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「5ドアのWRX STIってどうなの…?」スバルの決断が明暗を分けた3代目インプレッサWRX STI【推し車】
目次
変化が受け入れられなかった3代目インプレッサWRX STI
MOBY編集部がテストしているAI(人工知能)に聞いた、「30〜50代のクルマ好き男性が気になる車種」、今回は3代目インプレッサWRX STI、GRB(5ドア・2007年発売)とGVB(4ドア・2010年追加)です。
2代続けて三菱 ランサーエボリューションに対抗するラリーカー、そしてダートトライアルやジムカーナといった国際スピード競技での活躍が期待された3代目ですが、フタを開けてみれば、WRCはともかく国内競技ではかなりマイナーな存在に。
特に最初に発売されたGRBは2代目GDBまでと違い、それまでスバル車に乗っていたユーザーが誰も乗り換えなかった一方、現在のWRX S4に相当するモデルの登場など、「インプレッサWRX STI」にとって大きな転機となったモデルでした。
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WRXはどこに?と目が丸くなった3代目へのモデルチェンジ
2007年6月にインプレッサは3代目へとモデルチェンジしますが、2代目とはまた違った意味で強烈なインパクト、あるいはあまりの変化に驚きました。
まず4ドアセダンも5ドアのスポーツワゴンもなく、5ドアハッチバックのみ!
ワゴンは初代で元々5ドアハッチバックセダンとして開発され、ワゴンブームに乗じて「インプレッサスポーツワゴン」を名乗った経緯があるため、本来名乗るべき姿に戻って売れ筋だけを残したのか…と思えば、納得できなくもありません。
しかし2リッターターボ4WDの「S-GT」とは何者か…WRXの改名にしては迫力不足のエクステリア、それに全体的にサイズアップした3ナンバーボディはちょっとデブな印象で、ラリーなど競技用というより、文字通り「GT」っぽい見た目です。
その年の3月にニューヨークショーで世界初公開された時にはセダンWRXがあり、日本でも遅れて発表されるのだろう…と思っていたら、4ヶ月遅れの10月に発表されたのは、5ドアの「WRX STI」。
あれ?!4ドアセダンじゃなくなったの?!5ドアだと開口部が大きくてボディ剛性などいろいろ不安になるけど、それでWRCも出るの?!と、正直「スバルは何がやりたいんだろう?」と疑問に思ったものです。
2代目GDBまでの勢いはどこへ?誰も乗らないGRB
スバルとしては、当時のWRCで主力のWRカーがシトロエン C4やフォード エスコートといったハッチバック車主体となっており、図体がでかくて小回りの効かない4ドアセダンの2代目インプレッサWRカーでは戦えないと、3代目では5ドアを主力としたようです。
しかし、発売直後からリアへ新たに採用したダブルウィッシュボーン・サス、開口部の大きいハッチバックボディが剛性や容量不足のウィークポイントとして指摘されていました。
WRカーでは、車両開発担当のプロドライブが早々にリアのストラット化を決めたものの、2008年シーズンから投入された3代目インプレッサWRカーは熟成も進まぬまま苦戦し、結局は同年に起きた世界的大不況「リーマンショック」の余波で同年限り撤退となります。
そして国内でも、既に2006年あたりを境に主要な競技の2リッター4WDターボ車クラスはほとんどがランエボへ乗り換えており、インプレッサなどほとんど使っておらず、当然3代目GRBなどほとんど誰も乗りません。
全日本ジムカーナ選手権では大橋 渡選手が、全日本ダートトライアルでも北村 和浩選手が、改造範囲が広いナンバー付きのSA車両で粘り強くGRBを使ったものの、改造範囲が狭く、もっともノーマル車両での差が出やすい主力のN車両ではほぼ皆無。
全日本選手権でその有様ですから、全国各地の地区選手権、さらにその下の、マイナー車率が上がる初心者〜中級車向けイベントですら、GRBなどほとんど見かけません。
初代GC8から2代目GDBまで無敵を誇るようなベテランドライバーでも、「リアサスがな…」「ハッチバックだし…うちファミリカー兼用だから」と、さりとてランサーに乗り換えるわけでもなくGDBを使い続けていました。
WRX S4原型の「A-Line」と4ドアWRX STIのGVB追加
2代目からパッとしなくなっていた販売台数は、いくらかマシになったとはいえパッとせず、特にGRB型インプレッサWRX STIはほとんど見かけません。
そのうちスバルもこれはマズイと思ったのか、日本国内でも2008年10月に4ドアセダンの「インプレッサアネシス」を投入し、これが4代目以降のインプレッサG4(4ドアセダン)、インプレッサスポーツ(5ドアハッチバック)の元となり、XVも初登場。
WRX STIも2009年7月に先代にも存在した競技用スペックの「スペックC」が900台限定で登場しましたが焼け石に水でランエボのシェアへ割り込むには至らず、むしろ同年2月に登場していた「A-Line」(GRF型)が注目の存在でした。
これは300馬力の2.5リッターターボ+シーケンシャルモードつき5速ATを搭載した「高級スポーツバージョン」、あるいは「GT」的なポジションの新グレードで、現在のWRX S4の元祖ともいえる存在です。
さらに2010年7月には、正式車名はそのままで、カタログなど表に見える部分はインプレッサから独立した「WRX STI」を名乗り、5ドア版GRB/GRF(A-Line)と、4ドアセダン版GVB/GVF(A-Line)を設定。
遅ればせながら4ドアセダンを追加すると同時に、2014年にVAB型「WRX STI / S4」へモデルチェンジするまでの「初代WRX STI」(A-Lineは後のWRX S4相当)として販売されましたが、それまでにすっかり、ランエボと比べマイナー車になっていました。
致命的だった「5ドアWRX STI」
モデルチェンジ直後にリーマンショックという大不況に見舞われた不幸があったとはいえ、その間も残る市場をランエボと分け合うでもなく、ただ没落していった感が強い3代目インプレッサWRX STI。
2代目同様にモデルチェンジと同時に始まったラインナップの混乱が致命的だったと言えて、WRCがどうあれ最初から5ドア1本ではなく、4ドアセダンのGVB型WRX STIを投入していれば。
そしてリアに整備性や信頼性に優れたストラットサスを使っていればと思ってしまいますが、熱心なスバリストを除けばランエボに致命的な差をつけられた後、高級高性能GTとして存続したVAB型WRXも、また違った形になっていたかもしれません。
唯一の功績としては、4ドアのVAB型追加時に表向き「インプレッサ」から独立し、同車を巻き添えにしたイメージダウンを避けたことくらいでしょうか。
※この記事内で使用している画像の著作者情報は、公開日時点のものです。
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- 執筆者プロフィール
- 兵藤 忠彦
- 1974年栃木県出身、走り屋上がりで全日本ジムカーナにもスポット参戦(5位入賞が最高)。自動車人では珍しいダイハツ派で、リーザTR-ZZやストーリアX4を経て現愛車は1989年式リーザ ケンドーンS。2015年よりライタ...