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「王者GT-Rの連勝を止めた」ロータリー実用車の最終発展型 マツダ サバンナ【推し車】

ロータリー実用車の最終発展型、サバンナ

マツダミュージアムに展示されている、12Aロータリー搭載のサバンナGT

他にはコスモスポーツとロードペーサー、日本未発売のロータリーピックアップしかないという、マツダがRX-7以前に作った数少ないロータリーエンジン専用車、「サバンナ」。

レースでは快進撃を続けるスカイラインGT-R(初代KPGC10/PGC10)の前に立ちはだかり、ファミリアロータリークーペ以来の悲願だった「GT-Rの阻止」を成し遂げたロータリーロケットとして知られています。

RX-7でフロントミッドシップのピュアスポーツ路線に転じる以前、高級セダンのロードペーサーを除けば「普通のロータリー乗用車」としては最後発でしたが、スポーツワゴンや少数のみ使用されたライトバンもラインナップする、なかなか愉快なクルマでした。

チョイワル系マスクで迫力満点のマツダロータリー第5弾

迫力満点マスクのフロントグリルには、前期型だとロータリーのエンブレムが輝いていた

コスモスポーツで「(少なくとも西側では)世界初の2ローターエンジンを実用化」という栄冠を手に入れ、ファミリアロータリークーペで現実的な価格の乗用車を高性能化するのに成功、以後、ルーチェ、カペラの高性能バージョンにロータリーを搭載してきたマツダ。

高級モデルのルーチェ/コスモ、ミドルクラスのカペラ、大衆向けコンパクトのファミリア、軽自動車のキャロル→シャンテと車種ラインナップも充実してきた頃で、トヨタや日産に並ぶにはまだ時間がかかるものの、三菱やスバルには差をつけたいところでした。

そうなると、各車種の隙間を埋めてユーザーの細かい要望に応えるのが、セダンやクーペが売れ筋だった当時としては手っ取り早く、少々大柄で重いカペラと、小型のファミリアの間を埋める、パワフルで余裕あるスポーティな4ドアセダン/2ドアクーペが最適です。

いわば同時期に登場したトヨタ カリーナのマツダ版といえるポジションでしたが、他車種と異なり、ロータリー専用車とレシプロエンジン専用車で別な車名として、前者を「サバンナ」、後者を「グランドファミリア」と名付け、1971年9月に発売しました。

セダンとクーペに加え、「スポーツワゴン」やバンも用意

このサバンナGTは2ドアクーペだが、4ドアセダンと5ドアスポーツワゴンもラインナップ

サバンナはロータリーエンジンを搭載するマツダ車の中でも主力車種と位置づけられ、標準となる4ドアセダンと2ドアクーペのほか、発売時からラインナップされていたグランドファミリアバンをベースとしたロータリー仕様も開発。

興味深かったのはそこで「サバンナバン」を作るのではなく、乗用登録の「サバンナスポーツワゴン」を1972年1月に発売したことで、3速ATの追加とともに、ロータリーエンジンを単なる高性能エンジンと位置づけず、優れた実用エンジンとしても売り出す勢いでした。

それにはもうひとつ理由があり、当時アメリカで厳しい排ガス規制として知られる「マスキー法」の強化が決まっており、日本ではホンダが後に初代シビックへ搭載する副燃焼室方式のCVCCエンジンが規制をクリアした環境エンジンとして知られています。

しかし、それ以前からマツダは12Aロータリーにサーマルリアクターによる環境浄化システム「REAPS」を実用化しており、ロータリーエンジンは「高性能で環境に優しい万能エンジン」としても売り出し中だったのです。

セダン、クーペに加えて実用的なワゴンも「スポーツワゴン」として売り出せたのはロータリーの高性能&環境両立イメージのアピールに打ってつけだったと思われますし、1980年代後半から日本でも盛んになるスポーツワゴンブームの先駆けとも言えました。

なお、商用登録の「サバンナバン」も実は作られており、発売こそされなかったものの数十台が登録され、主に広島を中心に公用車として使ったらしい形跡があり、現在でいう水素燃料のFCV(燃料電池車)などと同じ、環境対策アピール車だったようです。

レースではカペラに続く「打倒GT-R」の本命馬

レースでワークス参戦末期の初代スカイラインGT-Rに引導を渡したのが、この12A搭載サバンナGTで、海外名と合わせたレース出場名「サバンナRX-3」としても知られる

