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「世界よ、これが日本だ」未来を夢見たロータリー、007にも登場したヤマハとの力作…日本が誇る国産スーパーカー【推し車】

夢もまた夢…の時代に生まれた国産スーパーカー

車格としてはともかく、ハンドメイド時代の価格はスーパーカー級だったいすゞ 117クーペ(1968年発売・172万円)

1990年代以降、ホンダ NSX(初代)やレクサス LFAなど「国産スーパーカー」と呼べるクルマはいくつか登場しましたし、日産 GT-Rも価格や性能を考えればスーパーカーと呼べるかもしれません。

しかしそれ以前は国産スーパーカーなんて夢もまた夢、プリンス(日産) R380や日産 MID4が市販化されていれば伝説になったかもしれませんが、基本的には全てが大衆車メーカーである日本の各社にとって、それは許されない夢だったようです。

しかし中には当時の高級セダンより高価なスポーツカーもあり、いすゞ 117クーペ(1968年デビュー当時172万円)のように、生産方法の都合で高価だったのを除き、車格、性能ともに当時のスーパーカー級だった2台の「60年代国産スーパーカー」を紹介しましょう。

未来を夢見たロータリー・スーパーカー、マツダ コスモスポーツ(1967年・148万円)

輸入車でも価格が比較的安いわりにスーパーカー扱いを受けるロータス車などを考えれば、コスモスポーツも「国産スーパーカー」としての資格はあると思う

日本車がようやく海外の模倣から、その後独自の発展を遂げていく礎となる技術やデザインを手にし始めた1967年、数年前から何度かモーターショーで出展し、発売が待ち焦がれていたマツダの「コスモスポーツ」が、ようやく市販にこぎつけました。

西ドイツ(当時)で実用化されたヴァンケル・ロータリー、それも「世界で初めて実用化に成功した2ローターエンジン」をフロントミッドへ搭載、そのコンパクトさを象徴するようにひたすら低く、平べったい国産車離れした姿は、まさに「未来のスーパーカー」。

実際に乗ると、当時の技術の限界もあってかボディは重く、補機類まで含めれば意外に重く、一度ついた慣性の制御が難しいロータリーエンジンの特性もあり、後の近代的な高性能レシプロエンジンに比べ、軽快に吹け上がる感覚はありません。

しかし、グロス100馬力も出れば十分ハイパワーという時代に前期110馬力、後期128馬力の最高出力は魅力的でしたし、何よりエンジンだけパワフルでもズングリムックリが多い、当時の国産車とはデザインの方向性がまるっきり違います。

デビュー当時の価格は148万円、消費者物価指数(2020年基準)換算だと2023年6月現在の価格は約960万円ということになりますが、昔は大卒サラリーマンの初任給が現在の1/10程度でしたから、実感としての2023年換算価格は1,480万円くらいでしょうか。

これに近い価格で買える2023年8月現在の現行モデルは、アルピーヌ A110R、ロータス エミーラ、2024年型日産 GT-Rのピュア/プレミアム/ブラックエディション、BMW M4クーペ、シボレー C8コルベットの2LT(6.2L V8)あたり。

高性能ツーリングカーや安価なGTカー、ピュアスポーツあたりの値段ですから、当時のコスモスポーツは、「若い庶民は頑張っても新車を買えないが、将来の憧れにできる程度のスーパーカー」だったと言えそうです。

「007は二度死ぬ」にも登場したヤマハとの力作、トヨタ 2000GT(1967年・238万円)

当時の最新技術と可能な限りの高品質を追求し、世界記録も樹立する高性能を達成したトヨタ 2000GTは、価格以外のあらゆる面から見ても、まぎれもない国産スーパーカーだったと言えるだろう。

スパイ映画「007」シリーズ第5作「007は二度死ぬ」(邦題)で、日本人女性エージェントの愛車(※)として登場。

当初アストンマーチン車を使う予定が、オープンスポーツを準備できるなら国産車を採用となって突貫作業でフルオープン車を作り、国際的な銀幕デビューを果たしたトヨタ2000GTは、そのエピソードだけでもスーパーカーとしての資質があったと言えるでしょう。

(※そのため、厳密にはボンドカーではない)

1960年代半ばには国産車メーカートップシェアを誇り、日本を代表するスポーツカーを作ろうとしたトヨタと、独自の4輪車進出こそ断念したものの、それまでの研究成果を活かしたいヤマハがタッグを組んで開発・生産した2000GTは、1967年に238万円で発売。

5ナンバーサイズの2リッター直6スポーツでしたから、現在で言えばスープラどころかGR86より劣るように思えるものの、古いクルマというのは最新スペック比較より、当時の技術や文化を物差しに考えるものです。

そういう意味では、強固なX字フレームに4輪ダブルウィッシュボーン独立懸架のサスペンション、ロングノーズ&ショートデッキで当時最新のスポーツクーペスタイルに、リトラクタブルヘッドライトと大型ヘッドランプを組み合わせたフロントマスクと高級内装。

ヤマハがM型をチューンした、トヨタ初の市販車用エンジンは150馬力を発揮し、谷田部の自動車高速試験場で挑んだスピード・トライアルでは当時の国際記録を多数樹立するなど、ただ高価で新しいだけでなく、「世界に挑んだ堂々たるスーパーカー」でした。

それだけに238万円と、コスモスポーツなど目じゃない高価なクルマとなり、現在の価格でいえば2020年消費者物価指数を基準としても約960万円、大卒初任給基準でも約2,480万円という、「大抵の庶民は一生かかっても買おうと思わない、スーパーカー価格」に。

ただ、2023年7月現在の現行モデルと比較すると、昨今の急激な円安で輸入車が軒並み値上がりしたこともあり、フェラーリやランボルギーニはおろか、ポルシェ911ターボでも、さらに日産 GT-R NISMOですら、2,480万円で買えるモデルはありません。

なんとなく近いのは、マセラティ グラントゥーリズモ モデナや、メルセデスAMG GT Rといった、高性能で高めのGTカーで、かつてのトヨタ 2000GTと立ち位置が近く、どのみち庶民が新車購入を考えるわけもない価格など、共通点の多さが興味深いところです。

1967年当時の日本人にとって、前述のコスモスポーツが「頑張ればいつかは手が届くかもしれないスーパーカー」なら、トヨタ 2000GTは、「永遠の憧れとして遠くから眺めるだけだった、雲の上のスーパーカー」だったのではないでしょうか?

※この記事内で使用している画像の著作者情報は、公開日時点のものです。

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執筆者プロフィール
兵藤 忠彦
兵藤 忠彦
1974年栃木県出身、走り屋上がりで全日本ジムカーナにもスポット参戦(5位入賞が最高)。自動車人では珍しいダイハツ派で、リーザTR-ZZやストーリアX4を経て現愛車は1989年式リーザ ケンドーンS。2015年よりライタ...

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