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「7つのSって何だ?」スズキが挑んだ《新規格軽自動車》4代目フロンテ7-S【推し車】

大混乱の中生まれた4代目フロンテ後期型「フロンテ7-S」

スズキ歴史館に展示されているのは、フロンテ7-Sでも443cc2スト直3のT4Aを積む前期型

軽自動車が1998年10月に現在の「新規格」になってからはや25年…「新」という言葉が似合わなくなってきましたが、今までも何度かボディサイズや排気量の拡大を伴う規格変更はありました。

その中で一番慌ただしかったのは、交通事故増加によって特に死亡率の高かった軽自動車の安全対策と、厳しくなる一方の排ガス規制の両方に対応し、かつ燃費低減努力まで求められた1976年1月の規格改定です。

各社ともモデルチェンジにまで手が回らず、段階的なマイナーチェンジ程度の対応になりましたが、スズキも1976年5月に軽乗用車の4代目フロンテをビッグマイナーチェンジ、「フロンテ7-S」と名を改めて発売しました。

マスキー法の影響で国内排ガス規制強化!

全幅拡大や大型バンパーでガッシリしたなと思う反面、4代目フロンテが本来持つ塊感や曲線美は失われ、何か重く大きく感じる

アメリカのマスキー法(1970年大気浄化法改正法)に始まる厳しい排ガス規制は各国の自動車メーカーを揺るがし、とても実現は無理だという声に緩和はされたものの、特にアメリカへ自動車を輸出している国・地域ではマスキー法と同等の排ガス規制を施行します。

ただしもちろん一気には無理で、日本だと最終的には1978年に施行されるマスキー法相当規制、「昭和53年排出ガス規制」に向け、1973年の「昭和48年排出ガス規制」から段階的に規制を強化しました。

これで自動車メーカーは対応に追われ、従来のように毎年のように新型車や改良型を発表し、高性能や豪華さを競うなど無理な話となって、排ガス規制通過が最優先でガタ落ちになった性能は排気量アップで対応しますが、そうもいかないのが軽自動車です。

1954年に2サイクル/4サイクルともに360ccと決まって以降、大きな規格変更はなかった軽自動車ですが、1967年のホンダN360発売とともに始まった、ツインキャブでリッター100馬力を超すようなパワー競争は排ガス規制で終結し、一気にマイルド路線へ。

同時に安全性拡大で車体拡大!重量増加!ああっもう?!

側面から見ると前後に突き出すバンパーを除けば4代目フロンテらしいアウトライン(輪郭)だが、前後デザインの違いは大きい

同時期、1960年代後半からのマイカーブームで交通事故増加、車体が小さくクラッシャブルゾーンが少ないうえ、衝撃吸収構造などない時代の軽自動車は死亡率が特に高いのが問題となり、1973年10月の車検義務化とともに、ボディ拡大も迫られます。

しかしボディ拡大は重量増加を招き、一方で排ガス規制のためパワーダウンでは、スポーティ路線どころか実用性に致命的な影響があり、軽自動車規格の存亡に関わりました。

そこで車体寸法の拡大とともに、排気量上限を360ccから550ccへ拡大する規格改定が1975年9月に決まり、1976年1月からの施行が決まりますが、軽自動車メーカー各社は規格改定への対応、排ガス規制対策、商品力確保に四苦八苦。

最初から水冷4スト(ストローク)エンジンで最も有利なホンダに限って1974年に軽乗用車からイチ抜け(1988年に初代トゥデイ乗用版追加で復帰)、1969年に水冷2ストエンジンを新開発したマツダなど最悪で、1976年にシャンテを廃止して軽乗用車から撤退します。

他は三菱とスバルが既に水冷4ストエンジンへ移行していて排気量を拡大するだけで良く、ダイハツも親方トヨタの支援で新型の水冷4スト550ccエンジン「AB型」を開発、ホンダ撤退で軽No.1メーカーになったスズキは唯一、2ストのまま排ガス規制突破を決断しました。

4代目フロンテは「フロンテ7-S」へ…7-Sって何?

なんとなく1979年にモデルチェンジする5代目フロンテ/初代アルトにつながるデザインで、ワイド&ローのどっしり感

当時のスズキは、「オーバル・シェル」と呼ばれる卵型曲面ボディで4ドアのファミリーカー路線に転じた4代目フロンテを1973年に発売、翌年のホンダ軽乗用車撤退で一応は人気モデルになっていました。

しかし1976年1月規格改定版に伴うビッグマイナーチェンジでは、従来のバランスがよく塊感があったデザインを維持する余裕などなく、全長は衝突安全性能向上も狙った前後大型バンパーで伸ばし、全幅とトレッド拡幅で居住性と安定性確保。

