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【誤解も解きたい】キャデラック初コンパクトSUV「XT4」と高級セダン「CT5」試乗レポート
撮影・文:宇野 智
ゼネラルモーターズ株式会社は、2021年1月15日、キャデラック初となるコンパクトSUV「XT4」と、新型セダン「CT5」の国内発売開始を発表しました。本国アメリカではすでにデビューしていましたが、新型コロナの影響で国内販売開始が当初計画より遅れ、そのタイミングでの発表となりました。
試乗会場はキャデラックに似合う場所
試乗会は、日本橋兜町にある「K5ホテル」で開催されました。このホテルは1923年に建てられた日本初の銀行、旧第一銀行別館をリノベーションしたもので歴史的建造物となっています。また、2024年に刷新される1万円札の顔となる渋沢栄一とゆかりのある地でもあります。
キャデラックは1902年の創業、1914年に日本上陸しています。旧第一銀行別館が新築のころ、キャデラックがその辺りを走っていたことでしょう。
キャデラックに対しての誤解
「キャデラック」の名を聞くと、アメリカの富の象徴を連想される方が多いのでは?少しばかり、キャデラックについて誤解されている方が少なくないのでは、と思い本題に入る前に、少しこのブランドについてお話しします。
キャデラックは高級車、という概念は間違いではありません。しかし、キャデラックは高級車が貴族など限られた人のためのものではなく、ラグジュアリーな車をより広く、より多くの人に乗ってもらえるようにというコンセプトをもつブランドです。
また、アメ車は身体の大きい人が乗ることを前提に設計されている、という概念もキャデラックにおいては正しくありません。アメリカ合衆国は多民族国家。多種多様な人種が住む国です。身体の大きい人から小さい人まで、多種多様。たとえ小柄な女性であっても、キャデラックが運転できるよう設計されています。
この写真の女性は、マリリン・モンロー。身長は166cm。アメリカ人にしては小柄なほうです。後ろの車は、キャデラックのアイコン「エルドラド」。
エルドラドは、市販車世界初となるパワーウィンドウ、パワーシート、エア・サスペンションを採用していました。また、1965年には、チルト&テレスコピック・ステアリング(ステアリングの位置調整機構)を世界初採用し、多種多様な人がより快適に運転できるような開発が行われています。
安全面においてもキャデラックは自動車の歴史にその名をしっかりと刻んでいます。今や標準装備となったエアバッグを市販車に初採用したのはキャデラック(1974年)です。最近では、夜間に肉眼では見えづらい歩行者をディスプレイに映し出す「ナイトビジョン」を2000年に世界初採用するなどしています。
歴史を遡れば、1908年に世界初の他車種と互換性のある部品を開発採用、1912年には、セルモーターを初採用(それまでの自動車のエンジン始動は、ときに命を奪うこともあった力作業であった)しています。
ほかにもいくつもの世界初をもつキャデラックは、自動車業界をリードし続けているといえるでしょう。
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「XT4」と「CT5」について
「XT4」はSUV、「CT5」はセダンでどちらもキャデラックで最もコンパクトなモデルとなります。冒頭で「コンパクトSUV」と書いていますが、輸入車基準でのコンパクトのことで、国産コンパクトSUVと同じようなボディサイズではありません。(キャデラックに限らず輸入車は、各ブランドが最も小さいボディサイズのSUVをデビューさせると「コンパクトSUV」と形容することが多い)
XT4のボディサイズは、全長4,605mm、全幅1,875mm、全高1,625mm。国産車では、RAV4 が近いボディサイズとなります。CT5は全長4,925mm、全幅1,895mm、全高1,445mmで、国産車ではクラウンが近いサイズとなります。
これまでのキャデラックは、日本の狭い道路事情では厳しいところがありましたが、このボディサイズならおおむね問題ないでしょう。実際に乗った感覚も手に余るような大柄な印象はありませんでした。
XT4、CT5ともに、エントリーモデルとなりますが、既存モデルを質素にしたようなモデルではありません。キャデラックの世界観をしっかりもった、ラグジュアリーなモデルで仕上げられ、既存モデルと遜色のない質感、装備となっています。
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新開発直列4気筒2.0Lターボエンジン
直列4気筒2.0Lターボエンジンは、今のクルマのスタンダードとなりました。高級車でもスポーツカーでも、多数のモデルに直列4気筒2.0Lターボエンジンが搭載されています。ついに、キャデラックも。アメ車は、大排気量エンジン。というのは過去のお話しです。
新開発直列4気筒2.0Lターボエンジンは、XT4とCT4の両方に搭載。チューニングが変更され、XT4の最高出力は230PS、最大トルクは350N・m、CT5では最高出力が240PS、最大トルクは同じとなっています。トランスミッションは、XT4に9速AT、CT5に10速ATが組み合わせられます。
このエンジン、スペック以上にパワフルでした。最大トルクの発生は1,500回転からとなっており、少しアクセルを踏むだけで最大トルクが得られる特性から、そう感じたのでしょう。
また、両車ともにトランスミッションとの相性がすばらしく、よりスムーズな加速を感じます。ギア比の設定、ギアチェンジのタイミングが相当に良い感じで軽快な走りを体感できます。ただ、キャデラックらしい、重厚な乗り味もきちんとあわせ持っていました。軽快といっても、飛ばしたくなるような感じとは異なります。余裕をもって「流す」運転、クルージングと表現するほうが適切でしょう。なお、2モデルを比較すると、車高が高いSUVのXT4のほうが、アメ車らしいゆったり感が強く出ている印象でした。
絶妙な価格設定
車両価格は、
CT5:560〜620万円
XT4:570〜640万円
これまでのキャデラックになかったロープライス。
筆者としては、絶妙な価格設定をしてきたな、という印象です。500万円台でキャデラックの世界観を愉しめるようになったのですね。それも「安いキャデラック」ではなく。
少し残念なのは、左ハンドルの設定しかないこと。車幅1,800mmを超えたクルマでは、狭い道のすれ違いや、道路幅の狭い2車線の走行では神経を使います。左ハンドルを運転する優越感も嫌いではないのですが……多数の方々から、GMジャパンさんへ「XT4とCT5にも右ハンドルを」の声が集まれば……
今後のキャデラック
2020年8月に、キャデラック初のEV「リリック」がワールドプレミアされています。日本導入時期は未定と発表されていますが、早かれ遅かれ日本上陸することでしょう。
キャデラックのディーラー網の展開について、GMジャパン代表取締役社長 若松格氏に尋ねたところ、ディーラー網の拡大より、インターネット販売に力を入れていくとのでした。キャデラックが500万円台から買えるようになったことも、その原動力のひとつとも。
ラグジュアリーセダン・SUVのカテゴリーに、良き選択肢が新たに増えたな、と感じた試乗会でした。
キャデラック CT6の試乗レポートはこちら!
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- 執筆者プロフィール
- 宇野 智
- モーター・エヴァンジェリスト/ライター/フォトグラファー/ビデオグラファー/エディター エヴァンジェリストとは「伝道者」のこと。クルマ好きでない人にもクルマ楽しさを伝えたい、がコンセプト。元MOBY編...