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S2000

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「スポーツカーとしては正解、オープンカーとしては不正解?」気合の入りすぎたホンダのFR・S2000【推し車】

リアルスポーツか、気合の入ったパイクカーか

ホンダコレクションホールに展示されている、S2000前期型(AP1)

1999年から2009年まで販売されたホンダ S2000という2シーターオープンスポーツは、評価が難しいクルマです。

原型のコンセプトカー「SSM」が東京モーターショーへ出展された時点では、直列5気筒エンジンをフロントミッドシップへ搭載したFRスポーツということで、「ホントはこのエンジン積んだFFミッドシップの4ドアサルーンもFR化したかったのかな」と思いました。

その後、ホンダ創業50周年企画として2リッター直4自然吸気DOHC VTECで250馬力という凄まじいスペックを引っ提げ、S2000として発売された時は、「何かスゴイけど、オープンスポーツである意味はあるんだろうか?」と首を傾げた覚えがあります。

ホンダでは「リアルオープンスポーツ」とも表現しますが、あくまでオープンカーなのでタイプRを設定せず、途中で2.2L化した経緯もあり、実際は1960年代のSシリーズオープンスポーツをモチーフにした、ホンダなりのパイクカーなのかな、とも思ったり?

それにしてはスペックが本気すぎますし、やはり評価が難しいクルマなのです。

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29年ぶりに蘇ったホンダの「S」は定着しなかった

マイナーチェンジ後のAP1ではリアウィンドウが熱戦入りガラスだが、初期型は樹脂製

後に実用的でスポーティーイメージも強いFF車メーカーとして定着するホンダですが、4輪車への参入第1号は軽トラのT360、続いてS500/600/800と進化し続けた2シーターオープンスポーツ(S600以降はクーペもあり)の「S」シリーズと、元は後輪駆動のメーカーです。

それが軽乗用車のN360(1967年)や、小型乗用車ホンダ1300(1969年)以降は軽トラ/軽1BOX以外のほとんどをFF車が占め、スーパーカーの初代NSX(1990年)や軽スポーツのビート(1991年)、S660(2015年)もFF由来のミッドシップ。

そんなホンダが再びFRスポーツを作るとは考えにくい…と思ったのか、作中の登場人物に「俺だってホンダがFRを出せば買う!」とまで言わせてしまい、S2000発売後に「いつ買うの?」と問い合わせが殺到した漫画があったほど。

ホンダ50周年記念企画として1999年4月に発売されたホンダ S2000は、「あのホンダがFRスポーツを?!」と、驚きと期待で半信半疑というムードの中、その姿を現したのです。

車名とその姿からして、4輪参入初期の「S」シリーズを現代の解釈で蘇らせた一種の復刻版であり、最新技術を詰め込みながらどこか古風なスタイル、オープンスポーツというには過激なスペックから、現代の「S」には戸惑いもありました。

その後10年以上にわたって生産され、生産終了時のアナウンスでは「約9年間で国内累計2万台、全世界累計11万台以上(※)を販売」とされ、販売面では正直かなり厳しかったS2000。

(※2008年12月末現在)

マニア受けはしたものの、マツダ ロードスターのようにイメージリーダーとして定着できなかったのには、理由がありました。

ピーキーすぎたエンジンと、6速MTのみの設定

ショルダーラインとルーフのバランスだけ見るとカプチーノ?と思うほど狭く、リアルスポーツとしては正解でもオープンカーである必然性が乏しかった…しかし走りを評価するファンにすれば、その特異性がS2000の魅力とも言える

ホンダ公式アーカイブのエンジン性能曲線図(AP1)を見ると、S2000前期型AP1が搭載するF20Cは3,000回転でフラットになったトルクが5,000回転でVTECがハイカムへ切り替わり、最大トルク22.2kgf・mを発揮する7,500回転まで一気に盛り上がります。

パワーカーブも同様に5,000回転を境に最高出力250馬力を発揮する8,300回転へと駆け上がり、9,000回転でレブリミットへ。

5,000回転までブン回せば確かに楽しそうですし、かつての「S」シリーズ、そしてビートも同じように超高回転型エンジンでしたから、いかにもホンダらしいと言えますが、問題はそのエンジンを積んだのがオープンスポーツというところです。

ビート同様にフロアトンネルとサイドシルでうまく剛性を出しただけでなく、その中間にもフロアフレームを通してボディ構造の中立軸を高めた「ハイXボーンフレーム構造」を採用、フルオープンモノコックボディでも十分な剛性と衝突安全性能を確保したのは立派。

