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直列6気筒エンジンは復活するのか?メリット・デメリットから栄枯盛衰の歴史まで
今や「絶滅危惧種」とも呼ばれてしまった「直列6気筒」エンジン。なぜそうなってしまったのか、を自動車の歴史上の転換点にポイントをおいて紐解きます。また、直6のメリット、デメリットから現在新車で買える直列6気筒モデルまでもお伝えします。
目次
直列6気筒エンジンとは?
「直列6気筒エンジン」とは、文字通り6つの気筒が直列に並んだ形状をしたエンジンのことをいいます。
英語表記では「Inline 6」ないしは「Straight 6」と書かれます。ここから直列6気筒を略して「L6」と記述したり、「ストレートシックス」などと呼ぶことがあります。また、日本語の略称では「直6」と書かれます。
直列6気筒エンジンのメリット・デメリット
この項では、直列6気筒のエンジンのメリット、デメリットのポイントのみをお伝えします。本記事後半で、その理由を極力わかりやすくまとめて記述していますが、その情報量から長くなりますので、ここでは割愛します。
メリット
- 振動が非常に少ない(理論的には振動ゼロ)
- パワーがある
- エンジンの左右に空間ができるため、ターボなど性能向上させる機器類の取り付けが容易。
- エンジンの動きはバランスが取れ、滑らかに回転を上昇させ、静粛性も高い。
デメリット
- 製造コストが高い(エンジン本体の剛性を保つ高い技術が必要、部品数が多い)
- 軽量化しにくい、摩擦抵抗が多くなる
- エンジン全長が長い。ボディは大型化し車体の前後方向の重量バランスが取りづらい。
- 衝突安全性の確保が難しい。
【1980〜90年代】直列6気筒エンジンの絶頂期
直列6気筒エンジンは、主に高級車に搭載されました。その理由は前述したデメリットにあります。デメリットはコストを掛けることで解決できたからです。
日本では1986年から1991年まで続いた「バブル景気」が大きく影響したという背景が色濃いものとなりますが、世界的に見ても、高級車の売れ行きがよかった背景もあり、高級車は6気筒以上のエンジンが搭載されてました。直列6気筒の上はV型8気筒、V型12気筒のヒエラルキーで、直6はどちらかと言えば、アッパーミドルクラスに多く採用されていた流れがありました。
メルセデス・ベンツ、BMWといった当時の2大高級車ブランドのアッパーミドルクラスは軒並み直列6気筒、日本では、トヨタ・マークll、クレスタ、チェイサー、日産ローレルなどいった排気量2,000ccクラスのアッパーミドルセダン、トヨタ・クラウン、日産 セドリック/グロリアがフラッグシップセダンで排気量3,000ccクラス、スポーツカーではトヨタ・ソアラ、スープラが直列6気筒を搭載していました。
当時、「ハイソカーブーム」(ハイ・ソサイエティの和製英語)と呼ばれた高級車ブームでもありました。大きめの車体で、静粛性に優れ低振動と余裕のパワー、吹き上がりの良さを持つ直列6気筒は高級車の証となっていたのでした。
【2000年代】直列6気筒エンジンの衰退
日本ではバブル景気の崩壊、世界中では地球温暖化防止、環境問題の声高らかに21世紀に突入すると、自動車では安全性能も重視されはじめます。2000年代には、直列6気筒エンジンが市場から衰退していく幾つかのトピックスがありました。
V型6気筒エンジンの台頭
直列6気筒はエンジンの全長が長く、特に正面衝突したときのリスクを考慮した「クラッシャブルゾーン」の確保は難しくなります。
そこで台頭してきたのが「V型6気筒」。同じ6気筒ですから排気量の確保はしやすく、出力も得やすいメリットを維持したまま、技術の進化によって複雑化する構造に対処できるようになっていました。V6は直6の半分の長さにできクラッシャブルゾーンの確保はしやすく、重心も低くできることから直列6気筒に取って代わられていきました。
トヨタでは2003年にフルモデルチェンジした12代目「ゼロクラウン」で全車V6へになるなど、国産車からは直列6気筒搭載モデルが消滅してしまいました。
ハイブリッドエンジンの台頭
