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ヤン車あるある・鬼キャンとは?車検は通る?カスタム方法や事故の危険性を解説
鬼キャンにする目的やサスペンション形式ごとのやり方、デメリットについて解説します。タイヤが極端なハの字に取り付けられる鬼キャンは、車検に通らない恐れがあるほか、事故の危険性も高めます。「ダサい」「カッコいい」の賛否両論がある鬼キャンにする前に、正しい知識を身に着けておきましょう。
鬼キャンとは?
鬼キャンとは「鬼のようなネガティブキャンバー」の略した言葉であり、車を正面から見た際に極端なハの字型になるよう調整するホイールアライメントセッティングのことを指します。
本来は、コーナリング時のタイヤグリップ向上のために用いられるアライメントセッティングを、車高を下げた際のタイヤとフェンダーのクリアランスを確保するために用いることが現在の鬼キャンセッティングです。
そもそも、キャンバーって何?
キャンバーとはホイールアライメントの一種であり、鉛直方向のタイヤ取付角度を指します。直立をゼロ基準として、車体内側に向けて倒す場合にはネガティブキャンバー、外側に倒すことをポジティブキャンバーと呼びます。
ポジティブキャンバー
ポジティブキャンバーとは、車両を正面から見た際に逆ハの字のように傾いていることをいいます。まだパワーステアリングがなかった時代には、ステアリングの重さを軽減させるために逆ハの字を描くポジティブキャンバーにセッティングされることもありました。
しかしパワステが備わる現在の車は、ネガティブ方向に1度ほど寝かせてセッティングされることが一般的です。
ネガティブキャンバー
タイヤがハの字に取り付けられるネガティブキャンバーは、本来コーナリング性能を高めるためのレース用アライメントセッティングです。
車が曲がる際は、速度が高いほど遠心力で車全体が傾きます。旋回時にタイヤの接地面積が最大になるように、あらかじめアライメントをネガティブキャンバーにセッティングしておくことで、コーナリング時に荷重がかかる外側のタイヤグリップを向上させられることがネガティブキャンバーのメリットです。
その代わり、過度なネガティブキャンバーは、直進時はタイヤの内側のみが接地することになるため、タイヤの内側だけがすり減ってしまう偏摩耗を起こしやすく、直進時の絶対的なタイヤグリップは低下します。
スポーツ走行をする車でもキャンバー角はせいぜい2度から3度です。鬼キャンと呼ばれる車は少なくとも5度以上のネガティブキャンバーにセッティングされるため、明らかにタイヤが傾いて見えます。
鬼キャンにする方法
鬼キャンにする方法は車のサスペンション形式によって異なります。また、鬼キャンのしやすさもサスペンション形式によって変わってきます。
ダブルウィッシュボーン式を鬼キャンにするには?
上下にサスペンションアームを持つダブルウィッシュボーンやマルチリンクなどは、アッパーアームを極端に短いものへと変えることで鬼キャンにできます。
ストラット式を鬼キャンにするには?
アッパーアームをショックアブソーバーが兼ねるストラットの場合は、ショックアブソーバーの長さや取付角度を変えることで鬼キャンにします。
トーションビーム式を鬼キャンにするには?
アライメント調整ができないトーションビームなどの形式は、アームとハブを繋ぐ部分に特殊なスペーサーを挟んだり、角度を付けて溶接し直すことで極端なネガティブキャンバーにします。
ただし、いずれの方法も設計とは想定外の力が加わり、サスペンション機構やハブベアリングの破損や走行安定性の低下が懸念されます。鬼キャンにする場合はノウハウを持ったプロに任せることをおすすめします。
鬼キャンの車検での注意点
鬼キャンであっても、タイヤがフェンダーからはみ出していなければ車検には通ります。ただし、鬼キャンと呼ばれるほどのキャンバーセッティングは、走行安全性を確保できないものとして検査員の判断により車検不合格とされる場合があります。
キャンバーの保安基準は?
キャンバー自体に保安基準の規定はなく、ホイールの中心部から上前側30度、後側50度の範囲において回転部分がフェンダーからはみ出ていなければ車検には通ります。つまり、鬼キャンにしてどれだけタイヤの下側がはみ出ていようとも、キャンバー角自体は指摘されることはありません。
ただし鬼キャンの車はキャンバー角そのものではなく、最低地上高やサイドスリップ値の異常により車検に通らない場合がほとんどです。また、サスペンションアームの交換や加工を施した場合は、構造変更手続きや強度計算書の提出が求められます。
鬼キャンのデメリット
鬼キャンにメリットはありませんが、以下のようにデメリットはたくさんあります。
- 轍(わだち)などでハンドルが取られやすくなる
- タイヤの接地面積が減少するため、加速時はタイヤが空転しやすく、減速時は制動距離が伸びる
- タイヤ内側だけが異常に早くすり減る
- サスペンションストロークが短くなるため、乗り心地が悪化する
- サスペンションアームやハブベアリングなどの部分に負担が掛かり、定期的なメンテナンスが必要になる
- サスペンションが正常の動作しないため、衝撃を吸収できず車体の寿命が短くなる
このような理由から鬼キャンは「百害あって一利なし」といわれています。また、違法改造車に該当する場合は、警察の検挙対象になります。
ドリフト走行時のタイヤグリップ確保とカウンターステア時のアライメント調整のために鬼キャンにされることもあるものの、車の性能や走行場所にそぐわない過度なキャンバーセッティングはデメリットにしかなりません。
鬼キャンの事故の危険性
鬼キャンはタイヤの摩耗や破損だけでなく、車の各部にも大きな負担をかけます。場合によっては走行中にパーツが損傷して重大事故に発展しかねません。
鬼キャンの状態は、サスペンションアームが設計とは異なる動きをするのはもちろん、ハブベアリングには想定外の方向から力が加わるため偏摩耗を起こしやすく、すぐにガタガタになりホイールが脱落する危険性も高まります。
また車高が低くなるため下回りを破損しやすく、マフラーはおろか車体にダメージを与える恐れがあるほか、鬼キャンと引っ張りタイヤの組み合わせはタイヤのビード落ちも引き起こしやすくなります。
鬼キャンの車に乗るのであれば、十分に注意を払った運転と定期的なメンテナンスは必須といえるでしょう。
鬼キャンにする前にじっくり検討を
鬼キャンで検挙された場合は、道路運送車両法第99条の2に基づく不正改造車として6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。また、自動車任意保険も適応外となり保険金が支払われない場合があります。
それどころか、タイヤバーストやホイールの脱落によって周囲を巻き込む事故も起こしかねません。鬼キャンへの改造の前には、本当に必要であるかをよく考えてから実行するようにしましょう。
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- 執筆者プロフィール
- 伊藤友春
- 1981年生まれ。自動車専門Webライターとして執筆活動中。自動車の構造に明るく、ほとんどの整備や修理をDIYでこなす。輸入車・コンパクトカー・変わったデザインやコンセプトの車が好きで、現在の愛車はその最た...
- 監修者プロフィール
- 鈴木 ケンイチ
- 1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレー...