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トヨタが挑戦中の水素エンジン…40年前に最高速118km/hを記録した「武蔵3号」の偉業【推し車】

40年以上前に走った、初代セルボがベースの水素エンジン車

スポーツカー風のフロントノーズでベース車から大きく印象が変わった初代セルボ改「武蔵3号」

水素で走る自動車と言えば、燃料電池を使うFCVのほか、最近ではトヨタがレースで盛んにアピールしているカローラスポーツの水素エンジン車や、ちょっと前にはマツダの水素ロータリーエンジン車など、内燃機関の燃料に使うケースもあります。

今回紹介するスズキのセルボ水素自動車「武蔵3号(MUSASHI3)」もそのひとつで、1970年代に日本で初めて水素エンジンを動かした武蔵工業大学(現・東京都市大学)と共同開発した、初代セルボをベースに水素燃料を使う2サイクルエンジン車でした。

一時期はGMやイギリス企業との提携で独自の燃料電池車も精力的に開発していたスズキですが、最近は国内2輪車メーカーとの連携で大型バイク用水素エンジンを作る動きもあり、「武蔵3号」などで得た知見が今後生かされるかもしれません。

「武蔵3号」のベースになった初代セルボってどんなクルマ?

リアエンジンの軽スポーツ、フロンテクーペ(1971年)の基本的なレイアウトやフォルムを活かし、デザインをリファインしたうえで550cc新規格車として1977年に改めてデビュー、車名を改めたのが初代セルボ。

どちらかといえば硬派なスポーツクーペだったフロンテクーペと異なり、女性向けスペシャリティカーへとコンセプトが変わっており、漫画でも「よろしくメカドック」で婦警の早坂 優が初代セルボのミニパトに乗るなど、女性の愛車として使われるシーンがあります。

ただし、初代アルト(1979年)に始まる軽ボンネットバンブームが、安価なパーソナルカーとして女性もターゲットに入った影響で初代セルボは販売面で成功したとは言い難く、フロンテクーペ同様の後輪駆動スポーツとして、硬派にカスタマイズされた例もありました。

それでもスズキはアルト/フロンテをベースに2代目以降も女性向けスペシャリティカーとしてセルボの設定を続け、4代目(セルボ・モード)を1998年まで販売、2006年には5代目が復活するものの販売不振は変わらず、歴代を通してあまり人気は得られなかったクルマです。

その中でも初代セルボはフロンテクーペの影響もあって旧車としての人気はそれなりにあるほか、1,000ccエンジンを積んでヨーロッパへ輸出され、今でもマニアがイベントなどで展示している姿を見ることができます。

武蔵工業大学の水素エンジン車、「武蔵」シリーズ

サイドから見ると、長いノーズが意外とマッチしていて、軽登録にこだわらないならこういうカスタムもありかな?と思わせる

1970年、武蔵工業大学(現・東京都市大学)内燃機関研究室の古濱 庄一教授(後に同大学の学長、名誉教授を経て、2002年没)が、日本で初めて水素燃料で駆動する水素エンジンの運転に成功。

第一次オイルショック(1973年)でガソリン価格が高騰、省エネ志向や代替エネルギーの開発が盛んになると、太陽光発電で作った水素燃料をエネルギー源とした水素エンジンの開発推進を提唱し、日本初の水素エンジン車「武蔵1号」を1974年に開発します。

その後、サニークーペをベースにした「武蔵2号」(1972年)でSEEDラリー(低汚染低燃費競争学生ラリー)へ出場、アメリカ西海岸2,800kmを5日で走破すると、次のステップとして初代セルボをベースにしたのが、「武蔵3号」です。

その後もZ32フェアレディZがベースの「武蔵8号」や、初代アベニールがベースの「武蔵10号」など、単に「水素エンジンで車を動かす」だけにとどまらない性能実証車を続々と作り、2009年には日本初のナンバープレートつき水素エンジンバスを公道走行させました。

最適なベース車を得て、最高速度118km/hを発揮した武蔵3号

後席部分へ詰め込まれた水素タンクのすぐ後ろにエンジンがあるのは、リアエンジンの初代セルボならでは

課題となったのは、混合気の水素濃度を上げると吸気弁が閉まる前に過早点火、炎が吸気管へ吹き返すバックファイヤーで運転不能となり、さりとて濃度を下げるとガソリン車に対し著しく出力不足となることで、武蔵3号では「圧縮行程前期噴射」を試みました。

これは吸気管に水素を噴射、混合気を燃焼室に送る方式に代わり、空気のみ送られた燃焼室の圧縮中に水素を低圧噴射する方式で、構造簡単で高出力、ガソリンを使った場合より高効率な部分がある2サイクルエンジンは、実用上も魅力的とされたのです。

しかし、武蔵3号の当時は既にほとんどのガソリンエンジンが4サイクルへ移行しており、特に最新の550ccエンジンで2サイクルといえばスズキのLJ50やT型くらい。

T5Aエンジンをリアに積み、運転席の背後まで水素エンジンシステムのスペースに使え、フロント部分の空力を改め速度性能を発揮させやすい初代セルボは、まさにベース車へうってつけです。

1979年に完成した武蔵3号はフロントを思い切り延長して空気抵抗を低減するノーズを装着、スズキの竜洋テストコースで最高速度118km/hを記録、狙い通りにガソリンエンジン車と遜色ない実用的な動力発揮に成功し、水素エンジン開発に大きく貢献しました。

現在の武蔵3号

背面の張り出しは水素エンジン化のための補機類か、それとも大型化されたリアバンパー同様、安全のための緩衝材だろうか?

その後は大学で長らく保管されていましたが、2014年にスズキへ寄贈、さすがに水素エンジンは老朽化で動かせないものの、技術遺産的な扱いで「スズキ歴史館」で展示されています。

(※武蔵3号の完成年はスズキ歴史館だと1979年、他の資料では1977年としているものもありますが、ここではIATSS 公益財団法人国際交通安全学会が公開している、1990年9月の学会誌Vol.16への古濱 庄一 氏自身による寄稿文「水素自動車」に記載の1978年としました)

最新「セルボ」中古車情報
本日の在庫数 202台
平均価格 33万円
支払総額 11~145万円

※この記事内で使用している画像の著作者情報は、公開日時点のものです。

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執筆者プロフィール
兵藤 忠彦
兵藤 忠彦
1974年栃木県出身、走り屋上がりで全日本ジムカーナにもスポット参戦(5位入賞が最高)。自動車人では珍しいダイハツ派で、リーザTR-ZZやストーリアX4を経て現愛車は1989年式リーザ ケンドーンS。2015年よりライタ...

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