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鬼才ジウジアーロが手掛けた《デートにおすすめの軽商用車》?4代目スズキ キャリイバン【推し車】

スズキ歴史館に多数鎮座する「意味ありげなクルマ」の1台

スズキ歴史館で展示中の4代目キャリイ「万博電気自動車

浜松の「スズキ歴史館」にはスズキの売れたクルマやそうでないクルマ、挑戦の証であったりそうでなかったり、何か言いたげに意味深なクルマだったりと、「何はともあれ歴史に残るであろうクルマ」が数多く展示されています。

「韋駄天キャリイ」と異名を取った4代目キャリイも「鬼才ジウジアーロ、キャリイバンをデザイン」という説明とともに展示してありますが、ただのキャリイバンではなく1970年に開催されたEXPO70、大阪万国博覧会で使用された電気自動車仕様です。

商用車としては成功作と言えなかったものの、なんとなく時代を先取りしているような4台目キャリイバンの、未来を予見したような電気自動車…ある意味、「生まれるのが早すぎたクルマ」を象徴したような展示かもしれません。

軽商用車に今とは違った意味で「個性」が求められた時代

「韋駄天キャリイ」の異名を持ち、スピード感あるフロントマスクは軽トラのキャリイトラックならハマっていた

軽トラックや、フロントマスクやパワートレーンを共用する軽1BOX車は近年人気が高まっており、リフトアップしてマッドタイヤを履いたオフロード仕様、車中泊やアウトドアのための装備を充実させたキャンパー仕様など、カスタムベースとしても盛んです。

それゆえ内外装のデザインやカラーリングも豊富に用意される一方、本来の商用車としては需要が激減、BEV(純電気自動車)の三菱 ミニキャブMiEVという例外を除き、スズキ系(キャリイ/エブリイ)とダイハツ系(ハイゼット/アトレー)しか残っていません。

それでも商用車が仕事時間外や休日のマイカーとして機能していた時代、メーカー各社とも機能だけでなくデザインや使い勝手、快適性などで個性を出そうと試みており、旧車となった今ではそれが「味」として、人気の素になっています。

後世になっても名高い「名車」と異なり、どこにでもある実用車でしたが、だからこそわざわざ選ばれるための苦労が必要であり、時にはそれが壮大な空回り、見事な空振り三振で終わる事もあって、4代目スズキ キャリイなどはまさに好例でした。

「鬼才」ジウジアーロがデザインを最優先してしまった実用車

テールのデザインもカッコイイのだが…見るからに荷物が載らない姿で発売したのは無謀か、それとも果敢な挑戦だったか

ボンネットを持たず、フロントなりリアなりミッドシップなり、アンダーフロア配置のパワートレーン上へ車室兼荷室の1BOXボディを備えた「フルキャブオーバー」タイプの軽1BOX車は、一般的に車体寸法に対するスペース効率の良さが売り物です。

衝突安全基準など制約がある中でも、可能な限り車内スペースを稼ぎたいものですし、積載能力、積み下ろしの容易さなども重要になってきますが、だからといって「スペースだけを重視したただの箱」では寂しくなります。

1961年に発売した軽貨物車「スズライト キャリイ」が成功し、1968年に発売した3代目キャリイバン以降はフルキャブオーバー1BOXへ移行したスズキも、そんな事を考えていたのでしょうか。

2代目フロンテ(1967年発売)がホンダ N360に次ぐ新型軽乗用車のヒットとなっていた事もあり、軽商用車でもシェア拡大を狙ったか、後に自動車デザインの巨匠として知られるジョルジェット・ジウジアーロへ4代目キャリイのデザインを依頼します。

当時のジウジアーロはベルトーネを退社、イタルデザインを設立したばかりで、デザインスタジオとは名ばかりのガレージでスケッチしたと言われるデザインはかなり奇抜。

言い方を変えれば、スズキは「軽商用車とは何か」をちゃんと伝えたのか?と疑問に思うような代物で、デザインに名付けられた「プルミエール(小さなミニバン)」という名前や、3列シート車というコンセプトからも、実用車と意識していなかったかもしれません。

傾斜したテールゲート、妙に気の利いた内装はまさにミニバン

デートカーとしても使ってほしい軽1BOXバン?

