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アルファロメオ 4C スパイダー イタリア【生産終了さよなら試乗】まるで大型犬と散歩
アルファ ロメオの2シーター・ミッドシップ・ピュアスポーツクーペとして2013年にデビュー(日本市場では2014年からの発売)し、英国の人気自動車番組「トップ・ギア」のジェレミー・クラークソンにも絶賛され、惜しくも2020年4月の最終受注で生産終了となってしまった「4C」に“さよなら試乗”してきました。
この試乗レポートは動画と記事のハイブリッドでお届けします。
YouTubeのタイムラインに、もくじを打っています。お好きなところからどうぞ。
15台限定の「イタリア」
アルファロメオブランドを取り扱うFCAジャパンさんからお借りした4C スパイダーは「イタリア」と名付けられた、ミザーノ・ブルー・メタリックの専用ボディカラーを纏い、エアインテークをピアノブラックで引き締めるなど専用装備を施した特別なモデルで世界限定108台。日本には15台限定での貴重な導入でした。そのお値段、 11,305,556円(税込。オプション含まない車両本体価格) でした。
スペックのハイライト「驚愕の軽量化」
4Cのボディサイズは小柄。全長は4mを切る3,990mm、全幅1,870mm、全高1,190mm(低っ)。車重は1,060kg(軽っ)
車重の軽さは、バスタブ構造のカーボンフレームを採用していること。その重量は65㎏。サイドシルが高く、屋根を開けたまま雨が降ると、文字通りのバスタブになります。(水深は浅いけど)
カーボンフレームを採用するのは、高級に超がつくスーパースポーツカーぐらい。これが1,000万円程度(標準モデルは800万円台だった)で手に入るという、アルファロメオにしてみたら、大出血大サービスでしょう。
いろんなところに徹底して軽量化。前述した「非電化」は軽量化のため。電化しても重量増にならないところは残したように思えます。日本仕様ではエアコンが標準装備されていますが、本国仕様では、エアコンレス。乾燥重量はなんと900kgを切ります。ホンダ N-BOXの上級グレードより軽い。
軽量小型なボディに搭載するエンジンはアルファロメオが伝統とする排気量1,750ccの直噴ターボ、最大トルクは350N・mとスポーツカーらしい数値ですが、 最高出力は240PSと控えめ。しかし、0-100km/h加速は4.5秒という俊足。トランスミッションは6速DCT、もちろんの後輪駆動。
装備のハイライト「非電動化」
2020年代の自動車は急速に電動化へと向かっています。しかし、4Cはあらゆるものが電動化されていませんでした。「電動化」をこのような比較表現をするのは間違ってはいますが、これを言いたくてしょうがなかっただけです。すみません。
まず、ステアリングは電動化されていません。いわゆる「重ステ」です。この言葉がわかるのはオッサン世代以上でしょうか。コンビニに入って車庫入れをするとき、アルファロメオ 4Cを操っているという自己陶酔に浸れます。
ルーフの開閉も電動化されていません。手動です。屋根を開けての走行中、急な大雨が降ってくると、ルーフを閉じてる間にずぶ濡れになります。でも大丈夫!4Cのボディはバスタブですから!(何言ってるんだ、というお叱り歓迎)
逆に電動化されていたものは、ウィンドウ(ここまでするのなら、いっそ手巻きにして欲しかった)、サイドミラーの角度調整(格納は手動)、リモコンキー。
インフォテイメントシステムはありません。試乗車には申し訳程度の画面の大きさのPanasonic製後付けカーナビ(オプション)と、アルパイン製(高級オーディオブランドですよ)のカーラジオ(繰り返しますが、ラジオです)がついています。このラジオのオーディオの音質が良くても悪くても、4Cのエンジン音に即座にかき消されますのでご安心を。
エアコンはついていますが、オートエアコンではありません。そんなもんいりません。
走りのハイライト「大型犬の散歩」
ゴーカートです。乗り心地は良くないはずですが、舌を噛み切るような衝撃はないので、乗っているうちにだんだんと乗り心地がよく感じるようになります。
直進安定性は良いはずなのですが、轍のある道路ではすぐにタイヤがそれに取られてまっすぐに進みません。まるで大型犬を散歩しているかのように持っていかれます。4Cを運転するときは、しっかりと力を入れてハンドルを握らないといけません。愉しいです。
深夜の静かな住宅街では、エンジンをかけることに躊躇う音量を奏でます。「DNA」の3つのドライブモードを一番おとなしい「Allweather」にすれば、幾らか静かになります。
アルファロメオ 4Cでドライブするとき、助手席に人を乗せたら大声で会話が楽しめます。ちょっとアクセルを深く踏み過ぎたら「え!今、なんて言った?」と聞き返す必要があるでしょう。4Cはドライブで会話を楽しむクルマではなく、エンジン音を楽しむクルマです。
加速はスペック以上に速く感じます。それは、車高が低く軽量な車体、重たいステアリングに大音量のエンジン音といったさまざまなエフェクトが、0-100km/h加速の秒数を体感1.5縮めてくれます。素晴らしい。
半径の小さいコーナリングでは、自分が進みたい方向に向かってしっかりとハンドルを押さえつける必要があります。油断すると強大なトルクステアでステアリングは戻され、コーナーの外側へと向かいます。素晴らしい。
最高速度規制や安全確保のための自制が多い日本の公道ですが、4Cのハンドルを握っていると、安全運転でも脳内でサーキット走行に変換してくれる効果がありました。「このカーブと同じRなら、ハンドルにしがみつきながら、80km/hくらいで曲がるんだろうなぁ」とか。運転中、自然と顔がニヤついてくる効果もありますので、不審者と疑われないよう注意は必要です。素晴らしい。
言い出したらキリがないですが、もう、情報量多くて心踊りまくりです。筆者は、4Cを骨の髄まで堪能すべく、高速道路、長いトンネル、狭く急カーブが続く峠をドライブしてきました。
一つ、意外だったことが。それは燃費の良さ。この手のクルマでこまめに燃費チェックしたところで……というのがあったので、市街地から高速道路、郊外路に峠といろいろなシーンを愉しく走り回って燃費計を見たら(燃費計が付いている!)11km/Lちょい。排気量の小さいエンジン、軽量が効いているのでしょう。
月に一度は乗りたくなる
惜しくも生産終了となってしまいましたが、こんなにダイレクトなドライブを楽しめるクルマが2010年代に新車で買えるのは非常に稀有なものです。似たようなクルマに、「アルピーヌ A110」があります。こちらも小さめボディ(4Sよりちょいと大きいくらい)に、最高出力252PSの1.8Lターボを搭載した軽量スポーツカーですが、その走りの性格は全く異なります。乗りやすさ、快適性で言ったらA110の圧勝。しかし、4Cにしか味わえないダイレクトドライブフィールは、乗りやすさや快適性が「え?それって何?」と言わんばかりになります。
アルファ ロメオ 4C をファーストカーにするのは相当なる覚悟が必要ですが、セカンドカーとして、月に一度くらい、週末に乗り回したくなるクルマでした。
アルファ ロメオ の歴史の見開き1ページに、4Cをでかでかと掲載されること、間違いないでしょう。素晴らしいクルマでした。
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- 執筆者プロフィール
- 宇野 智
- モーター・エヴァンジェリスト/ライター/フォトグラファー/ビデオグラファー/エディター エヴァンジェリストとは「伝道者」のこと。クルマ好きでない人にもクルマ楽しさを伝えたい、がコンセプト。元MOBY編...