環境問題の観点から、ハイブリッドが台頭してきたのもこの頃です。1997年はトヨタ・プリウスの初代デビューの年、爆発的ヒットとなった2代目プリウスは2003年のフルモデルチェンジでした。2代目プリウスは、米国のハリウッドスター、レオナルド・ディカプリオも愛車にしたほど、注目と人気を集めました。
世の中が高級車よりエコな車に注目と人気が集まっただけでなく、日本においては、バブル崩壊後の景気衰退から国民の価値観に変化が起こり、かつてほど高級車に価値観を見い出す消費者が減ったこと、「若者の車離れ」といった時代風潮になったのもこの頃で、直列6気筒よりもハイブリッドに人気が集まった背景がありました。
【2010年代】直列4気筒2.0Lが市場を席巻、欧州では内燃機関の廃止の動き
2010年代に入ると高出力で環境性能も高い直列4気筒2.0Lエンジンが市場を席巻していきます。直列6気筒エンジンが全盛期の頃、リッターあたり100馬力を超えたエンジンは、超ハイパフォーマンスで一部のスポーツカーにしか搭載されなかったものでしたが、この頃になるとリッター100馬力超えは当たり前になり、燃費も良くなっていきました。また、年々厳しくなる排ガス規制も背景にありました。当然、技術の進化もあり、直列4気筒でも低振動で静粛性が高く、高出力が得られるようになっていました。
「ダウンサイジングターボエンジン」が多くの車種に搭載され、日本では「エコカー減税対象車」が当たり前になってきた2010年代、直列6気筒は一部の愛好家のモノとなっていきました。
【2017年】直列6気筒エンジン復活の兆しが?
直列6気筒の乗用車を新車でつくるのがBMWのみとなった2010年代。2017年頃には2つの直列6気筒復活の兆しと思える出来事がありました。
「東京モーターショー2017」でマツダが直列6気筒エンジン搭載コンセプトカーを発表
マツダは「東京モーターショー2017」は直列6気筒エンジンを搭載したFRレイアウトの新型コンセプトカー「VISION COUPE」を発表しました。その後、マツダのフラッグシップセダン「マツダ6」に直列6気筒エンジンが搭載されるだろうという噂が浮上。さらに、2019年にはマツダが発表した事業計画に直列6気筒の「SKYACTIV」エンジンが明示されていました。
メルセデス・ベンツが約20年ぶりに直列6気筒搭載モデル新型をデビュー
2017年にメルセデス・ベンツのフラッグシップセダン「Sクラス」に新開発直列6気筒エンジンを搭載してデビューしています。「S450」に搭載された新開発直6は「M256」型と呼ばれ、48Vハイブリッド、電動コンプレッサー(いわゆる電動ターボ)など最新の技術を満載しての登場でした。
しかし、市場的に直列6気筒復活とは言い難い現状か?
メルセデス・ベンツに直列6気筒の復活は「直6の復権」とも言われましたが、実際にはそうではないような話も多くあります。メルセデス・ベンツはV6に代わって直列6気筒を新開発したという流れではないようです。実際には、V8のダウンサイジング化で直列6気筒が選ばれたというのが真相だとされています。
新開発直列6気筒においても技術の進歩が大きな影響を与え、補機類(パワーステアリング、ウォーターポンプなど)が電動化され、直列6気筒エンジンの弱点であった全長の長さがカバーできるようになったことなども背景にあるようです。
この点を見れば、直列6気筒を新たに他メーカーも開発することは可能になってきそうではありますが、2018年10月にまた、直列6気筒の復権を阻む出来事が起こりました。それはその時に開催された「欧州会議」でCo2排出量を2020年までに2018年ベースから「20%削減」が義務づけられ、2030年には「40%削減」まで進める事が決定しました。これは、車の電動化の加速をさらに加速させる出来事となりました。
2016年頃から、車の電動化が欧州を中心に進んできていましたが、2019年以降現在まで、特にそれが顕著になり直近でデビューする新型車はおしなべてハイブリッド、PHEV、EVがラインナップされるようになりました。
あいも変わらず「2リッター直4」は安定のエンジン、直列6気筒の復権は夢のまた夢となっている今日このごろです。
現在、新車で買える直列6気筒エンジン搭載車
直列6気筒ファンには寂しい限りですが、現在、日本で買える新車は下記のみとなっています。(輸入車は正規輸入モデルに限定して掲載)
BMW
- M340i
- M4
- 540i
- Z4 M40i
