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とにかく安く!でユーザーはバンザイ、GMは驚きインドも喜んだ!初代スズキ アルト / 5代目フロンテ【推し車】
目次
日本車史上、重要な転換点に立つ初代「アルト」
初代ワゴンR(1993年発売)の大ヒット以降、背の高い「ハイト系」を主体に現在では国民車的な人気を誇るようになった軽自動車ですが、1970年代後半には小型車に対する競争力を失い、規格存続の危機に晒されていました。
実際、この時期にホンダは小型車(初代シビック)へ注力するため、マツダも排ガス規制や省燃費対策のため軽トラ以外の軽自動車から撤退してしまいます(マツダに至ってはエンジンからも撤退し、軽トラのポーターには三菱のエンジンを積んだ)。
しかしその一方、新たなニーズがあるとあきらめなかった軽自動車メーカーもあり、復活第一弾として発売されたのが通称「47万円アルト」こと初代アルトと、その4ドア軽乗用車版5代目フロンテ。
そしてそれは「安くてよく走るクルマの復活」にとどまらず、自動車界の巨人GMすらをも震え上がらせ、日本の小さな軽自動車メーカーに過ぎなかったスズキを世界的メーカーへ引き上げる原動力になりました。
「1人1台時代」の新たな軽自動車ニーズを探り出せ
厳しい排ガス規制や省燃費志向への対策、安全性強化による大型化と重量増大を補う大排気量化で高価になり、交通事故増加に対処した軽自動車免許の廃止と車検の義務化は、利便性の面でも小型車に対するメリットを失わせ、存在意義が問われた1970年代の軽自動車。
1960年代の軽自動車人気を牽引したマツダやホンダは軽乗用車から撤退し、残されたのはスバル360で一世を風靡したものの、まだ小型車が弱いスバルと、戦前のオート3輪時代から老舗だったダイハツ、そしてスバル同様に戦後組の新参、三菱とスズキの4社です。
いずれも軽自動車抜きには4輪メーカーとして苦しい企業ばかりで、軽自動車からの撤退は4輪からの撤退、あるいはコニー(愛知機械工業)のように大メーカーの下請け化を意味します(実際、ダイハツなど初代シャレードが失敗すれば即、そうなりかねなかった)。
そんな苦境から脱却するには新たなニーズ、つまり「軽自動車を必要とするユーザー」を探し出し、そのニーズに応える軽自動車を開発せねばなりません。
そこで市場調査を行ってみると、高度経済成長期、爆発的に増加した中流層では女性ドライバーが増えており、「一家に1台マイカー」というマイカー元年(1966年)当時の価値観から、「1人に1台マイカー」という時代に差し掛かっていることがわかります。
そして、そうしたユーザーは家族全員が乗ってドライブに出かけるファミリーカーではなく、せいぜい1〜2名が乗るだけのパーソナルカー用途が多く、軽乗用車やコンパクトカーのように小さなクルマほど、その傾向が強い事もわかりました。
すなわち、「1人1台時代を実現する、安価なパーソナルカー」がその回答です。
今なら「駐車場は高いし所得は低いしで、どれだけ安くても持っているだけで金が飛ぶパーソナルカーなど不要」という雰囲気ですが、月極駐車場代も安くて所得は右肩上がりだった当時は、世情が全く異なりました。
デラックス路線はもう古い、少しでも安く!
少しでも安いクルマを作れ、と大号令を飛ばしたのは、先読み鋭く「天啓」も珍しくないスズキのヒットメーカー、名物経営者として後に伝説的存在となる、鈴木 修 社長(当時)。
しかしその頃までの国産車メーカーには、初代トヨタ パブリカを代表とする「ただ安いだけのクルマは貧乏くさいと売れない」という、苦い思い出がありました。
そのため、加飾や装備満載で少しでも満足感を上げる「デラックス路線」が定番でしたが、そんな常識を全く無視して「とにかく安く!目標45万円!」をぶち上げ、発売目前の次期フロンテを白紙撤回してまで、画期的な新型車を開発します。
新車開発が遅れる、すなわち見込んでいた利益を1年先送りし、新たに開発費をかけ、しかも外せば利益どころでないと、相当な覚悟が必要だったはずですが、「いらないもんならエンジンでも下ろせ」と言われれば、否応もありません。
さすがにエンジンは下ろせませんでしたが、前席の1~2名だけ考えればいいので後席は補助的なものでよし、結果的に荷室が広がるので税金が安い軽商用車登録、排ガス規制が甘いので2ストエンジン、安ければいいのでリアサスは固定懸架のリーフリジッドと決定。
後席も使うファミリーカー用途は同時発売の5ドア版軽乗用車5代目フロンテに任せ、徹底的に安さを追求した3ドア軽商用車の初代「アルト」が、1979年5月に発売されました。
「アルト47万円」の衝撃
目標へわずかに届かなかったものの、47万円という当時としても凄まじい低価格、物品税がかからず軽自動車税も安い軽商用車登録の軽ボンネットバン、初代アルトは「アルト47万円」と身もフタもないそのまんまなキャッチコピーで発売されるや、空前の大ヒット!
