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「MT車のシフトはH形とI形、どっちがいい?」シーケンシャルミッションがレースカーに採用される理由
トランスミッションの役割とは?
エンジンから発生した回転の比率を変えるためのもの
トランスミッションは、クルマを実用的な速度で走らせるための変速機です。
エンジンはピストンの動きをクランクシャフトによって回転運動に変えますが、プロペラシャフトをタイヤが付いた車軸に直結しても、大した速度になりません。プロペラシャフトと車軸の直径、タイヤの直径によって回転速度は決まってしまうからです。また、エンジンの回転数とタイヤの回転数が違うため、発進すらギクシャクしたものになってしまいます。
そこで、クランクシャフトの直後にトランスミッションを入れて、エンジンから発生した回転の比率を変えることで、スムーズに発進し、さらに高速度まで速度が上げられるようにします。このトランスミッションの比率のことを「変速比」と言います。
例えば、トヨタ C-HRの6速マニュアルトランスミッションの場合、1速は3.727という変速比になっています。これはトランスミッションの歯車(ギア)が1回転するのに、エンジンが3.727回転する…ということです。
トランスミッションの歯車の大きさと車のスピードの関係
トランスミッションの歯車は、段数が上(速度設定域が上がる)ほど小さくなっていきます。これは自転車の変速機と同じですが、発進する時は歯車を大きくすることでできるだけエンジンの力を効率よく発進に使えるようにします。そして、高速になるほど小さな力で走れるようにします。
また前述のように、タイヤの回転数は歯車の大きさ以上は回らないので、歯車を少しずつ小さくすることで、高効率でタイヤが速く回る=スピードが上がるようにしているのです。
ちなみに、トランスミッションで変速されたエンジンの回転数×タイヤの回転数の比率を「総合減速比(最終減速比とも)」と言います。
この数値が大きくなるほど、エンジンの回転に対して駆動力が大きく、速度があまり出ないということ。逆に数値が小さければ、同一エンジン回転数で駆動力が小さくなりますが、速度は出るということです。この減速比を見ることで、そのクルマの性能やキャラクターを読み解くことができるのです。
一般的なMT車に使われているのは「シンクロメッシュ」
常時噛合式MTの仕組み
さて、ここでのメインテーマは「シーケンシャルミッションとは?」ですが、その本題に移る前に「シンクロメッシュ」について説明しておきたいと思います。
現在のクルマでは、オートマチックトランスミッション(AT)やCVTが主流となっていますが、トランスミッションの基本と言えばマニュアルトランスミッション(MT)です。
MTの中でも主流となっている構造が「常時噛合式」と呼ばれるタイプです。クランクシャフトから来た回転力はクラッチを介して、トランスミッションへと伝えられます。トランスミッションに入った回転力は、入口にあるインプットシャフトに入り、歯車で下にあるカウンターシャフトへと伝えられます。
カウンターシャフトには、5速ミッションの場合は1速から5速までの下の歯車(ギア)が付いています。このカウンターシャフトは常時回転します。そして、その上にはアウトプットシャフトがあり、そこには上の歯車(いわゆる変速する側のギア)が付いています。この歯車は軸の中心がフリーとなっており、どの歯車も常時回っています。
シンクロメッシュによるメリット
さて、アウトプットシャフトには歯車と歯車の間を動く「スリープ」と言われるパーツが付いており、これは変速レバーと連動して動きます。スリープはアウトプットシャフトと同回転で回っており、1速と2速の間、3速と4速の間、そして5速は単独で断切の動きをします。
構造としては、変速用の歯車の脇についている歯車にスリーブがハマる(噛み合う)ことによって、選ばれた歯車とアウトプットシャフトが接続され、その変速比でプロペラシャフト(FRや4WD)やドライブシャフト(FFやRR)が回るわけです。
しかし、スリーブが変速時に動いて次の歯車に接続する時、タイヤの回転数と同じ回転数で回るスリーブと、エンジンの回転数で回るトランスミッション内の歯車とでは速度(回転数)が異なっています。そのため、無理にスリーブを入れようとするとスリーブが弾かれたり、最悪は歯車を破損させてしまうことがあるのです。
そこで、かつてのクルマでは「ダブルクラッチ」という技術を使って、ドライバーが双方の回転数を調整してから、スリーブを動かしていました。しかし、この操作は慣れるとは言え、少々面倒です。そこで考えられたのが、「シンクロメッシュ(シンクロナイザーとも)」と言われる機構です。
簡単に言うと、変速用の歯車とスリーブの間にクラッチが入ったようなメカニズム。真鍮や青銅などで造られたシンクロナイザーリングを歯車に押しつけ、摩擦によってに回転速度差を吸収させます。
今のクルマで一般的なH型ゲートシフトを使ったMTには、まずこのシンクロメッシュが採用されています。あまり考えることなく、シフトアップができるのは、このシンクロメッシュのおかげなのです。
- 執筆者プロフィール
- 山崎 友貴
- 1966年生まれ。四輪駆動車専門誌やRV雑誌編集部を経て、編集ブロダクションを設立。現在はSUV生活研究家として、SUVやキャンピングカーを使った新たなアウトドアライフや車中泊ライフなどを探求中。現在の愛車は...