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モータースポーツは冷徹な計算で成り立つ企業活動?各メーカーが参戦する理由は?
モータースポーツといっても、上はF1やWRCなどから、下は草レースまでさまざま。
中でも自動車メーカー自ら参戦するようなカテゴリーでは、老舗から新進気鋭のメーカーまでがしのぎを削り、近年はフォーミュラEや自動運転車のレースなど、先進技術の最前線となってきました。
モノを作って売り、利益を稼ぐという企業としての利潤追求にしては規模が大きすぎるモータースポーツへ、自動車メーカーが参戦し続ける理由を考えてみます。
目次
メーカーにとっては冷徹な計算で成り立つ「企業活動」
モータースポーツとは、 「スポンサーのため、あるいは情熱のため走るプライベーター」と、「メーカーそのもの」、大きく2つに分けられます。
大々的な参戦発表、参戦中のTV中継、その後の広告アピールまで大きく扱われるのは、大抵メーカーそのものか、メーカーの息がかかった有力チームの活躍など限定的です。
反面、広告効果が最大になる地域でしか大きく宣伝しないため、「実はモータースポーツで大活躍しているけど、日本ではマイナーな国産車」があったり、「その車種で勝っても市販車の宣伝にならないから」と、早々にメーカーワークス体制を打ち切られる悲劇も。
自動車メーカーによるモータースポーツ参戦は、情熱や栄光に突き動かされるプライベーターと異なり、冷徹な計算で成り立っている「企業活動」なのです。
自動車メーカーがモータースポーツに参戦し続ける理由は?
モータースポーツと一口に言っても、レースのような「競争」、ジムカーナやダートトライアルなど「タイムアタック」、正確性も要求する「ラリー」、芸術点の「ドリフト」とさまざま。
市販車に近い車両で行われる競技、完全にレース専用マシンを開発して行われる競技など、使用されるクルマも全く異なりますが、自動車メーカーがモータースポーツに参戦し続ける理由は何でしょうか?
市販車の性能をアピールするため
時代はどうあれ、メーカーとグループ企業の力を結集し、市販車の信頼性や耐久性をアピールし続けねばならない場合もあります。
過酷な悪路の長距離ルートを走り切るダカールラリーでは、総合優勝を狙う高性能な改造車クラスはもちろん、完走だけで御の字な市販車無改造部門にも、ランドクルーザーなど「市販車のブランド」を守りたいトヨタや日産、三菱などが力を注ぎました。
無数のコーナーや荒れた路面で難易度が高いニュルブルクリンク24時間レースなど、レクサス LFAのような「ブランド戦略上、非常に重要な車」を走らせたトヨタや、スバルなども不況に負けず力を入れています。
メーカーのブランドイメージ維持向上のため
F1のようなフォーミュラカー、WRCや国内ならSUPER GTのように、姿形は似ていても中身が全く異なる車で参戦する場合は、メーカーのブランドイメージ向上が最大の目的です。
近年、地味な大衆車メーカーからのイメージ脱却を図るトヨタは、「GR(Gazoo Racing)」を押し立てあらゆるカテゴリーへ積極参戦しており、 国産車メーカーの中でも ブランドイメージ向上にモータースポーツをもっとも活用しています。
当初は国産車メーカーも意義を見出しかねていた
第1回日本グランプリの衝撃
そもそも、日本で本格的にモータースポーツが盛んになったのは1950年代、四輪車はもっと遅く1960年代、ホンダが鈴鹿サーキットを建設して以降です。
鈴鹿で1963年5月に開催された第1回日本グランプリは、二輪のレースでノウハウを蓄積したり、海外情勢の研究でレースを理解したメーカーから、そうでないメーカーまでさまざま。
中には、「要するにウチの市販車の高性能を見せつけ、勝てばいいんででしょ?」とタカをくくっているメーカーもありましたが、フタを開ければ以下のとおり。
- トヨタ:チューニングカーで勝てるクラスだけ参戦、クラウン、コロナ、パブリカ全て優勝
- 日産:ラリーで忙しいため、フェアレディ(SP310)1台だけフルチューンして軽く優勝
- スズキ:2輪レースのノウハウを活かしたフルチューンのフロンテで優勝
- 日野:クラブチームと共同のワークス体制を敷き、コンテッサでクラス優勝
- いすゞ:優勝こそできなかったものの、在日米軍レーサーがベレルでクラウンを猛追
- プリンス:漠然と出てスカイラインスポーツもグロリアもクラウンに惨敗
- スバル:スバル450はパブリカに、360もフロンテに惨敗
※この年、マツダ、ダイハツ、ホンダは参戦できる市販車発売直後か発売前で未参戦。
「レースは金をかければ、それ以上の利益を生む」
見事に明暗が分かれ、特にトヨタは新聞広告で「クラウンも、コロナも、パブリカも全部勝った!」と、セールスを大いに後押しした一方、スバルなどはユーザーからの苦情の電話が鳴り止まなかったと言われています。
これでようやく「レースは利益になるし、そのためには資金を注ぎ込まねばならない」と気づいたプリンスは、翌年の第2回グランプリでスカイラインGTの伝説を作り、スバルもフルチューン360でフロンテへ雪辱を果たしました。
その後、おおむねどのジャンルでも自社が発売するメーカーの高性能や耐久性を証明し、販売に役立てる宣伝の場として、モータースポーツは大いに活用されたのです。
モータースポーツが足かせとなった時代もあった
環境対策に右往左往して沈滞化した時代
しかし1970年代、オイルショックによるガソリン価格高騰、アメリカの厳しい排ガス規制「マスキー法」で、自動車メーカー各社はレースどころか高性能車の販売すら難しくなり、モータースポーツ界はメーカーワークスの撤退、解散が相次ぎました。
対策が済んだ1980年代以降は再び販売が活発化した高性能車のレースや、F1、WRC、ル・マン24時間レースといった世界的権威を誇るレースへも積極参戦します。
円高ドル安によって高価になり、もはや「安くてよく走るクルマ」ではなくなった日本車の価値を引き上げるには、国際的イベントで勝利し、欧米でブランドを認められる必要があったからです。
世界不況でモータースポーツどころではなくなった時代
しかし2008年、世界経済を混乱させた「リーマンショック」で、再びメーカーは撤退、縮小を余儀なくされ、ダイハツ(DRS)やスズキ(スズキスポーツ)のように、ワークスチームが解散したままのメーカーすらあります。
自動車メーカーが環境性能や経済性に力を入れねばならない時、モータースポーツはその手助けにならないどころか、足を引っ張る存在だったのです。
クルマが変わり、今後のモータースポーツも変わる?
かつて市販車とかけ離れすぎ、「環境や経済性向上へ金を投じるべき」と批判されたモータースポーツは、もう昔の話になりつつあります。
今後10~20年ほどでガソリンや軽油を燃料とする純内燃機関の新車販売廃止、それに代わるパワーユニット、自動運転技術によって大きく変わる市販車へフィードバックする最新技術の実験場として、モータースポーツは大いに活用されるでしょう。
フォーミュラEなど純EV、トヨタが試みる水素エンジン、自動運転車などによるレースや競技はますます盛んになりそうで、これからの自動車メーカーは、むしろ環境や安全、経済性といった最新技術のアピールが、モータースポーツへ参戦する理由になりそうです。
- 執筆者プロフィール
- 兵藤 忠彦
- 1974年栃木県出身、走り屋上がりで全日本ジムカーナにもスポット参戦(5位入賞が最高)。自動車人では珍しいダイハツ派で、リーザTR-ZZやストーリアX4を経て現愛車は1989年式リーザ ケンドーンS。2015年よりライタ...