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《日本初の長距離高速巡航車》尻下がりのダンディー「ベレG」いすゞ ベレット1600GT【推し車】
日本初の「GT」
GT(グランツーリスモ)といえば、本来は長距離高速巡航向きの車種を指しますが、それはたまたまレースなどモータースポーツにも向いた性能を持っていたため、日本に限らずスポーツカーであったり、スポーツグレードへ名付けられる事が増えました。
今回は国産車で初めて「GT」を名乗って「ベレG」の名で親しまれ、後にDOHCエンジンG161Wを積むベレットGT typeR(1969年・当初は「GTR」)へと発展、現在はトヨタ博物館で展示されている「ベレット1600GT(PR90型)」を紹介しましょう。
4輪独立懸架もあった尻下がりのダンディー、いすゞ ベレット
社内コードSX、後の「ベレット」は1963年に11月に発売されたいすゞの1,300~1,600cc級2ドア/4ドアセダンでしたが、開発が正式決定した1960年当時のいすゞは、1953年から2代にわたり、英ルーツグループから生産・販売権を得たヒルマンミンクスの生産中でした。
1961年末に完成する予定の藤沢工場では、既に後継車として1962年から大型サルーンのベレルを生産予定でしたが、ヒルマンミンクスの生産終了後(1964年4月)も生産ラインに空きが出ないよう、1963年秋の発表を目指して開発されたのがベレットというわけです。
乗用車需要のほとんどがタクシーだった1950年代と異なり、1960年代には少しずつ個人向けオーナーズカーの需要が出ていた時代だったため、ベレットにはタクシーに求められる耐久性を満たす強固な構造だけではなく、個人ユーザー向けのデザインが求められました。
その結果、低重心でガラスエリアが広く、開放感や視界に優れたクルマとなり、従来のクルマより下部に配されたボディライン後端へ向かって、アウトライン(輪郭)がなだらかにが下がっていく、独特の尻下がりテールデザインとなります。
同時期のブルーバード(2代目410型)では尻下がりデザインで失敗したと言われますが、ベレットでその種の話を聞かないところを見ると、やはりバランスの取れたデザインだったかどうかが重要だったと言えそうです。
4輪独立懸架に加え、オーソドックスなリジッドサスも準備
さらに高速道路も完成する時代ですから、高速巡航の可能な動力性能として、1.5リッターと、5ヶ月遅れで廉価版の1.3リッター、2種の直4OHVガソリンエンジンと、1.8リッターちょくディーゼルエンジンを設定。
そしてハイスピードでも走りきれるロードホールディングに優れた足回りが求められた結果、リアにはスイングアクスル式の独立懸架を採用し、4輪独立懸架を実現したのです。
もちろん、まだ舗装率が低くてガタガタ道の多い日本、それもタクシー向けでは耐久性不足が懸念されますから、1966年のマイナーチェンジではオーソドックスな後輪車軸懸架(リジッドサス)の「Bタイプ」も設定、さまざまな需要に応えました。
後のクラウンなどでもオーナーズカーは4輪独立懸架、廉価版や業務用途では強固なリジッドサスというパターンが長く続きますが、ベレットはそれを1960年代半ばの時点で実現し、当時としては先進的なクルマだったのです。
2ドアクーペの「ベレG」誕生
基本的にベレットは2ドア/4ドアセダンのみ、ピックアップトラックの「ワスプ」とライトバン「ベレットエクスプレス」はコストダウンのためベレットのデザインを採用しただけで、実質的に別な車です(トヨタのクラウン風デザインな「スタウト」と同様の成り立ち)。
初の正統な派生車が1964年4月に発売された2ドアクーペの「ベレットGT」で、前年の全日本自動車ショーで展示された時は1500GTでしたが、市販時には1.6リッター直4OHVエンジンを積む「ベレット1600GT」となっていました。
ルーフが低くコンパクトになったキャビンにより、セダンより全高は40mmも下がり、尻下がりテールはより強調されて、停車している姿からも疾走しているような躍動感を感じさせます。
通常モデルの1.5リッター63馬力から排気量アップ、圧縮比を上げてツインキャブレター化したG160型OHVエンジンは88馬力を発揮。
最高出力は5,400回転、最大トルク12.5kgf・mは4,200回転で発揮し、低中速域からの加速性能に優れたいすゞらしい実戦向きのエンジンで、同時期に登場した「スカG」ことスカイラインGTに対し、ベレットGTも「ベレG」の名で親しまれました。
やや遅れて廉価版の1500GT/1500クーペも設定されますが、人気は1600GTに及ばなかったようで短期間の生産で終わり、後にファストバック版を追加したり、1600GTに代わり1.8リッターSOHCエンジン(115馬力)を積む1800GTも設定されます。
ホットモデルは1969年に発売された、120馬力のDOHCエンジンG161Wを積むベレットGTR(後にGT typeR)で、同クラスのトヨタ1600GT(1967年・110馬力)より動力性能は優れていました。
ベレットといえばこのGTR/GT typeRが有名なものの、レースやラリーでの輝かしい戦績の多くは、ベレット1600GTや、それをベースにしたGTRプロトタイプのベレットGTXによって成し遂げられたものだったのです。
※この記事内で使用している画像の著作者情報は、公開日時点のものです。
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- 執筆者プロフィール
- 兵藤 忠彦
- 1974年栃木県出身、走り屋上がりで全日本ジムカーナにもスポット参戦(5位入賞が最高)。自動車人では珍しいダイハツ派で、リーザTR-ZZやストーリアX4を経て現愛車は1989年式リーザ ケンドーンS。2015年よりライタ...