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「役員を背後から抱えて無理やり承認」社内奮闘記も伝説《初代ホンダ シティ》【推し車】

ハード/ソフト両面から若い力で攻めた傑作、初代シティ

初代ホンダ シティ R(左)と、車載用折り畳み原付バイクのモトコンポ(右)

現在、GMやソニーとの協業が進んでいるとはいえ、トヨタ陣営でもルノー日産陣営でもない独立を貫き、国産車メーカー第2位へと踊りだしているホンダ。

そのためか、最近では軽自動車販売の首位を走り続けるN-BOXを筆頭に「守り」が主体の保守的な姿勢が目立っていますが、かつての国産車最後発の弱い立場だったホンダは、その殻を破って成長するために果敢なチャレンジ精神を持つ、若さあふれるメーカーでした。

それらは必ずしも成功作ばかりではありませんでしたが、1980年代はじめには、その後の国産コンパクトカーへ大きな影響を与える1台を生み出します。

単に優れたハードウェア(クルマ)というだけではなく、販売促進のための斬新なソフトウェア(宣伝)でも攻めた画期的なコンパクトカー、それが初代シティです。

最新「シティ」中古車情報
本日の在庫数 16台
平均価格 188万円
支払総額 78~419万円

若者の感性を最優先し、新しい発想を引き出すためのクルマ

当時画期的だったトールボーイスタイルだが、ハイルーフ車の「マンハッタンルーフ」を除き、実は後のロゴやフィットより全高は低い

初代シティ、開発コードSA-7の開発が始まったのは1978年4月、「軽トラを除くホンダの全生産力を注ぎ込み、四輪車メーカーとしての生き残りを賭けた」初代シビックがその役割を終えて6月に2代目へのモデルチェンジを控え、上級版の初代アコードも軌道へ乗った頃。

1980年代に求められる省資源車、その決定版を作れという開発陣への号令とともに示されたコンセプトは、「本物志向を満たす優れた基本性能は当たり前、時代の変化に敏感な若者の心を刺激してオリジナルな発想を促し、新しい需要を想像する国際的なクルマ」でした。

ここで重要なのは「若者のためのクルマ」だった事であり、平均年齢27歳のS・E・Dチーム(※)が結集し、若者自身が自らの感性に訴えるクルマを開発、そして何より「年寄りの言いなりにならない」ことで、当初その姿は、年寄り(会社上層部)にすら極秘だったのです。

(※S・E・Dチーム:「S(販売/Sales)」「E(生産/Engineering)」「D(商品開発/Development)」部門による合同チームで、「天才・本田 宗一郎と同じ仕事を100人の凡人が行うにはどうしたよいか」という問いから生まれた、当時のホンダ独自の商品開発システム)

当時、何がどれだけ画期的なクルマだったのか?

幌部分のデザインにジウジアーロが関わり、カラフルなボディカラーを揃えてヒット、ターボIIともども現在も人気のシティカブリオレ

1980年にはクレイモデル(粘土などで作られた原寸大の立体モデル)が完成、それを見せられた本社販売促進部の4輪宣伝担当者が衝撃を受けるのと同時に、「上層部の意向でカタチが変わらないよう、守ってくれ」と要望されるほど、当時としては斬新すぎるものでした。

基本的にはFF2BOXスタイルの3ドアハッチバック車で、角型ヘッドライトが最新の流行の時代に丸目で愛嬌あるフロントマスク、ちょっと背が高くて余裕の車内空間を持ち、カテゴリーとしてはトールワゴン、思想的にはMPV(多用途車」に近いクルマです。

後にシティターボや、転倒車続出で格闘技的な伝説のワンメイクレース、「ブルドックレース」の主役となった過激なターボIIといったホットモデルや、カラフルなパステルカラーと、ジウジアーロがデザインした幌もオシャレなカブリオレも登場。

しかし本質的には「この斬新なデザインと広々とした車内スペースがあれば、何でもできるじゃないか」と若者に思わせるのが目的でした。

しかし、当時のコンパクトカーは、エンジン横置きFF車による「メカニカルスペースの極限化と、車内スペースの最大化」が始まっていたとはいえ、あくまで前後左右方向のスペース確保であり、高さ方向で稼ごうという国産コンパクトカーはまだありません。

それもそのはず、1980年頃からボディ表面の円滑化による「フラッシュ・サーフェス化」と、クサビ型の「ウェッジシェイプ化」で空気抵抗を低減するのが当時の流行と思われており、背を低くスポーティにするのが当たり前。

その流行に反し、背の高い「トールボーイスタイル」を採用した初代シティは、見た目に反して空力にこだわり、空気抵抗が少ない形状と説明されても、にわかに信じがたかったのです。