直列6気筒といえばBMW。3.0L直6を上記のモデルに搭載しています。M3も直6搭載でしたが、フルモデルチェンジが近いため現在はカタログから落ちています。M4もフルモデルチェンジが近いため近いうちにカタログ落ちする可能性があります。なお、次期新型M3、M4も直列6気筒エンジンが搭載される運びです。
メルセデス・ベンツ
- S450
- AMG E 53
- GLE
- AMG GT 43、53
Sクラスセダンは2020年9月2日に新型へフルモデルチェンジ、先代に続き直列6気筒エンジンモデルもラインナップして欧州で発表されましたが、日本導入は未発表です。
トヨタ
- GRスープラ RZ
2019年に復活したスープラは、BMW Z4と共同開発。上級グレードとなる「RZ」にはBMW製3.0L直列6気筒が搭載されています。
直列6気筒が低振動で滑らかな理由
量産自動車のエンジンの基本は直列4気筒。エンジンの仕組みの主流は「4サイクル」ないしは「4ストローク」と呼ばれる、4つの工程(吸入・圧縮・燃焼・排気)を周期的に行うものとなります。直列4気筒エンジンでは1気筒1工程を割り当てると、きれいに4工程が収まるようではありますが、エンジンが力を得るのは燃焼の1工程のみとなり、他の3工程は力が出ません。他の3工程を行うには燃焼工程で得た力を利用します。このため、その得た力を維持するために、クランクシャフトに重り=バランサーを付け、はずみを付けてエンジンを回転させ続けます。
対して、直列6気筒では、6気筒に4工程の工程を割り当てると、2気筒2工程が余ります。この余りに燃焼工程をうまく付けてあげると、直列4気筒では必要だったバランサーを無くして、エンジンを回転させ続けることができます。
また、エンジンはさまざまな種類の振動を発生させます。自動車工学的にはこれを「一次振動」「二次振動」…と続いていく多種類の振動を定義付けています。難解な工学理論なのでここではその解説を割愛しますが、直列6気筒エンジンにおいては、それらの振動が互いに打ち消し合う構造となるため、理論上、振動がゼロになります。
さらに、気筒数の多さとバランサーが省略できることから、アクセルを踏み込んだときの回転の上昇がとても滑らかになるという効果も生み出します。
直6の繁栄に至るまでのマニアックなお話
エンジンは気筒(シリンダー)の内側で燃料を爆発させてパワーを得る「内燃機関」。簡単に言えばシリンダーの容積=排気量となり、排気量が大きければ大きい程、大きな出力を得ることができますが、限界があります。自動車のエンジンにおいては、1気筒あたり400cc〜500ccが効率がよく、600ccを超えると実用化が困難なレベルになります。そこで、気筒数を増やすことで高出力化を図ります。
1940年代〜50年代、今のように自動車の技術が発達していなかった頃、レースマシンにおいては高出力化のため「直列8気筒」エンジンを搭載したモデルが稀有ですが存在しました。アルファロメオ「158」とその後継「159」やメルセデス・ベンツ「W195」とその姉妹車「300SLR」がありますが、これくらいです。当時、最強とも言われましたが直列8気筒エンジンの市販化は困難で、モータスポーツでも短命に終わりました。日本では自動車の分野で直列8気筒は実用化されず、1950年代に鉄道用エンジンでのみ実用化されただけに留まります。
気筒数が多くなれば多くなるほど、エンジンの機構は複雑になります。複雑になればなるほど、耐久性は落ちていきます。気筒数が多いと、シリンダーの中で上下運動するピストンを回転に変えるクランクシャフトが長くする必要があります。(直列エンジンにおいて)
世界初の量産自動車は「フォード T型」、中学校の歴史の教科書にも登場したはずです。フォード T型のエンジンは「直列4気筒」でした。世界初のエンジンは単気筒/1気筒で、その後の初の多気筒化に成功したのは「V型2気筒」。さらにその後、紆余曲折を経て、フォード T型の直列4気筒に辿りついたのでした。
フォードをはじめとする「ビックスリー」と呼ばれたアメリカの自動車メーカーらは、その後、直列4気筒を並行に並べて「V型8気筒(V8)」を中心としたクルマつくりへと進んでいきます。比較的簡単に大排気量化、高出力化が実現できました。
