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「未来予知、意外と当たってる?」2005年の“荒唐無稽”なコンセプトカー・プジョー ムービー【推し車】

18年経ってみると、さほど珍妙とも思えないコンセプトカー

2005年のフランクフルト(ドイツ)では、さぞかし奇妙に見えたであろう「ムービー」

昔ながらの「自動車はこういうもんだ」が染み付いている人ならともかく、割と最近になって自動車を意識した人、あるいは自動車に対する固定概念を持たずに生きてきた人なら、案外こういうクルマは「確かに奇抜だけど、驚くほどではない」と思うかもしれません。

何しろ2020年代のクルマはやれBEV(純電気自動車)だFCV(燃料電池車)だ、自動運転だというクルマのニュースに慣れてきましたし、そろそろ「昔ながらのクルマ」を諦めた方がいいんじゃないか、という覚悟もできてくるというものです。

そういう観点からすると、2005年にプジョーが未来的なコンセプトカーとして発表した「ムービー」など、「いつ市販するの?」と言い出す人までいそうで、18年という歳月は価値観を変えるに十分だと考えさせられます。

リスボンの学生が18年前にデザインした「未来のクルマ」

このように開く円形ドアは、2011年にスズキが東京モーターショーで発表した「W-Concept」でも採用していた

クルマのデザインを評価するうえで、「コロンとした丸っこいかわいいクルマ」などと表現することはありますが、「コロンとしたクルマそのもの」となればそうめったにお目にかからないという意味で、プジョー ムービーは2023年の今でも通用するかもしれません。

プジョーが2000年から2年に1度開催していたデザインコンクールへ、リスボン(ポルトガル)の学生、アンドレ・コスタ氏が応募したデザインが採用され、ドイツのフランクフルトモーターショーで「ムービー コンセプト」として紹介されたのは2005年のお話。

当時、コスタ氏がコンセプトの中心に据えたのは「環境に配慮した自動車の未来」であり、展示されたコンセプトカーはもちろんドンガラのハリボテとはいえ、有害な排気ガスを出す内燃機関(エンジン)とは無縁な乗り物だ、とは見た瞬間に理解できます。

それに加えて開放感とクリーンなイメージを与える有機的な半球状デザインは、おそらく実用の暁には紫外線や赤外線を遮るUV/IRカットガラスを備え、都市景観にも十分に配慮されたモビリティがヨーロッパの都市を走る未来が見えていたのでしょう。

2005年の時点で懸念されていた「自動車の未来」

大画面のディスプレイオーディオもなく、何よりステアリングが丸いようでは2020年代の視点だと「保守的」にすら感じる

「ヨーロッパは古いクルマも大事にする文化的な土地柄だ」とカンチガイする人も多いのですが、実態はかなり異なります。

大事にされるのは古いクルマを「文化財」として正しく認識し、多額の費用をかけても定められたオリジナルに近いコンディションを保てる真の愛好家が所有するクルマのみ(※)。

(日本だと、文化財指定されてしまい、住環境維持に苦労している古民家や、数百年レベルの歴史を誇る施設をイメージするとよいでしょう)

それ以外は厳格な区分の元に「通行税」を求められたり、そもそも乗り入れ禁止な地域も多く、日本では古いディーゼル車に留まる規制があらゆる車種へ適用され、むしろ重加算税を払う程度で自由に乗れる日本の方が、よほど旧車に対して自由とすら思えます。

そんな厳しいヨーロッパという土地柄で育ったゆえか、2005年の段階で若い学生デザイナーだったコスタ氏は、「将来はこうした環境に優しく、都市の景観にもなじみ、郊外に出れば自然のありがたさを満喫できるクルマが望ましい」と考えたのでしょう。

もっとも、その時点では年々厳しくなる排ガス規制、それ以前に普及していたディーゼル車による深刻な大気汚染による北欧での酸性雨被害にも関わらず、自動車がそのままの形で将来を迎えることへ、あまり深刻になっていなかった時期です。

(※2005年当時だと、まだユーロ5すら導入前で、その先のユーロ6など無理だからやめてくれとヨーロッパの各自動車メーカーが悲鳴を上げ始めていた頃)

ムービーを「荒唐無稽」と切って捨てられない2023年

2023年現在では既にこれに近い開放感を持つ電動マイクロモビリティが市販されており(もちろん現実的にはなっているが)、デザインしたアンドレ・コスタ氏の方向性は間違っていなかったと言えるだろう

それから18年、未だ普及のためには乗り越えねばならないハードルが立ちはだかり、10年や20年そこらで解決しきれるとは思えないとはいえ、BEV(純電気自動車)の市販車は続々と登場しており、もはや「ただ新しくて珍しい」だけではなくなっています。

確かにムービーのように路面との間でチラリと見えるだけのタイヤ、サスペンションなど見当たらなそうな姿は極端ですが、一面ガラス張り(あるいは透明なポリカーポネイト製)で実に開放感あふれる超小型モビリティは、「BIRO」など日本でも販売しています

シンプルなインテリアに、おそらく多用途の2連メーターナセル、依然として丸いステアリングなどは「もはや古い」と言わざるを得ません。

今同じようなコンセプトカーを造るなら、大型画面のディスプレイオーディオやデジタルインパネ、テスラ車が採用し始めているような、上半分がハナからない操縦桿のような半円や長方形のステアリングを備えるべきで、それに比べればムービーはまだ常識的。

唯一、約1,800mmに達する全幅だけはゆったりしすぎていると思いますが、それとて日本ですら全幅1,800~1,900mm級のクルマが当たり前に販売されている今、「ただ幅が広いだけなら、十分コンパクトだろう」と思うのでは?

このデザインへモーターやインバーター、バッテリーなどを収容するのに必要な小型化にはもうしばらく時間がかかるかもしれませんが、あと20年もすれば「割と普通にあるクルマの原型」として、ムービーを思い出す記事が書かれるかもしれません。

その頃には筆者のようなライター業も旧式化で失業し、発展したAI(人工知能)が記事を書いているかもしれませんが。

※この記事内で使用している画像の著作者情報は、公開日時点のものです。

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執筆者プロフィール
兵藤 忠彦
兵藤 忠彦
1974年栃木県出身、走り屋上がりで全日本ジムカーナにもスポット参戦(5位入賞が最高)。自動車人では珍しいダイハツ派で、リーザTR-ZZやストーリアX4を経て現愛車は1989年式リーザ ケンドーンS。2015年よりライタ...

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