ファミリーカーならデラックス路線を求めたユーザーも、そのへんのゲタ代わりに使うならこれで十分、ちゃんと走るじゃないかと大歓迎です。
それを見た他社も既存車の軽ボンバン化(スバル ファミリーレックス、三菱 ミニカエコノ)、スズキ同様の発想で新型軽ボンバン発売(初代ダイハツ ミラ)と続き、差別化のためターボエンジンやオプションの充実で対抗しました。
アルトも結局はエアコンなど充実したオプションを選択するユーザーが多く、実際に47万円のままで買う例は多くなかったと思われます。
しかし、ユーザーの利便性を高めるオートマや4WDは追加したものの、初代アルトではついにターボ車を設定しませんでした。
低価格軽ボンネットバン路線は1980年代を通して続き、新設された消費税が軽商用車にもかかって税制上のメリットが減った1990年代には再び軽乗用車がメインとなるも、ホンダN-VAN(2018年発売)を契機に、軽自動車税の安い軽ボンバンが再び増加しつつあります。
存在感が薄くなった軽乗用車版フロンテ
同時発売された5代目フロンテは、アルトよりゆったりした後席と乗降性が良い後席ドアを持つ5ドア軽乗用車版として発売された姉妹車ですが、いわば「初代アルトが不評だった時の保険」のようなものです。
実際にはアルトが大ヒットしたため存在意義は薄く、1984年には一応アルトとともにモデルチェンジして6代目となったものの、1985年には当初特別仕様車、後に正式なカタログモデルとして5ドアバン仕様のアルトが発売されると、もはや用なし。
一応は1988年モデルチェンジの7代目(3代目アルト姉妹車)まで続くも、1989年の税制改革で新設された消費税が軽商用車にも適用されると、フロンテではなく軽乗用車版もアルトを名乗って存続し、フロンテの名は日本国内からアッサリ消滅してしまいました。
アメリカの巨人GMを震え上がらせたスズキ
「アルト47万円」に衝撃を受けたのは、日本の軽自動車ユーザーばかりではありません。
1970年代のオイルショックを契機に低燃費の小型車も作ったものの、日本車ほど「小さくて安くてよく走るクルマ」を作れなかった当時の米BIG3(GM、フォード、クライスラー)もショックを受けます。
「こんなに安くてチープなのに普通に走るクルマを作ったのはどこだ?」と、特に衝撃が大きかったのはGMだったらしく、恐れるくらいなら取り込んでしまえと提携を結び、計画していた低価格小型車をスズキへ全面的に任せてしまいました。
同じく提携関係にあったいすゞへ何かと口出ししたのと異なり、GMでは全く未知の分野なためかスズキは存分に腕をふるって初代「カルタス」を開発、フロンテ800(1965年)以来となる専用ボディの小型車はスズキ自身のほかにGMを通して世界中で販売。
現在は高品質低価格の小型車メーカーとしても一目置かれるスズキは、初代アルトをキッカケとして大躍進したのです。
アルトを引っ提げインドから世界へ!
さらにこの時期、インド政府が国営企業のマルチ・ウドヨグで生産する国民車構想のための合弁相手を探しに来日しますが、インドが要求するような低価格車を持っていて、かつ積極的に応じたのはスズキだけでした。
もちろん「インドが要求するような低価格車」とは初代アルト/5代目フロンテのことで、5ドア版のフロンテをベースに550cc3気筒エンジンF5Aを800cc化したF5Bを積み、「マルチ800」の名で1983年に発売。
2014年まで2代31年にわたり販売されるロングセラー車として「インドの国民車」となり、マルチ・ウドヨグ改め現在のマルチスズキは、インド最大の自動車メーカーであり、スズキの重要な海外生産拠点となりました。
電動化や自動運転の開発が必須な時代になると、単独での対応が困難になったスズキはトヨタ陣営の一員となって現在に至りますが、その背景には「インドをはじめ、トヨタやダイハツの力が及ばない新興国の市場をガッチリ押さえている」という事実があります。
初代アルト/5代目フロンテを作ったのも、それを引っ提げインドへ乗り込む決断をしたのも当時の鈴木 修 社長で、スズキ発展の話をするには、この「伝説級」名物経営者の名がどうしても欠かせません。
※この記事内で使用している画像の著作者情報は、公開日時点のものです。
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- 執筆者プロフィール
- 兵藤 忠彦
- 1974年栃木県出身、走り屋上がりで全日本ジムカーナにもスポット参戦(5位入賞が最高)。自動車人では珍しいダイハツ派で、リーザTR-ZZやストーリアX4を経て現愛車は1989年式リーザ ケンドーンS。2015年よりライタ...