しかし、V8は長いボンネットが必要で車体がかなり大型化、国土の広いアメリカなら余裕でしたが、ヨーロッパ諸国ではなかなか受け入れ難いボディサイズでした。
アメリカでV8エンジンが隆盛を極めるのは1960年代。一方、ヨーロッパでは直列4気筒エンジンを主流としていながら、スマートな「直列6気筒エンジン」の量産化への研究開発が進んでいきます。
しかし、そこではV8の気筒2つを削ったV6へという概念と開発がしっかりあったという歴史を見つけることが困難です。V6は比較的最近のエンジン種類、歴史は浅いものとなります。
お話は前後しますが、参考までに世界初の直列6気筒を搭載した自動車を紹介しますと、それはオランダの自動車メーカー「Spyker(カタカナ表記では“スパイカーないしは“シュピケール”)」が1903年に登場させた「Spyker 60-HP Four Wheel Drive Racing Car」となります。車名のとおり「60-HP」は60馬力、「Four Wheel Drive」は四輪駆動の「Racing Car」レーシングカーでした。ちなみに、世界初の四輪駆動車でもありました。(著作権の都合上、掲載できる画像はありませんでした)
メルセデス・ベンツは1928年に「カブリオレ600」で直列6気筒を搭載、1933年にはBMWが「303」を直6を搭載するなどしています。
世界のモータリゼーションが隆盛を極め、一般市民へも自動車の普及が進んだのは1950年代から60年代。前述しましたがアメリカではV8、ヨーロッパでは直列4気筒、日本ではスバル360などを筆頭とした、360cc、直列2気筒エンジンが爆発的ヒットとなるといった時代。
1970年代になると、ヨーロッパの高級車に直列6気筒が搭載されるようになります。その中で爆発的人気を得たのが1977年に登場した「BMW 635CSi」。直列6気筒エンジンを搭載、卓越したデザインから「世界一美しいクーペ」と評されました。
第二次世界大戦の敗戦国、ドイツは航空機の製造を禁止され、エンジン開発の情熱は自動車へ注がれ、そこから技術的に難しかった直列6気筒エンジンを素晴らしい性能で誕生させたという経緯があります。
量産自動車の基本的エンジンは直列4気筒で、これに2気筒を追加するだけとなるのですが、クランクシャフトが長くなる分、耐久性、剛性が弱くなるという弱点があり、部品数も多く複雑化します。しかし反面、気筒数が多いことによって、気筒の爆発タイミングをバランスよくでき、直列4気筒では必須だったバランサー(エンジンの回転を止めないようにする重り)が不要になるなど、低振動、低騒音でエンジンの回転が上がりやすい=吹き上がりの良いエンジンにできるメリットがあります。
BMWはその高い技術でもって直列6気筒エンジンの弱点を克服、メリットとなる部分を伸ばして「シルキーシックス」(シルクのように滑らか)と呼ばれるエンジンが誕生したのでした。
一方、1960年代〜70年代の日本においては日産の「L型エンジン」直列6気筒がフェアレディZに搭載されるなどしています。L型エンジンは「モジュール型」と呼ばれる、直列4気筒を軸に、2気筒を足して直列6気筒にできるといった構造、排気量の設定も自由度を高めた多くの部品を共用する大量生産型内燃機関でした。生産性が高いことからL型エンジンは多くの車種に搭載され、北米市場でも人気を獲得しました。
その中でも名機と呼ばれる直列6気筒L型エンジンは、S30型フェアレディZ、S130型フェアレディZに搭載されたものでした。エンジン単体の性能の高さもありましたが、チューンナップしやすかったという点も人気の理由となりました。
(まとめ)直列6気筒エンジンは復活するのか?
滑らかなでバランスが取れた直列6気筒エンジン。今後の市場で復活を遂げていくのは厳しい、と言わざるを得ない状況です。しかし、メルセデス・ベンツが復活させたこと、マツダが開発中であること、そしてBMWが直列6気筒は伝統的に生産し続けるであろうことから、この世の中から完全に消滅することはなさそうです。
直列6気筒は、まさに自動車の歴史に翻弄されてしまったエンジンでした。
- 執筆者プロフィール
- MOBY編集部
- 新型車予想や車選びのお役立ち記事、車や免許にまつわる豆知識、カーライフの困りごとを解決する方法など、自動車に関する様々な情報を発信。普段クルマは乗るだけ・使うだけのユーザーや、あまりクルマに興味が...