更新
アトキンソンサイクルエンジンとは?仕組みやメリットからトヨタやホンダの搭載車についても
アトキンソンサイクルとは?
トヨタ プリウス 2代目

その前にエンジンの動作原理をおさらい
トヨタ プリウスやホンダ フィットが搭載するエンジンとして、よく聞くようになった「アトキンソンサイクル」という名前。
普通のエンジンと一体何が違うのでしょうか。
アトキンソンサイクルの説明に入る前に、エンジンの基本的な動作原理をおさらいしましょう。
現在、多くの車に搭載されているレシプロエンジンは、シリンダという筒の中でガソリンを燃焼させ、その膨張圧力でピストンを押し下げる力をクランクを通して回転運動に変え、タイヤを駆動しています。
4サイクルエンジンの場合、その際シリンダ内のピストンの動きは
1、吸気(吸気バルブを開けてピストン下降)
2、圧縮(吸・排気バルブを閉じてピストン上昇)
3、膨張(吸・排気バルブを閉じてピストン下降)
4、排気(排気バルブを開けてピストン上昇)
という4つのプロセスを繰り返すことでエンジンを駆動しています。
私たちが普段、自動車の原動機として使っているエンジンのほとんどは、オットーサイクルという理論に基づいて設計され、圧縮と膨張が同じ比率で動作しています。
▼4サイクルエンジンの説明動画
つまりアトキンソンサイクルとは?
注射器を例にすると理解しやすいと思います。
先端を塞いだ注射器のピストンを手で押すと、力をかけた分だけ中の空気が圧縮されます。
手を離すと、圧縮された空気が元に戻り、ピストンは元の位置まで戻ります。
もし、圧縮した注射器の中にガソリンを入れて、中で点火したとしたら、ピストンはその膨張圧力で、元の位置どころか、もの凄い勢いでどこかへ吹っ飛んで行くことでしょう。
オットーサイクルでは、圧縮と膨張の比率が同じなので、”元の位置”までしか戻すことができません。
しかし、膨張圧力はピストンを元の位置に戻しても、まだピストンを吹っ飛ばすだけの力が残っています。
オットーサイクルでは、もったいないことに残りの圧力は排気として捨ててしまうのです。
そこで、この残った膨張圧力を使い切るために考え出されたのがアトキンソンサイクルです。
アトキンソンサイクルは、圧縮比よりも膨張比を大きくとることで、膨張圧力を有効利用する画期的なエンジンサイクル理論です。
自動車のエンジンの仕組みに関連するおすすめ記事はこちら
アトキンソンサイクルの構造と仕組み
▼1882年にジェームズ・アトキンソンにより開発された理論モデル
膨張比を大きく取りたいのなら、ピストンストロークを長く取ればいいのでは?と思う方もいるでしょう。
しかし、オットーサイクルでは圧縮比と膨張比が同じくなるので、膨張比を大きく取ると、圧縮比が高くなりすぎるのです。
圧縮比が高すぎると、ガソリンがスパークプラグで点火される前に燃焼してしまうノッキングやデトネーションなどの異常燃焼が起こり、エンジンを壊してしまいます。
適切な圧縮比を保ったまま膨張比を大きくとるために、アトキンソンサイクルエンジンは複雑なリンク機構を持ったクランクシャフトを用いることで、膨張行程のみピストンが下がる工夫をほどこしました。
これによりエネルギー効率が飛躍的に上がった次世代エンジンが発明されたのです。
エネルギー効率は良いが実用性は?
しかし、複雑なクランクを利用したアトキンソンサイクルエンジンでは、いくらエネルギー効率が向上し、燃費が良くなっても、回転変動のある自動車用のエンジンでは実用は難しいです。
重すぎるクランクシャフトでは、アクセルに即座に反応するエンジンレスポンスは期待できず、高回転まで回すことができない上に、複雑な構造は耐久性の低下と故障率の高さにつながります。
これでは自動車のエンジンとしては力不足です。
では、トヨタやホンダが謳うアトキンソンサイクルはどういった構造を取っているのでしょうか。
ミラーサイクルのメリット・デメリット
重く、複雑なクランクシャフトを持つアトキンソンサイクルは、自動車のエンジンには使えないと判断した各自動車メーカーは、バルブタイミングを変更することで疑似的なアトキンソンサイクルを作り出すことにしました。
シリンダ容積はそのままに、吸気する混合気量を減らして膨張圧力を減らすという考え方です。
そうすることで、従来のエンジンストロークのまま、小さくなった膨張圧力から、エネルギーを無駄なく引き出すことができるのです。
つまり、排気量が小さく、膨張比を大きくしたエンジンと同じ働きをするのです。
実は、これはミラーサイクルと呼ばれる手法で、1993年にマツダが発売したユーノス800/ミレーニアですでに実用化していました。
マツダのミラーサイクルと区別をするため、他メーカーはミラーサイクルをアトキンソンサイクルと称して開発・生産しています。
ややこしいのですが、同じアトキンソンサイクル理論である膨張圧力を無駄なく引き出す手段の一つが、ミラーサイクルという手法なので別名が使われていても間違いではありません。
トヨタ・ホンダが採用するアトキンソンサイクルのメカニズム
オットーサイクルではピストンが下がりきったタイミングで、吸気バルブを閉じ、シリンダ内の混合気を圧縮します。
それに対して、アトキンソンサイクルでは、吸気行程でバルブを“早閉じ”することで、エンジンに取り込む混合気の量を減らす方法。
もしくは、圧縮行程でバルブを“遅閉じ”することで、エンジンに取り込んだ混合気を逃がす方法の2種類の方法があります。
この2種類のどちらかのバルブタイミングに設定することで、疑似アトキンソンサイクルが実現できます。
トヨタとホンダは“遅閉じ”を採用しています。
仮に排気量が1500ccのエンジンだとすると、1500ccのシリンダ容積を持つエンジンに1000cc分だけの混合気を燃焼させて、その膨張圧力から、より多くのエネルギーを回収します。
絶対的なパワーではオットーサイクルの1500ccエンジンには劣りますが、優れたエネルギー効率を発揮するのです。
そして、不足するパワーは電気モーターで補う。
それがトヨタとホンダのアトキンソンサイクル+ハイブリッドシステムの考え方です。
アトキンソンサイクルエンジン搭載車
トヨタ プリウス(4代目)

