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車の空走距離・制動距離・停止距離とは?計算方法や使い方
空走距離・制動距離・停止距離とは?
「車は急に止まれない」といわれるように、車の緊急停止にはある程度の距離を要します。この急停止に要する距離を分類すると、空走距離、制動距離、停止距離の3つに分かれます。各距離の大まかな意味は次のとおりです。
- 空走距離:危険察知からブレーキ操作で制動力が生じるまでに進む距離
- 制動距離:ブレーキが効きはじめてから停車するまでに進む距離
- 停止距離:危険察知からブレーキで停車するまでに進む距離
上記3つの距離は自動車教習所で習いますが、多くの方が詳しい内容を忘れてしまっていることでしょう。緊急停止にかかる距離について理解することは、安全に車を走らせるために重要です。空走距離、制動距離、停止距離について順番に詳しく見ていきましょう。
空走距離
どのようなドライバーでも、危険察知からブレーキ操作までをタイムラグなしに行うことはできません。緊急停止の判断、ペダルの踏み変え、ブレーキペダルの踏み込みの3つを行い、制動力を発生させるまでには平均で0.75秒を要します。このタイムラグの間に進む距離が空走距離です。
空走距離はドライバーの能力により変わります。注意力や反射神経に優れるドライバーであれば、緊急時に素早くブレーキを踏み込めるでしょう。ただし、いかに優秀なドライバーであっても、疲労や体調不良などにより反応が鈍れば、緊急停止する際の空走距離は長くなります。
制動距離
ブレーキペダルを強く踏んでも、車はすぐには止まりません。慣性で進もうとする車をブレーキの力(摩擦力)で止めるには、ある程度の距離がかかります。このブレーキでの車の停止に要する距離が制動距離です。
車の性能や重量、走行速度、路面状況などにより、制動距離は大きく変わります。わけても走行速度と路面状況は、制動距離に大きな影響を与える要素です。凍結した道路でスピードを出す車が止まりにくいことは、想像に難しくないでしょう。
停止距離
空走距離と制動距離を合計した距離が停止距離です。停止距離は走行速度に応じて下図のように変化します。
上図を一見してわかるように、車の走行速度が上がるにつれて停止距離は長くなります。また、速度が上がるほどに、停止距離に占める制動距離の割合が大きくなっています。こうした割合の変化が起こる理由を知るために、次節では空走距離と制動距離の計算方法を見てみることにしましょう。
空走距離と制動距離の計算方法
空走距離の計算方法
空走距離は【反応時間(秒)×車速(秒速)】で算出できます。一般的な反応時間(危険察知からブレーキを踏むまでの時間)は0.6〜1.5秒程度、平均で0.75秒です。
車速(秒速)は時速をメートルに換算して、3,600で割ると算出できます。たとえば、時速50km走行する車が1秒間に進む距離は、50,000÷3,600で約13.9mです。
以上を踏まえて、時速50km走行時に緊急停止する場合の平均的な空走距離を算出すると、0.75秒×13.9mで約10.4mとなります。
同じ計算を時速100km走行時に当てはめた場合の空走距離は約20.8mです。この計算結果からわかるように、空走距離は走行速度に比例して長くなります。
制動距離の計算方法
制動距離は【時速の2乗÷(254×摩擦係数)】で算出できます。この計算式で注目したいのは、時速の2乗の部分と、摩擦係数の2点です(「254」の算出方法は複雑なため割愛します)。
制動距離は時速の2乗に比例する
制動距離は時速の2乗に比例して長くなります。時速が2倍になると制動距離は4倍(2の2乗倍)に、時速が3倍になると制動距離は9倍(3の2乗倍)になります。
なぜ、このように制動距離が大きく増すのかというと、走行中の車に運動エネルギーがかかるためです。運動エネルギーは速度の2乗に比例します。たとえば、走行速度を2倍に上げれば、車にかかる運動エネルギーは加速前の4倍になります。
これに対して、走行速度が上がっても車のブレーキ性能は変わりません。運動エネルギーが増しても制動力は上がらないため、制動距離は速度の2乗で長くなるのです。
摩擦係数とは?