なりふり構わぬ寸法拡大が最優先の凡庸なデザインとなりますが、ともかく新型っぽく見せて排ガス規制対応もアピールすべく、「フロンテ7-S」へと改名しました。

「7-S」とは何かといえば、以下の7つの「S」を意味します。

  • 1.Space(スペース)
    プラス100mmのワイドボディでゆとりある室内空間。
  • 2.Safety(セイフティ)
    大型バンパーによる安全性向上、リアコンビネーションランプによる被視認性向上、ワイドトレッド化などで走行安全性向上。
  • 3.Sense(センス)
    ワイド化で安定感の高まった外装と、色調統一でハイセンスな内装。 
  • 4.Save money(セーブマネー)
    T4A型エンジン搭載車は10モード燃費18km/Lの低燃費でガソリン代が安く、税金や保険料も割安と、経済性に優れる。
  • 5.Silent(サイレント)
    エンジンやドライブシャフトなどの改良で静粛性を、2重防音剤などで遮音性もアップ。
  • 6.Stamina(スタミナ)
    排気量拡大によるトルクアップで出足が優れ、加速や登坂に必要なスタミナも十分!
  • 7.Suzuki TC(スズキTC)
    エキゾーストマニホールドマフラーパイプへ2重配置した酸化触媒へ、さらにエアポンプで二次空気を供給するスズキ独自の排出ガス浄化システム、スズキTC(Twin Catalyst)の採用。

スバルが「レックス5」(後にレックス550)、三菱が「ミニカ5」(モデルチェンジでミニカアミ55)と、それぞれ段階的な500cc→550cc化を表すわかりやすい、ただし芸のない名称変更なのに対し、スズキは説明が面倒なものの、キャッチーな改名でした。

暫定規制対策のT4Aと、「トヨタから供給」のダイハツ製AB

フルサイズ550ccエンジンを積んだフロンテ7-S後期型は、2スト3気筒のT5Aのほか、スズキ独自のF5Aが間に合わなかった初期には、名目上はトヨタエンジンという事にしたダイハツ製4スト2気筒のAB10を暫定搭載する、珍しい例となった

肝心のエンジンですが、軽乗用車用2ストエンジンはもともと小排気量で、ブン回して高出力を得るため排ガス中の有害物質や燃費性能は厳しく、仕方なく昭和51年排出ガス規制の段階で若干緩めた「昭和50年暫定規制」が1977年9月生産車まで適用されました。

大急ぎで開発された新規格版フロンテ7-S初期型は、暫定規制対応のため、従来の4代目フロント用水冷2スト356cc直3の「LC10W」をボアアップして443cc化、スズキTC排ガス浄化システムを組み込んだ「T4A」を急造します。

これで1976年4月~1977年9月の暫定期間を乗り切る間に、水冷2気筒のL50をベースに3気筒化、スズキTCの発展型TC-53を組み込んだ、昭和53年排出ガス規制対策2ストエンジンの本命、LJ50の横置きRR車用「T5A」を開発しました。

しかしこのT5A自体も「つなぎ」で、排ガス規制の激しい乗用車用としてはパワーが物足りず、将来性を考えれば4スト化は避けられません。

ただ、それまでスズキが開発した4ストエンジンは海外向けジムニーと、国内向けにも少数販売されたジムニー800用の797cc直4SOHCエンジン「F8A」しかなく、3気筒化&ストロークダウンした「F5A」の開発に手間取りますが、暫定規制明けは目前です。

やむなく、同じ東海地方発祥の縁でトヨタを頼り、トヨタ傘下のダイハツ製547cc4スト直2SOHCエンジン「AB」をトヨタ経由で仕入れ(※)、1977年6月の550ccフルサイズ化へT5Aともども間に合わせました。

(※資料によっては「ダイハツから買った」と書かれていますが、実際にはトヨタ経由で仕入れており、カタログの諸元表には「トヨタAB10型」、スズキ歴史館の展示説明文にも「トヨタより供給」と書かれています)

1978年10月には開発完了したF5Aへ更新されたため、ダイハツ製トヨタエンジンAB10を搭載したフロンテ7-Sは、1年2ヶ月ほどの短期間販売されたのみです。

単に他社のエンジンというだけならともかく、ライバル社のエンジンを載せる決断はやむをえない「妥協」だったと思いますが、同時期では他にもマツダの軽トラ「ポーターキャブ」が、550cc化で三菱製2G23「バルカン」や同3G81「サイクロン」を積んだ例があります。

※この記事内で使用している画像の著作者情報は、公開日時点のものです。

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執筆者プロフィール
兵藤 忠彦
兵藤 忠彦
1974年栃木県出身、走り屋上がりで全日本ジムカーナにもスポット参戦(5位入賞が最高)。自動車人では珍しいダイハツ派で、リーザTR-ZZやストーリアX4を経て現愛車は1989年式リーザ ケンドーンS。2015年よりライタ...

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