきます。
エンジン始動になぜセルモーターが必要なの?
セルモーターはガソリン車、ディーゼル車、バイクなどエンジンを採用している機器すべてに取り付けられている装置です。
例えば、コマを思い浮かべてください。コマは一度手で回してあげれば後は惰性で回りますよね。この手の役割がセルモーターになります。永遠に回ることはありませんが、基本的な考え方はこれと同じです。
ここでエンジンの話に戻ります。エンジンは「吸入→圧縮→燃焼→排気」この4工程を1サイクルとし、同じ動きを永遠に繰り返しています。
4工程目の排気が終わると同時に、惰性によってピストンが下がり吸入を始めるのです。そのため、サイクル間で外部の力が加わることはありません。
しかし完全に停止してしまうと、外部の力がなければ、エンジンだけではピストンを再び動かすことはできませんそのため、セルモーターを使い強制的にクランクシャフトを回転させる必要があります。
ちなみに、セルモーターがない時代は、手動でエンジンを動かしていました。農機具の一つであるチェーンソーなどは、長い紐を引っ張ることでエンジンをかけますよね。この工程を電動で行ってくれるのがセルモーターです。
セルモーターの仕組みと種類
セルモーターの仕組み
セルモーターの中にはモーターが入っており、スタートボタンやカギを回すとモーターが動きます。そして、小さいギアが飛び出す仕組みになっています。
飛び出した小さいギアは、クランクシャフトとつながっているリングギアと呼ばれるギアと噛み合います。リングギアとはフライホイールの外周にあるギアのことです。
そのギアをセルモーターによって強制的に回すことで、クランクシャフトを回転させます。クランクシャフトが回転すれば、セルモーターがなくてもエンジンは回転し続けるという仕組みです。
ガソリンなどの燃料を動力としているエンジンと違い、セルモーターは電気を動力源としています。そのためバッテリーから直接電力をもらうことでモーターを回します。このように、軸になる動力源もエンジンとセルモーターでは異なります。
セルモーターの種類
直結式
直結式のセルモーターは、モーターの回転をそのままピニオンギアに伝える仕組みになっています。複雑な装置がないため、構造は単純です。
しかし、クランクシャフトを回すためには大きな力が必要なので、どうしてもサイズの大きいセルモーターになってしまうデメリットがあります。
リダクション式
リダクション式のセルモーターは、減速ギアを使いピニオンギアと呼ばれる、リングギアと噛みあわせるギアに力を伝えます。つまり、小さなギアを複数組み合わせることによって、小さな力を大きな力に変換しているのです。
現在の車ではリダクション式が主流になっています。
複数のギアをかみ合わせているので、構造は少し複雑ですが、モーターのサイズを小さくできる点がメリットです。セルモーター本体も小さくでき、なおかつ直結式よりも大きなトルクを生み出すことができます。
セルモーターが回らない場合に考えられる原因3つ
セルモーターの故障
当然、セルモーターが故障すれば動きません。一口に故障といっても、故障の種類はさまざまです。最も多い原因に、ブラシの摩耗があります。ブラシとは、モーターであるコイル部分に電気を流すためにあるパーツです。
ブラシがコイルに接触することで、電気を流します。そして振動や回転によって摩耗し、コイルと接触しづらくなります。これにより、コイル部分に電気が流れずセルモーターが動かないといったトラブルが発生するのです。
ブラシの摩耗は故障というより摩耗や劣化に該当します。動かなくなるという意味合いで故障の項目にて説明していますが、長年セルモーターを使っていればブラシの摩耗以外の原因で故障することも当然あります。
セルモーターは永久的に使えるパーツではありません。長年使い続けていれば劣化や摩耗などにより不具合が発生します。そのため、完全に壊れる前に交換するようにしましょう。
バッテリー上がり
セルモーターが動かなくなる一番の原因がバッテリー上がりです。仕組みの項目で触れたように、セルモーターは電気を動力源としています。そのため、電気が供給されなければ動きません。
セルモーターはLEDランプなどと違い、多くの電力を必要とする装置です。そのため、バッテリーの劣化で電圧が下がりかけている場合でも始動性が悪くなります。
この場合、セルモーター自体に問題はないので、バッテリーを充電もしくは交換すれば解決します。バッテリー上がりは真冬や真夏などに起こりやすいトラブルです。
そのため、何年もバッテリーを変えてないなと感じているのであれば、春や秋など季節の変わり目にあらかじめ交換するようにしておきましょう。
イグニッションスイッチの故障
イグニッションスイッチの故障でも、セルモーターが動かなくなります。イグニッションスイッチとは、エンジンをかけるためのスイッチです。
現在の車はプッシュスタートがメインになりましたよね。さあ車で出かけようと思い、車に乗り込みエンジンをかけるとき、ハンドルの右が左に設置されたエンジンスタートボタンを押すと思います。
そのなかに入っているスイッチがイグニッションスイッチです。キーを差し込んで回すタイプにもイグニッションスイッチは搭載されています。
ボタンを押したりキーを回すことで、スイッチが入りバッテリーの電流をセルモーターに伝えます。そのためが接触不良や断線など、なんらかの理由でイグニッションスイッチがオンにならなければセルモーターは動けないのです。
年式の古い車や走行距離の多い車であれば、故障している可能性も十分に考えられます。自分自身で原因を突き止めるのは難しいので、整備工場で診断を受けるようにしましょう。
エンジンがかからない場合に確かめるべきこととは?