摩擦係数とは、2つの物体が接触する面の滑りにくさを表す数値です。タイヤと路面との摩擦係数が低いほどに車は止まりにくくなり、緊急停止時の制動距離が長くなります。路面のコンディションによる、摩擦係数の違いは次のとおりです(数値は一例です)。
- 乾いたアスファルト=0.7〜0.9
- 濡れたアスファルト=0.45〜0.6
- 圧雪路=0.2〜0.4
- 凍結路=0.08〜0.2
路面が濡れたり凍結したりすると、摩擦係数は大きく下がります。続いて、上記の摩擦係数を使い、路面コンディション別の制動距離を計算してみましょう。走行速度を時速60km、摩擦係数を上記の最低値とした場合の制動距離は以下のようになります。
- 乾いたアスファルト:60kmの2乗÷(254×0.7)=約20.2m
- 濡れたアスファルト:60kmの2乗÷(254×0.45)=約31.5m
- 圧雪路:60kmの2乗÷(254×0.2)=約70.9m
- 凍結路:60kmの2乗÷(254×0.08)=約177.2m
計算結果を見るとわかるように、摩擦係数によって制動距離は大幅に変わります。路面の状態が制動距離に与える影響は、かなり大きいといえるでしょう。
空走距離と制動距離を数値で比較
この節の最後に、空走距離と制動距離を数値で比較しておきましょう。次の表の数値は、反応時間を0.75秒とし、摩擦係数は乾燥路が0.7、濡れた路面は0.45として算出しています(停止距離は前出のJAFの図と異なっています)。
時速(km) | 空走距離(m) | 制動距離(m) | 停止距離(m) |
20 | 4.2 | 乾=2.2 濡=3.5 | 乾=6.4 濡=7.7 |
40 | 8.3 | 乾=9 濡=14 | 乾=17.3 濡=22.3 |
60 | 12.5 | 乾=20.2 濡=31.5 | 乾=32.7 濡=44 |
80 | 16.7 | 乾=36 濡=56 | 乾=52.7 濡=72.7 |
100 | 20.8 | 乾=56.2 濡=87.5 | 乾=77 濡=108.3 |
120 | 25 | 乾=81 濡=126 | 乾=106 濡=151 |
数値を見るとわかるように、時速40km以上では空走距離よりも制動距離のほうが大きくなっています。こうした差が生まれるのは、前述のとおり制動距離が運動エネルギーの影響を受けるためです。
とはいえ、空走距離も軽視はできません。時速20km走行時でも空走距離は4.2mと長く、この距離内では、ブレーキを踏む間もなくほかの車両や歩行者に衝突する可能性があります。
空走距離と制動距離の両方が短くなるよう努めることは、ドライバーの義務だといえるでしょう。
緊急停止の安全性を高める対策3選
ここまでに見てきたように、車の急停止には距離を要します。では、緊急停止する際の安全性を高めるにはどうすればよいのか、ドライバーにできる3つの対策を解説します。
【対策1】安全な車間距離を保つ
車を運転する際は、安全な車間距離を保って走行するよう心がけましょう。車間距離が十分に空いていれば、先行車が急に止まった場合に、追突することなく緊急停止できます。
乾燥した路面での安全な車間距離は、走行速度(時速)から15を引き、メートルに換算した距離以上とされます。たとえば、時速50km走行時の安全な車間距離は35m以上です。
ただし、時速60km以上で走る場合は、走行速度の数値と安全な車間距離がイコールになります。高速道路を時速100kmで走る際は、車間距離を100m以上とるようにしましょう。また、路面が濡れている場合は、乾燥路の走行時よりも1.5〜2倍ほど大きく車間距離を空けてください。
車線で車間距離を測れる?
走行中に前方車両との車間距離を測るには、何かを目印にする必要があります。片側が2車線以上の道路に破線で引かれている「車線境界線」は、車間距離を測る目印になるものの1つです。車線境界線の白線と空白の長さは、次のようになっています。
- 一般道路=白線5m、空白5m(場所によっては白線6m、空白9m)
- 高速道路=白線8m、空白12m
一般道路の車線境界線(破線)は引き方が2パターンあります。どちらのパターンで距離を測ればよいか迷う場合は、白線を5mとして捉えておくと安全です。
なお、高速道路では車線境界線だけでなく、「車間距離確認表示板」も車間距離の測定に役立ちます。車間距離確認表示板は、車間距離の確認基点となる標識です。インターチェンジの間に1ヶ所ずつ設置されているので、高速道路を走る際は積極的に活用してください。
時間で車間距離を測れる?
車線や標識で車間距離を測れない、または測りにくい場合は、時間のカウントが役立ちます。何らかの目印を決めて、その目印を先行車が通過してから、自分の車が同じ目印に到達するまでの時間をカウントしてみてください。カウントが2秒以上であれば、安全な車間距離がとれていると判断できます。
時間の数え方は「イチ、ニ」と数えず、「ゼロ、イチ、ゼロ、ニ」とゆっくり数えるとよいでしょう。この数え方は埼玉県警が推奨しているものであり、安全な車間距離をとりやすいカウント方法です。
なお、走行速度や路面状況によっては、2秒分の車間距離では安全確保に不十分な場合があります。時速50km以上で走る場合や、摩擦係数の低い路面を走る場合は、3秒分以上の車間距離を保ったほうがよいでしょう。
【対策2】体調不良に注意する
ドライバーの体調は空走距離に影響を与えます。体調が優れない状態で車を運転すると、周囲への反応が鈍くなり、緊急停止時の空走距離が伸びやすくなるので注意しましょう。
体の調子が悪いときに運転する場合は、走行速度を抑えるとともに、車間距離を普段より大きく空けるよう心がけてください。また、運転中に疲れを感じた場合は、早めに休憩をとりましょう。
【対策3】タイヤチェックをこまめに行う
車のコンディション、わけてもタイヤの状態は制動距離に大きく影響します。タイヤの空気圧が高すぎる、あるいは低すぎると、制動距離が伸びやすくなるので注意しましょう。また、タイヤの溝が残り4mm以下になると、性能低下により制動距離が伸びるので要注意です。
言い換えると、空気圧と溝をこまめにチェックしておけば、タイヤが原因で起こる制動距離の伸びを防げます。空気圧は指定値を守り、摩耗したタイヤは早めに交換するようにしましょう。
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- 執筆者プロフィール
- 加藤 貴之
- 1977年生まれのフリーライター。10年以上務めた運送業からライターに転向。以後8年以上にわたり、自動車関連記事やIT記事などの執筆を手がける。20代でスポーツカーに夢中になり、近年は最新のハイブリッド車に興...