4代目プリウスの2ZR-FXEエンジンにアトキンソンサイクルを採用。
トヨタ クラウン ハイブリッド

クラウンハイブリッドの2AR-FSEにもアトキンソンサイクルが採用されます。
レクサス RC F

レクサス RC Fも一定走行ではアトキンソンサイクルにより燃費・環境性能を向上させます。
▼レクサス RC Fの詳しい解説と比較についてはこちら
ホンダ フィット(3代目)

L13Bエンジンにアトキンソンサイクルエンジンが採用されています。
ホンダ アコード ハイブリッド

アコードハイブリッドのエンジンにもアトキンソンサイクルが組み合わされます。
アトキンソンサイクルから可変圧縮比技術へ

圧縮比に対して、膨張比を多く取るアトキンソンサイクル理論はミラーサイクルという手法を取ることで、省燃費・高効率な自動車用エンジンとして実用に至りました。
また、VVT-iやi-VTECなどの可変バルブタイミングを用いることで、省燃費走行時はミラーサイクルで運転し、パワーが欲しい加速時にはオットーサイクルで運転するといった、状況に合わせたエンジン特性を得ることができます。
アトキンソン・ミラーサイクルは、もはや単なる高効率なエンジンを超え、長年難しいとされてきた可変圧縮比技術の一部になりました。
エンジンの仕組みに関連するおすすめ記事はこちら
- 執筆者プロフィール
- MOBY編集部
- 新型車予想や車選びのお役立ち記事、車や免許にまつわる豆知識、カーライフの困りごとを解決する方法など、自動車に関する様々な情報を発信。普段クルマは乗るだけ・使うだけのユーザーや、あまりクルマに興味が...