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「惜しいところだらけ」地道に育ててほしかった遊び車《ホンダ バモスホンダ》【推し車】
むしろ今こそ評価されるべき、遊び心満載のクルマ
発売された時は「ただの変な車扱いで見向きもされず」、しかし後の世で価値観が変わると人気が上がり、「なんでこういう車を今作ってくれないのか」と騒がれる車は、数多くあります。
今回紹介するホンダの「バモスホンダ」もそんなクルマの一台ですが、軍用車両のごときオープントップに幌だけ、ドアもないようなクルマとなると、さすがに実際買う人はそう多くはないでしょうし、そもそも各種装備が義務化された現在の軽自動車として売れません。
それでも、軽自動車登録ながら衝突安全基準が緩い「超小型モビリティ(型式認定車)」として、ビートル(VW タイプ1)のようなフロアシャシーへこのデザインのボディを載せただけのクルマなら、遊びグルマから配送用まで、それなりに需要がありそうですが…。
生まれた時代が早すぎた?異色の軽トラ、バモスホンダ
基本的には、発売された1970年11月当時の軽トラ「TN III 360」をベースにした、ガワ違いのオープンボディ。
後のダイハツ ミゼットIIのように丸目2灯ヘッドライトに挟まれたど真ん中にスペアタイヤを配した、愛嬌あるフロントマスクを除けば軍用車両のように無骨な印象ですが、フロントがストラット独立懸架、リアはド・ディオンアクスルで意外にしなやかな足回り。
一見すると軽トラのオフローダー版かとも感じますが、当時はまだパートタイム4WDすら一般的ではなく、軽自動車の4WDといえば同年デビューのスズキ ジムニー(初代)か、その前身たるホープ自動車のホープスター ON型4WDくらい。
コンパクトクラスでもいすゞ ユニキャブ(1967年)がジープ風ボディながらFR車、初のコンパクト4WD、ダイハツ タフト(初代)の発売が1974年ですし、ダイハツ フェローバギィと同じく、後輪駆動バギー的な軽トラ、と考えた方がシックリくる、それがバモスホンダです。
2人乗りの「バモスホンダ-2」と、後席を持つ4人乗りの「バモスホンダ-4」、乗車部分以外に荷台まで覆える4人乗り「バモスホンダ-フルホロ」の3タイプが用意され、バンボディがなく、原則2名乗車のトラックのみだったTNより乗用では使いやすかったと思います。
一応は軽トラの一種として、発売当時のニュースリリースでも「スピーディなビジネス活動に最適の設計」、「機動性を特に必要とする仕事にピッタリの車」とされたものの、今でいうアウトドア・ギア的なレジャー向けも視野に入れているのは明らかでした。
問題は庶民もマイカーを購入するようになった1970年当時、屋根もドアもないクルマを求めるユーザーは少なく、マニア向けや本格的な業務用オフローダーとしても4WDがないため、「志に対して時代や技術が追いつかないクルマ」だったことです。
後にホンダどころか国産車でも屈指となる、遊び心と実用性を両立したクルマとして評価されますが、発売当時は「これが何をするためのクルマなのかわからない」というのが、正直なところだったでしょう。
レジャー向けなら、キャンバスドアがないのは惜しい
ドアがない代わりに保護用ガードパイプを左右に配し、1950年代半ばまでのオート3輪じみた「一応同乗者用の席はあるけども、転落防止装備は何もない」というほど安全意識は欠落していませんが、それでもキャンバスドア(幌ドア)がないのは考えものです。
現在、シティコミューター的な超小型モビリティの一種として少しずつ人気が出ているトヨタ車体(※トヨタそのものではない)のEVミニカー「コムス」も、キャンバスドアがあってさえ快適性や安全性の面で不満があり、ハードドアの標準装備が熱望されています。
ましてや、初代ジムニーにすら設定のあったキャンバスドアすらなく冬の使用は困難で、ヒーターの温風より、外からの寒風を巻き込みそうな後席にはちょっと乗りたくありません。
冬以外でも雨に振られれば車内はビショビショ、前後シートとも「強靭なキャンバス製防水シート」と説明されていますが、人間の防水にも配慮しないと、レジャー向けにはなかなか厳しそうです。
当時のカタログでも、天気のいい日に幌を外したオープントップ状態で身を乗り出し…といった写真を使われていますが、「雨の日にも幌で快適」という写真は一枚もなく、四季のある日本のどこで使うのか、という視点に欠けていたクルマだったと思われます。
もし、オプションでもキャンバスドアの設定があれば、あるいはモデル末期、初代シビックへの販売注力のため生産終了を惜しまれるか、TNと並行して細々とでも作り続けられたかもしれません。
現役軽トラとして活躍する姿に、惜しい課題も
いわば「本業」である軽トラとしては、2000年代に入っても農家で活躍する現役の姿がまだ見られたもので、筆者も荷台へ肥料を山積みにして果樹園の間を駆け回る、バモスホンダを時折見ていました。
普通の軽トラのように三方開きアオリはないものの、10~20kg程度の肥料袋や土嚢なら積み下ろしに難はあまりなかったようで、軽トラとしてはソコソコ使えていたようです。
ただし、オープントップであることがもっとも活かせそうな「果樹園」では、レジャー用途向きのロールバーや前面一体式のフロントガラスはむしろ邪魔。
実際の果樹園ではナンバーを切って公道走行をあきらめる代わり、キャビンの屋根を切断して乗車したまま収穫の可能な「果樹園仕様軽トラ」が数多く使われています。
バモスホンダも、ジープや初代ジムニーのようにフロントガラスを前に倒し、ロールバーも畳むか脱着できる機構を備えていれば、「果樹園向け軽トラ」として一定の需要があったのではないでしょうか?
レジャー向けとしても、業務用としても、「ここをこうしていれば、素材は良いのだから当時でも評価されたはず!」と思える部分が多いバモスホンダですが、結局は後に似たようなコンセプトのクルマが作られることもなく、一代限りで終わったのが惜しまれます。
「乗る人のアイデアによって、用途の範囲が無限に拡がる車」(公式ニュースリリース)と言いつつ、メーカーの配慮不足で可能性を狭めてしまい、売れなかったのでオシマイでは少々寂しすぎるというもので、超小型モビリティで再起を図ってほしいホンダ車のひとつです。
※この記事内で使用している画像の著作者情報は、公開日時点のものです。
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- 執筆者プロフィール
- 兵藤 忠彦
- 1974年栃木県出身、走り屋上がりで全日本ジムカーナにもスポット参戦(5位入賞が最高)。自動車人では珍しいダイハツ派で、リーザTR-ZZやストーリアX4を経て現愛車は1989年式リーザ ケンドーンS。2015年よりライタ...