ただしその結果として、常時ブン回していないと、構造的にもあまり意味がないクルマとなってしまい、オープンエアーを楽しむどころではなくなってしまいました。

さらに問題だったのは6速MTのみの設定だったことで、企業イメージCMでは車椅子のドライバーがATのNSXでサーキット走行を楽しんでいるのに、S2000ではそれが不可能どころか、日本では年々増えていたAT限定免許のドライバーが運転する事もできません。

これは長年FR車を作らなかったメーカーとしては致し方ないところですが、リアデフをマツダから買ったくらいですから、エンジンがデチューン版になっても仕方ないので、ATもロードスター用を購入していれば…と思ってしまいます。

実際、DOHC VTECをもってしても低速トルクは細く、後期では250馬力で「超高回転型」のF20Cから、「高回転型」程度に抑えて扱いやすい、言い換えれば多少ラフな運転でも気楽に乗れる2.2リッターのF22Cへと、エンジンが変わってしまいました。

F20Cを積む前期型AP1など、ジムカーナなどの競技でもちょっとした姿勢の乱れを修正しきれずにスピンする事も多く、安定してタイムを刻もうと思えば相当なウデと経験を求める、かなり難しいクルマだったというイメージです。

開放感が乏しいオープンカーだが、タイプRがなかったのは英断

クローズドボディのクーペなら大成したかも、あるいはATがあればより多くの人に愛されたかも、しかしどちらでもないがゆえにホンダ版ロードスターとはならず、情熱的なファンにはこれからも長く愛され続けるだろうし、ホンダの「S」はそれでいいのかも

さらに、ほぼ2000年代を通して生産されたクルマの自然吸気エンジンでありながら、初期型のF20Cではリッター125馬力に達するパワフルなエンジンに耐え、さらに側面衝突安全基準も厳格にクリアするよう作り込んだ結果、極端に開放感が薄いクルマとなりました。

メディアでも「シートに潜ったようなクルマで、オープンカーなのに風を切るような感覚はない」と酷評されましたが、実際に街で走っているオープン状態のS2000を見ると、ドライバーの頭が全部見えないほどで、開放感より包まれているかのようです。

大柄な人ならまた違ったかもしれませんが、エンジン特性といいキャビンの包まれ感といい、往年の「S」を復刻するためオープンスポーツとしたものの、そこで近代的なパワーユニットを組み合わせた事で、S2000の魅力を半減させてしまったのは間違いありません。

マツダの開発担当者からすると「ホラ、だからウチはロードスターをそういうクルマにしなかったんだよ。」という評価だったらしく、「往年のS復刻版」としてオープンスポーツに徹するならパワーより操る楽しさを持つライトウェイト志向にすべきだったでしょう。

あるいは、パワフルなリアルスポーツとしての復刻版なら、無理にオープンボディとせずにクローズドのクーペボディでも、ユーザーは納得したかもしれません(何しろその方が軽くて速い)。

そのあたりの「何か間違ってるぞコレ?」という感覚はホンダでも認識していたようで、初期には「リアルオープンスポーツ」と言いつつ、タイプRは「オープンを気持ちよく走るためのモデルだから」という理由で設定しなかった、と言われています。

同じ理由で後期のマイルドな特性の2.2リッター化、クラブスポーツ的なエアロバージョンのタイプS追加に留まったのなら、あくまで走り重視のファンには申し訳ないながらも、後期AP2型S2000はオープンスポーツとして正常進化したわけです。

これでオートマがあって、次期型も作りホンダのイメージリーダーとして育てていれば…とも思いますが、そこまで落ち着いてロードスターの後追いになるのは、ホンダの本意ではなかったのでしょう。

かつての「S」が非力でも軽量で空力性能に優れたトヨタスポーツ800と対極の存在だったように、S2000とはどこまでもホンダらしい、決してロードスターにはならないクルマなのでした。

※この記事内で使用している画像の著作者情報は、公開日時点のものです。

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執筆者プロフィール
兵藤 忠彦
兵藤 忠彦
1974年栃木県出身、走り屋上がりで全日本ジムカーナにもスポット参戦(5位入賞が最高)。自動車人では珍しいダイハツ派で、リーザTR-ZZやストーリアX4を経て現愛車は1989年式リーザ ケンドーンS。2015年よりライタ...

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