現在のトールワゴンやスーパーハイトワゴン、ミニバンSUVと背の高いクルマ全般への、「空気抵抗が大きく重心も高くて普通に走ってもフラフラしそう」という先入観に近く、似たようなクルマもなかったので、保守層には余計に抵抗を感じさせるカタチでした。

最大の抵抗は社内にあり!上層部の抵抗を突破せよ

モトコンポも初代シティ同様にコンセプトを受け継ぐ後継車がなく、個人売買などでは高値で取引されるオシャレなレアアイテム

上層部へのプレゼンテーションが行われたのは、発売をわずか9ヶ月後に控えた1981年2月だったと言いますから、ずいぶんとギリギリまでホンダ上層部へ隠し通せたものです。

当然、プレゼンされた側では長い経験を持つ保守派、若者の可能性に賭けたい革新派で真っ二つに分かれますが、それまでキャッチコピーや販売戦略など、ソフトウェア面から入念な準備を進めた販売促進部の努力が実り、「とにかくやってみろ」という事にはなりました。

若者の感性に委ねられた開発コードSA-7、「シティ」はその後も社内からさまざまな抵抗に遭いますが、その最たるものはイギリスのロックバンド、「マッドネス」による斬新なCMソングと、ムカデダンスに対するものです。

今では初代シティを回顧する際に必ず登場する重要なCMですが、「シティ!シティ!ホンダ・ホンダ…」と歌いながらバンドメンバーがムカデダンスをするシーンが上層部の理解を得られず、一部「面白い」とは言われたものの、2回にわたり怒号とともに否決。

それでもメゲずに3度目のデモンストレーションでは、嫌がる役員を背後から抱えて無理やり見せ、気合と根性でGOサインを得るという強引ぶりは、まさに「若さゆえ」だったからかもしれません。

執念で説き伏せた上層部を巻き込む、派手な発表会

シティカブリオレの内装。使い勝手重視な中に、丸いルーバーの送風口など若者向けのオシャレなデザインが盛り込まれた

1981年11月に新宿で行われた発表会では、レーザー光線や大音響のサウンドが飛び交う「ショー」へ、社長以下役員がスーツではなくラフなジャケット姿で登場するなど、最終的には若手の力で年寄りを引きずり回し、キリキリ舞いさせたのです。

ホンダといえばスポーツイメージへの期待が濃いメーカーですが、「スポーツカーやレーシングカーを作りたい」だけではなく、「シティみたいな斬新なクルマを開発したり、販売促進企画へ打ち込みたい」と、ホンダへの入社を希望した若者もいたのではないでしょうか?

後にS660を開発したのも若手中心のメンバーでしたし、初代オデッセイ開発時にも社内の抵抗を強行突破したエピソードもあり、ホンダというメーカーには、しばしばこうした「型破りの伝説」が付き物です。

社会現象になるも、受け継がれながった伝説

初代シティやモトコンポの後継は現れなかったが、高さ以外の寸法が厳しい各社の軽自動車へコンセプトは受け継がれ、花開いている

こうして発売されるやいなや、シティのラゲッジルームへ車載することを主目的に開発された折りたたみ原付バイク「モトコンポ」ともども、目論見通り若者へ爆発的にウケる人気車種となり、CMのムカデダンスも流行になりました。

「トールボーイ」スタイルも、コンパクトカーというより、全高以外の寸法制約が厳しい軽自動車のパッケージングへ大きな影響を与えています。

しかし、1986年にモデルチェンジした2代目シティは、当時のシビック(3代目「ワンダーシビック」)やトゥデイと同じ低重心クラウチングスタイルを採用、ジムカーナなどモータースポーツで大活躍はしたものの、実用車としては大失敗。

一時代を築いた初代シティですが、トールボーイスタイルを継承するコンパクトカーも、斬新な販売戦略も影を潜めてしまい、再びコンパクトカー市場へ新風を吹き込む傑作は初代フィット(2001年)を待たねばならず、それまで長い雌伏の期間を余儀なくされます。

若々しい力で画期的なクルマを生み出す一方、その反動で妙に保守的、あるいは真逆のクルマを作りがちなホンダの社風は、初代シティ当時からの伝統と言えそうです。

※この記事内で使用している画像の著作者情報は、公開日時点のものです。

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執筆者プロフィール
兵藤 忠彦
兵藤 忠彦
1974年栃木県出身、走り屋上がりで全日本ジムカーナにもスポット参戦(5位入賞が最高)。自動車人では珍しいダイハツ派で、リーザTR-ZZやストーリアX4を経て現愛車は1989年式リーザ ケンドーンS。2015年よりライタ...

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