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「ワゴンRならお子様が道路に飛び出さず安心」ってどうして?革命的ドアを備えた1990年代の軽トールワゴン【推し車】

もう5ドアでいいじゃない!とは簡単に言いにくかった昔の話

もう「5ドアで正解!」と決着がついた時期(1997年)に発売したホンダ ライフ(2代目)の広報画像には、「どうですか5ドアですよ!」と言わんばかりの姿もあった。

今やすっかり軽自動車も5ドアが当たり前、しかも後席両側スライドドアを装備しつつ、樹脂パーツの多用などで車重増加を最低限に抑える設計は、「職人芸」の域に達していると言ってもよいでしょう。

さすが軽自動車!日本の誇り!と言いたくなりますが、技術が追いつかない昔はドア1枚をめぐって1枚少なくしたり、増やして対抗したりという微妙なレベルでの競争もあったものです(ケチって少なくしたわけではなく、あくまで技術やコストの限界!)。

ハイルーフ軽乗用車が流行り始めた初期、1990年代の軽トールワゴンを見ているとなかなか面白いので、ちょっと振り返ってみましょう。

左右非対称3ドアに始まり、左2:右1の変則4ドアもあった三菱 ミニカトッポ

3ドアのみだった初代ミニカトッポだが、運転席は小さく、助手席は後席アクセスのため大きいドアという左右非対称スタイルで、3ドアなりに工夫していた。

初代ワゴンRが革命的大ヒットになったおかげで忘れられがちですが、近代軽乗用車で初めての軽トールワゴンは、1990年に初代が発売されたミニカトッポです(※)。

(※1970年代のホンダ ライフステップバンは、今のN-VAN同様あくまで軽商用ボンネットバン)

ただし安直に3ドアとしたわけではなく、右(運転席側)は大きく開かないよう短く、左(助手席側)は後席へのアクセスが容易なように開口部が大きく長いドアを採用しており、発想としては後のトヨタ ポルテや、タクシー専用車の日産 クルーなどと同様。

まだハッチバック車は3ドアが主流の時代に開発されたことや、ミニカをベースとしてハイルーフ化したので、重量増加や重心上昇、開口部拡大に伴う剛性悪化、それを避けるためのさらなる重量増を嫌って、いろいろ考え抜いた末の設計だと今ならわかります。

ただ、RVブームで多用途車が好まれる中、後席へのアクセスが不便すぎるのは考えものだったのでしょう、1993年にモデルチェンジした2代目では、従来通りの左右非対称3ドアのほか、左側に前後ドアを持つ左2:右1の変則4ドア車も用意されました。

しかしそうなると不便なだけで大した意味のない3ドア車は不人気だったようで、わずか1年ほどで乗用登録(5ナンバー車)は変則4ドアに統一、3ドアは商用登録(4ナンバー車)だけとなり、新規格で1998年発売の後継車「トッポBJ」は全車5ドアになっています。

変則4ドアのメリットを強調する広告まで出した、スズキ ワゴンR

1993年9月に同月デビューした初代ワゴンRと2代目ミニカトッポ(4ドア車)は揃って右側後席ドアがない変則4ドア車だった。

1993年9月に登場するや、スズキも予想していなかった大ヒットで軽自動車のみならず、日本車に大革命を起こした初代ワゴンRですが、同じ月にモデルチェンジした2代目ミニカトッポの4ドア車と同様、左2:右1の変則4ドア車でした。

それで売れたのだから、何の問題もないはず…と言いたいところですが、後述するフォロワーが5ドアを出してくると、「あれ?ワゴンには5ドアないの?右にしか降りられない時とか不便じゃない?」なんて声も聞こえてきたのでしょう。

当時の筆者は21歳くらいでしょうか…ある日新聞を見ると、かなり大きく「ワゴンRの右後席に閉じ込められて、降りられない子供が泣いている広告」があり、ビックリして二度見しました。

よく見ると「ワゴンRならお子様が道路に飛び出さず安心」という広告でしたが、パッと見では児童虐待かネガティブキャンペーンのようにしか見えず、スズキも妙な広告を出すな…と思ったものです。

それも結局はただの時間稼ぎ、あるいは広告があまりに不評で苦情でも殺到したのか、1996年4月にはちゃんと右後席ドアがある5ドア版「FXリミテッド」を追加したのですから、なおさら「あの広告はなんだったの?」と印象に残る結果に。

FXリミテッドは特別仕様車でしたが、4ヶ月後には「F」が頭につく5ドアグレード(FXやFT)、「R」が頭につく変則4ドアグレード(RAやRV)というラインナップで5ドア車が正式にカタロググレードとなります。

それならもう5ドアに統一したら?と思いきや、新規格版にモデルチェンジした2代目(1998年)でも頑固に変則4ドアのR系グレードをラインナップしており、2000年4月にようやく廃止、軽自動車最後の変則4ドア車となりました。

「全車5ドアの軽トールワゴン」という第2革命、ダイハツ ムーヴ

サラっと当たり前のように右側後席ドアを設け、「普通は5ドアでしょ?」とすました顔で言いそうな初代ムーヴ ©Konstantinos Moraiti/stock.adobe.com

ムーヴには「ワゴンRの後追いで結局勝てなかった万年2位」という印象が強く、筆者のようなダイハツ党には悔しいところですが、裏ムーヴこと「ムーブカスタム」の追加(1997年5月)で「標準車とカスタムの2本立て」という流れを作った重要車種でもあります。

そしてもう1つ、「最初から全車5ドア車で発売した、初の軽トールワゴン」という、ワゴンRの大革命をさらに拡大推進する第2革命を起こしたクルマでもありました。

基本的には4代目ミラのフロアや着座位置はそのまま、座面が低くハイルーフのメリットを活かせていない、というミニカトッポ同様の欠点を持っていた急造車種でしたが、5ドアの利便性は大いに評価されて販売面でもワゴンRにとっては脅威となります。

それで慌てたスズキが、前述した「変則4ドアのメリット強調広告」を出したのかな…と想像していますが、ホンダもトゥデイをベースに5ドアトールワゴン化したライフ(2代目)を1997年4月に発売。

その頃にはワゴンRにも5ドア車が出ていましたし、構造上どうにもならなかったのか、「軽トールワゴンの元祖」ミニカトッポだけが5ドア化できないまま一人負けの形になりました。

ドアを1枚でも減らして少しでも安くて軽くするより、ユーザーは多少値段が上がって重くとも便利な方を選ぶ…とわかったはずですが、ダイハツは後に2代目タントで左側のみ後席スライドドアを採用してしまい、両側に採用したスズキやホンダに遅れを取ります。

「先行する側はコストや重量に気を使い、後追いする側はユーザーの不満をすくい上げるか」という構図は、なかなか変わらないのかもしれませんね。

※この記事内で使用している画像の著作者情報は、公開日時点のものです。

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執筆者プロフィール
兵藤 忠彦
兵藤 忠彦
1974年栃木県出身、走り屋上がりで全日本ジムカーナにもスポット参戦(5位入賞が最高)。自動車人では珍しいダイハツ派で、リーザTR-ZZやストーリアX4を経て現愛車は1989年式リーザ ケンドーンS。2015年よりライタ...

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