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見た目はカワイイけど…「露骨に貧乏くさい国民車」で悲惨だった三菱500【推し車】

フィガロみたいに見えないこともない60’sカー、三菱500

後の日産パイクカー、フィガロと似ていなくもないフロントマスクの三菱500

パッと見ではだいぶ古臭いクルマに見えて、1960年に三菱が戦後初めて、フルオリジナルとしては創業以来初めて生産・販売した乗用車ですから、実際かなり古いのですが。

トヨタ博物館に展示されている「三菱500」を見ると、日産がK10マーチをベースとして1992年に発売したパイクカー、「フィガロ」に何となく似ているような気がします。

すぐに700〜1,000cc級の小型乗用車が出てくるタイミングでは中途半端なクルマでしたが、愛嬌のある丸っこいデザインは親しみが持てますし、今走っていたらカワイイと思うかもしれません。

三菱初のフルオリジナル乗用車

トヨタ博物館に展示されているのは594ccに排気量アップして、(これでも)いろいろと豪勢な1961年式の「スーパーデラックス」

1919年、当時の三菱造船(株)神戸造船所で製作した日本初の国産量産乗用車、「三菱A型」の販売実績があるとはいえ、その後の三菱は軍用自動車の試作実績がある程度。

トヨタや日産、いすゞのようなトラックやバス、大型乗用車メーカー、ダットサン(日産)、オオタ、ダイハツ、マツダのような小型車メーカーになるでもなく、自動車メーカーとしてはどちらかといえば、戦後の後発組です。

それも日本を占領したGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の命令で三菱重工が分割、自動車メーカーとしてはアメ車のヘンリーJを生産する東日本重工業(後に三菱日本重工業)、3輪トラックやジープを生産する中日本重工業(新三菱重工業)として出発します。

このうち新三菱重工業が初めて独自開発した乗用車が三菱500で、リアに積んだ空冷2ストローク直列2気筒493ccエンジンに横Hパターン3速MTを介して後輪を駆動する、4人乗りの2ドアセダンでした。

元になったのは、通産省の「国民車構想」

横からは後ろヒンジの前開きドア、空冷リアエンジン、「デラックス」追加時に設定されたホワイトリボンタイヤがわかりやすい

三菱500の構想元になった出来事は、1955年に通産省(通商産業省・現在の経済産業省)自動車課で作られた草稿が半ば意図的にリークされ、日本経済新聞などがスクープした「国民車育成要綱」、通称「国民車構想」でした。

その内容をザックリ書くと、「4人または2人+100kg以上の貨物を乗せて、60km/h定地走行燃費30km/L、最高速100km/h、オーバーホールなしで10万km走り、月産2,000台なら15万円で作り、25万円で売るなら国がいろいろと補助するよ。」というものです。

1955年当時のサラリーマン平均年収は20.8万円ですから、当時25万円のクルマとは2022年の平均年収で考えると約532.5万円に相当し、安くはないものの、頑張ってローンを組めば何とかなりそうな気もします。

ただ、原価率6割で開発・生産から販売・サービス網の維持や広報宣伝まで全部やって、残り4割で従業員の雇用を守って新型車の開発までやれ、というのはメーカーにとってムチャな話です。

そもそも草稿を作った側も「アメリカじゃ原価率5割なのは知ってるけど、30万円じゃ高いから25万円」というノリだったので説得力に欠けますが、新三菱重工業も含め、いくつかのメーカーは「お上が言うからにはやってみよう」と動きました。

構想には及ばないとはいえ、ギリギリまで詰めた性能と価格

「スーパーデラックス」なので、ワイパーがちゃんと左右2本ある(スタンダードとデラックスは運転席側のみ)

当時の新三菱重工業では、占領中に研究まで禁止されていた飛行機の技術者は余っていたものの、自動車、それも小型4輪乗用車については素人もいいところでした。

それでも何とか目標に近づこうと、軽自動車並の車重490kgに抑えた軽量モノコックボディ、最高出力21馬力とはいえ低回転からのトルクが有利な2ストロークエンジンで公称最高速90km/h、30km/h定地走行燃費30km/Lと、なかなか上等な性能です。

キャビンの後席は大人2名にはちょっと狭いですが子供なら十分、リアエンジンでフロントもスペアタイヤと燃料タンクが占めているものの、後席とエンジンの間に荷物入れがあり、家族4人のファミリーカーとして一応は実用的といえます。