さすが「未来のエンジン」ともてはやされたロータリー、環境対策もバッチリと感心するだけではもちろん終わらず、サバンナには高性能ロータリースポーツとして、レースで当時無敵に近い実績を上げていた初代スカイラインGT-Rを攻略する役目もありました。

コスモスポーツやファミリアロータリークーペで海外の耐久レースを中心に参戦、ロータリーエンジンの高性能と耐久性のアピールに専念していたマツダですが、海外情報が容易に入手できなかった当時、「国内レースに出ないのは負けるからでは?」という陰口も。

そこで結成されたマツダロータリー軍団でしたが、当初の主力ファミリアロータリークーペは軽量コンパクトのメリットで直線こそ速かったもののコーナリング限界が低く、直線でブチ抜いたGT-Rにコーナーでアッサリ抜き返される直線番長ぶりで苦戦。

続いて登場したカペラは大柄で重く、どうも「帯に短しタスキに長し」というか、うまく噛み合いません。

それでもサバンナ発売以前の1971年7月には富士1000kmレースで総合3位、T3クラス優勝を収め、総合6位、T3クラス2位のGT-Rを抑えると、8月の富士500kmレースではGT-R軍団を振り切り総合優勝を収めるなど、カペラロータリークーペが打倒GT-Rを果たしました。

よく言われる「サバンナがGT-Rの連勝を止めた」の真実は案外こんなものですが、既に限界が見えていたカペラに対し、これからが楽しみな存在といえるサバンナクーペのデビューに、いよいよ「常勝GT-R」から「常勝ロータリー」へと本腰を入れます。

当初10Aロータリーでの参戦のため、カペラに遅れを取る事もあったサバンナクーペですが、次第に戦闘力を増して勝利するようになり、排気量アップした12Aを積む本命の海外名RX-3、日本名「サバンナGT」(1972年9月発売)が登場すると、完全に形勢逆転。

ワークス参戦の末期を迎えていたGT-Rを完全撃破し、「常勝サバンナ」の時代を迎えました。

最後のロータリー・ツーリングスポーツ

最後のロータリー・ツーリングスポーツとなったサバンナGTだが、その魂はピュアスポーツのRX-7や8に受け継がれ、レンジエクステンダーEV用発電機として新たな役割を得ようとしている

しかしよく知られているように、レースでの活躍とは裏腹にロータリーエンジンの、そしてマツダの命運も尽きようとしていました。

マスキー法をクリアした環境エンジンとしてもてはやされたのも束の間、第1次オイルショック以降のガソリン価格高騰で自動車はパワーより省エネ志向が高まりますが、環境対策ロータリーの要であるサーマルリアクター方式に問題がありました。

簡単に言えば、NOx(窒素酸化物)の排出が少ない代わり、HC(炭化水素)の排出が多いのをサーマルリアクターでの再燃焼によりHCを浄化する仕組みでしたが、再燃焼にも燃料を使うため、元からハイパワー車並の燃費がさらに悪化してしまったのです。

ついには主要市場のアメリカで「ロータリーエンジンは大排気量V8エンジンより燃費が悪い」と断じられてしまい、燃費改善のためさまざまな手を打ったものの悪評を覆すのは難しく、サバンナのような「普通の実用車用エンジン」としての未来は閉ざされてしまいます。

そのためサバンナはレシプロエンジン版のグランドファミリアともども一代限りで終了しますが、その名は1978年に発売された新たなFRピュアスポーツ、「サバンナRX-7」の2代目(FC3S/FC3C)まで残りました。

それ以降、1991年にタクシー向け以外が廃止された5代目ルーチェを最後に実用車のロータリーはなくなりましたが、2023年1月に発表されたMX-30レンジエクステンダーEVが発電用ロータリーを積み、ロータリー搭載実用車が復活しようとしています。

いずれはサバンナのような、ツーリングスポーツ向けのロータリーエンジンも何らかの形で復活するのでしょうか?

※この記事内で使用している画像の著作者情報は、公開日時点のものです。

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執筆者プロフィール
兵藤 忠彦
兵藤 忠彦
1974年栃木県出身、走り屋上がりで全日本ジムカーナにもスポット参戦(5位入賞が最高)。自動車人では珍しいダイハツ派で、リーザTR-ZZやストーリアX4を経て現愛車は1989年式リーザ ケンドーンS。2015年よりライタ...

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