セルモーターが動かなければエンジンはかかりません。しかし先ほどお伝えしたように、エンジンがかからない=セルモーターの故障というわけではありません。
エンジンがかからない場合、以下の3つの項目を確認しておくことで、なにが原因なのかをある程度予測することができます。
確認項目 | 考えられるトラブル原因 |
セルモーターが回っているけどエンジンがかからない | ガス欠、スパークプラグ、イグニッションコイルなどの故障 |
セルモーターが回らず、カチなどの音がする | バッテリー上がり、セルモーターの故障 |
シフトはPに入っているか?ハンドルロックはかかっていないか? | 始動条件を満たしていない |
①セルモーターが回っているか?
セルモーターが回っているのにエンジンがかからない場合、ガス欠やスパークプラグの故障などが考えられます。
セルモーターが回っているかを確認するには、始動時の音を聞くことが大切です。エンジンをかける際「キュルキュル」など、何かが高速で回っているような音がいつもしていると思います。これが、セルモーターの音です。
そのため、キュルキュルという音はするけどエンジンがかからない場合、セルモーター以外の原因が考えられます。しかし、セルモーターの回転が遅ければ、セルモーターが弱っている可能性も十分にあります。
セルモーターが回っている音は聞こえるけどエンジンがかからない場合、ロードサービスなどで整備工場へレッカー搬送してもらいましょう。
②「カチ」などの音があるのか?
スタートボタンを押して「カチ」などの音が出ている場合、セルモーターの故障も考えられますが、バッテリー上がりの可能性が高いです。カチッという音しか出ていないということは、セルモーターを動かせていないということです。
つまり、セルモーターを動かすだけの電気が伝わっていないと考えられます。バッテリーの電圧が下がり、バッテリー上がりを起こした車ではセルモーターを動かす力はありません。
先ほどもお伝えしましたが、セルモーターを動かすためにはたくさんの電気が必要です。そのため、スタートボタンを押しているのにセルモーターが回らないことが分かれば、まずバッテリー上がりを疑いましょう。
しかし、セルモーターが回っていないからといって必ずしもバッテリー上がりというわけではなく、あくまでも可能性の一つであることは覚えておいてください。
セルモーター自体の故障もしくはセルモーター内の電気回路が故障している、バッテリーとセルモーター間の配線が断線している、ヒューズが飛んでいるなどの可能性もゼロではないのです。
もしバッテリー上がりだった場合、他の車からジャンピングスタートして一時的にエンジンをかけることもできます。
③エンジン始動の条件に当てはまっているのか?
車のエンジン始動の条件に当てはまっていない場合でも、エンジンをかけることができません。例えば、シフトレバーが「P」に入っていない、ハンドルロックがかかっている、MT車であればクラッチペダルを踏んでいないなどです。
意外と見落としがちですが、基本的な操作ミスでエンジンがかからないことも少なくありません。いつも無意識でしている行動だからこそ、トラブルになった際は基本的なことを確認するようにしましょう。
セルモーターの音が弱い場合は故障の前兆かも
劣化によるセルモーター故障の前兆として、セルモーターの音が弱くなるという症状が現れます。「以前よりエンジンをかけるまでの時間が長くなった。」このような症状が出ている場合、セルモーターが故障する前兆かもしれません。
バッテリーの電圧が低い状態でも、エンジン始動がもたついたりするので、100%セルモーター故障の前兆とはいえませんが、故障の前兆である可能性も十分にあります。具体的には以下などです。
- キュッキュッキュルキュルなど、不規則な始動音がする
- キュルキュル音が長い
- キュルキュル音が弱々しい
もしエンジン始動がもたつくなと感じた場合、トラブルに発展する前に整備工場で原因を突き止めてもらいましょう。
セルモーターを叩くと直るってホント?
動かなくなったセルモーターを叩くことで、一時的に復活させることはできます。ただし、この方法で動くようになったとしても、故障が直っているわけではありません。また、叩いて復活しない場合もあります。
では、なぜ叩くことで一時的に動くようになるのでしょうか。例えばセルモーターの故障の項目でお話ししたブラシの摩耗であれば、叩いて動くようになる可能性があります。叩くことであたり具合が変わり、一時的に電気の通り道ができるからです。
何度もいいますが、この方法は応急処置でしかありません。整備士では故障診断するためにこの方法を使用することがあります。一時的に動いたとしても、故障が直っているわけではないので注意しましょう。
- 執筆者プロフィール
- 山北吏(つかさ)
- 1989年生まれ。現役整備士(整備士3級)webライター。webライター歴は1年半。愛車はインプレッサ(GH8)。車に乗るなら絶対MT!実家が田舎だったこともあり山道は得意!整備士として働き始め3年目。前職は輸入業...