フロントよりキツイ傾斜で荷室上部にあまり荷物は載らない一方、後席ドアは広く乗降性が良さそう

ウエストラインが前後に突き出して上下に傾斜し、その下にヘッドライトを配した逆スラントノーズとも言えるフロントマスク、より傾斜がきついフロントウィンドウはスポーティですらあり、「韋駄天キャリイ」と呼ばれたほどのスピード感にあふれています。

問題はリアも同様なデザインだったことで、特にリアウインドウを含むテールゲート上部の傾斜はフロント以上で、横からのパッと見ではどちらが前かわからないほど。

これが同時期に依頼されたマイクロコミューター(後に大幅に手を加えられてフロンテクーペとなる)ならよかったのですが、キャリイバンは「荷物を積んでナンボの軽1BOX貨物車」です。

これではとても貨物車として使えず、わずか3年足らずで5代目へとモデルチェンジしてしまう原因になりましたが、そもそも「これでいいから発売しよう」と考えた当時のスズキには、何が見えていたのでしょうか?

そのヒントかもしれないのは内装で、なんとメーターパネルを含むダッシュボード周りは表面が初期に木目貼り、後にメイプル材(楓)を標準とした、軽商用車らしからぬ豪華なもの。

当時のカタログを見ても、一応は荷室や荷台に荷物を満載した仕事グルマとしての姿もありますが、木箱の上に座る美女、キャリイの脇や車内でイチャつくカップルなど多数で、何となくスズキの「どう使うか」ではなく「こう使ってほしい」という想いが見えてきます。

後席が優雅で快適な後席を持つイタリアン・ワゴン

奥で前席背もたれ後方にスペアタイヤ収納部があり、その上方をテーブルとして有効活用、中央の黒い部分は灰皿と至れり尽くせり

極めつけは前席背後のスペアタイヤ収納スペースで、ただの出っ張りではツマラナイとばかり、灰皿付きのテーブル(!)になっており、後席乗員が快適にくつろぎながら移動できる、現在のミニバンと似たような思想で開発された事がわかります。

おくなると、まだスライドドアではなくヒンジドアとはいえ、前席ドアよりはるかに大きな後席両側ドアも「荷物の積み下ろしが容易」というより「後席の乗降性に配慮」と思えてきて、実際にキャンピングカー仕様も販売されました。

ジウジアーロのようなイタリア人にとっては、ワインでも傾けながら「余暇も大事だろ?」という遊び心だったかもしれませんが、当時の日本で、ましてや軽1BOX商用車でそのような提案は、あまりにも早すぎたようです。

大阪万博1970のEV版は、2025年にも出たら面白い

万博EV版ではエンジンや燃料タンクの代わりにモーターや鉛バッテリー(左側の青い面がある箱)を床下に積んだ

そんな早すぎたクルマ、4代目キャリイは発売翌年の1970年3月から9月まで大阪で開催されたEXPO70’、「日本万国博覧会」会場において、BEV(純電気自動車)版が会場内の管理施設パトロールに使われました。

一般向けには、ダイハツがハイゼットEVをベースに6人乗り開放式ボディを架装、場内のタクシーやレンタカーとして200台ほど使われたEVが「未来の乗り物」としてよく知られましたが、スズキも裏方用とはいえ、キャリイEVを投入したわけです。

湯浅電池(現・GSユアサ)と共同開発した鉛バッテリーを床下へ収め、エンジンの代わりに組み込んだモーターで駆動するので車内にEVとして余計な突出部などはなく、航続距離の短さや充電時間の問題を除けば、普通のクルマとして使えたのがわかります。

この万国博覧会、2025年に再び大阪で開催されますから、その時にはキャリイバン改めエブリイのEV仕様を再び準備すれば、ちょっとした話題になって面白そうです。

スズキはダイハツやトヨタなどとも共同で軽商用EVの開発を進めており、今年2023年には東京と福島県で実証実験も行う予定ですから、案外現実味のある話ではないでしょうか。

もし実現したら、「55年早かった未来のクルマ」として、この4代目キャリイ改造電気自動車が、また脚光を浴びるかもしれません。

※この記事内で使用している画像の著作者情報は、公開日時点のものです。

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執筆者プロフィール
兵藤 忠彦
兵藤 忠彦
1974年栃木県出身、走り屋上がりで全日本ジムカーナにもスポット参戦(5位入賞が最高)。自動車人では珍しいダイハツ派で、リーザTR-ZZやストーリアX4を経て現愛車は1989年式リーザ ケンドーンS。2015年よりライタ...

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