後席を倒せば背後の荷物入れと含め150kg程度の荷物を載せる事も可能で、運転席・助手席ともに前方に倒して後席の乗降を容易にする仕組みと合わせれば長尺物も積めそうなど、少しでも多用途に使おうと工夫されました。

価格は39万円で「国民車構想」の25万円には遠く及ばないものの、スバル360が1958年デビュー当時に42.5万円、1960年に価格を引き下げても39.8万円でしたから、それより大排気量で性能も上回った車としては、だいぶ頑張ったと言えます。

ただしそのためには装備面ですさまじい簡素化を強いられ、なんと初期型には左右Bピラーにウィンカー兼ブレーキランプがつくのみ、前後ウィンカーランプはもちろんリアはブレーキランプすらなくノッペリしており、メーターは速度計のみでヒーターもなし。

後にちゃんと前後ウィンカー(リアはブレーキランプ兼用)がつくなど改善されるものの、ファミリーカーとしてはあまりにスパルタンでした。

排気量拡大と、幻の「三菱600」

デラックスとスーパーデラックスには三角窓がつき、走行風を効果的に取り入れられるようになった

1960年4月発売当時はそれなりに画期的な国産小型乗用車だった三菱500ですが、翌1961年6月には697ccと排気量が大きく28馬力とハイパワー、最高速も110km/h出せるのに、価格も1,000円安い38.9万円の初代トヨタ パブリカが発売されてしまいます。

この初代パブリカ初期型も、ちょっと性能がいいくらいで内外装は貧相そのもの、貧乏だと走って宣伝するようなクルマで、後に装備を充実した「デラックス」追加、ビッグマイナーチェンジで排気量拡大とデザインも一新したほど売れなかったクルマです。

ましてやもっと貧相な三菱500が売れるわけもなく、発売半年後の1960年10月にはせめて外気を効率良く入れようと三角窓を追加、装飾にサイドモールやホワイトリボンタイヤを加えた豪華グレード「デラックス」を追加、ブレーキランプやウィンカーもマトモになります。

さらに1961年には排気量を594ccへ拡大して最高出力も25馬力へ上がり、乗車定員も5名に増えた「スーパーデラックス」を追加。

この三菱500スーパーデラックスが1962年のマカオグランプリへ出場、クラス1~3位を独占したものの、まだ第1回日本グランプリ(1963年)の開催前で、レースでの活躍が積極的に宣伝へ使われる以前の話ですから、販売拡大には結びつかなかったようです。

なお、スーパーデラックス追加時には「三菱600」と名付ける予定でカタログや広告も作りますが、発売直前になって上層部から車名変更の許可が下りず、慌てて作り直したという逸話が残っています。

モデルチェンジでコルト・デラックスへ

三菱500は西ドイツのゴッゴモビル風デザインで、コルト600のアウトビアンキ ビアンキーナ風( イタリア )より1世代古い

結局、排気量を上げても販売は振るわず、1962年6月のフルモデルチェンジでデザイン変更や寸法も拡大、スーパーデラックスの594ccエンジンを積む「コルト・デラックス」へ、1963年7月のコルト1000発売後、同年9月には「コルト600デラックス」へと再改名。

しかしこのコルト・デラックス/コルト600デラックスも1965年まででモデルチェンジ、次の「コルト800」はオーソドックスなFR車になり、三菱のリアエンジン小型車もそれっきりで終わってしまいました。

当時はセダン需要の中心が小型タクシーにも使える4ドア車で、小規模事業者や個人事業主向けでも平日は仕事用、休日にマイカーとして使える貨客兼用のライトバンをラインナップしないと話にならず、三菱500のようなRRの2ドアセダン専用車は最初から不利です。

しかも1960年代に入って所得が急激に増加し、「ちょっと頑張ればもっといいクルマが買える」という時代に「露骨に貧乏くさい国民車」では、全く時代に合いません。

さらに税金面で優遇され、車検制度がなく、軽自動車免許で乗れる軽自動車、それも歴史的名車のスバル360が登場しており、ちょっと性能がよくて価格も同等程度ぐらいでは全く勝負にならず、発売した時には時代遅れというなんとも不幸な境遇でした。

※この記事内で使用している画像の著作者情報は、公開日時点のものです。

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執筆者プロフィール
兵藤 忠彦
兵藤 忠彦
1974年栃木県出身、走り屋上がりで全日本ジムカーナにもスポット参戦(5位入賞が最高)。自動車人では珍しいダイハツ派で、リーザTR-ZZやストーリアX4を経て現愛車は1989年式リーザ ケンドーンS。2015年よりライタ...

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