更新
潰れる寸前だった中小メーカーが「どうしても守りたかった」マツダ RX-8【推し車】
最後の「ロータリーで走るロータリースポーツ」になるか?
2023年1月に発電用ロータリーエンジン8Cを積むMX-30 EVを発表したマツダ。
「レンジエクステンダーEV」というよりは「シリーズ式PHEV(プラグインハイブリッド)」に近いクルマとなりそうですが、それでもロータリーは発電専用で、かつてのようにロータリーエンジンで走るスポーツカーが登場しそうな気配はありません。
やはりマツダミュージアムにも展示されているRX-8が、「最後のロータリーエンジンで走るスポーツカー」になるのでしょうか?
「2ドアで2+2シーターではなく、4ドアで4シーターでなければいけない」という制約の中で生まれ、維持費の高さに目をつぶればファミリーカーとしても実用に耐える「最後のロータリースポーツ」へ注目してみます。
RX-01からの仕切り直し
3代目RX-7(FD3S)が1991年に発売されて4年、1995年の東京モーターショーへ「RX-01」という1台のロータリースポーツが展示されました。
国内向けとしては初代RX-7(SA22C)以来となる自然吸気版13Bロータリーを、フロントミッドシップならぬ「セントラルミッドシップ」と称する、左右前席間に食い込むほど後退させて搭載したコンパクトなFR2+2スポーツです。
次期RX-7の有望案として、単なるコンセプトカーに留まらず実際に走行可能なモデルが作られ、メディア向けの同乗走行会が開催されるほど力を入れていましたが、当時のマツダはそんな事をしている場合ではありませんでした。
バブル時代の5チャンネル販売体制がバブルとともに崩壊炎上、極端な販売不振に経営悪化という中で販売台数を見込めないスポーツカーどころではなく、救済に入った米フォードに「マツダは他にやる事があるだろう」と開発中止を余儀なくされます。
これで一旦は次期ロータリースポーツの芽がなくなり、マツダロータリーの火が消えたかに思えましたが、FD3Sの改良を続けて継続販売しながらフォードへの根回しも進められていました。
親会社フォードに根回ししつつ、RX-EVOLVとして再発進
RE-01の開発が中止されたとはいえ、次期ロータリースポーツも結局はその延長線上で開発が進められ、高出力と低燃費の両立が可能なサイド排気方式版13Bはさらに煮詰められて、次世代ロータリー「RENESIS」として結実。
さらに、RX-01のセントラルミッドシップほど極端ではないものの、FD3Sより低く後退させて搭載することにより、鼻先が軽く旋回性能が高いFRスポーツ「RX-EVOLV」を開発、1999年の東京モーターショーで発表します。
特筆すべきは、SA22CからFD3Sまで3代続いた2+2シーターを基本とする3ドアファストバッククーペではなく、「フリースタイルドアシステム」と称する観音開きドアを持つ、4シーター4ドアクーペだったこと。
当時のアメリカでは2ドア2シータークーペの保険が非常に高額となっており、フォードとしては「ロードスターもあるのに、2台も2シータークーペを売るなんて潰れる寸前だった中小メーカーがやるものではない」と言わざるを得ません。
それに加えて、その頃開発がスタートする3代目NCロードスターと、足回りなど共通部品を増やして低コスト化せよ、という注文までつきます。
さすがにそこまでは車格が違いすぎて無理があったので、「寸法や素材の違いを同じ生産ラインで作れる程度にすり合わせる」くらいで済ませたものの、一歩間違えればロードスターを巻き込み、2台の駄作が生まれるところでした。
マツダを傘下に収めた頃のフォードは、ロードスターにまでモアパワーを要求しており、NBロードスターをベースにV6エンジンを積む試作車を作らせては「当たり前だがフロントが重すぎて曲がらない」と、マツダに諭される一幕もあった時期です。
マツダ自身、FC3Sに3ローターのユーノス コスモ用20Bロータリーを積んだ試作車で同じ結果に終わった経験があり、安易なモアパワーには付き合いきれないとフォードが親会社だった時期でも決して妥協せず、粘り強い説得を続けています。
ファミリーカーにも使えるロータリースポーツ、RX-8誕生
こうして、4ドア4シーターでファミリーカーとしても使え、スポーツカーとしても妥協したくないユーザーに向けた次世代ロータリースポーツ、RX-8は2003年5月に発売されました。
当初は最高出力210馬力のベースグレードと4速AT版スポーツ「タイプE」(後に215馬力の6速AT版)と、250馬力の6速MT版スポーツ「タイプS」を設定、2008年3月のマイナーチェンジでタイプSが235馬力となり、さらに上級の「タイプRS」を追加。
観音開きの「フリースタイルドア」は、前席ドアを開けないと開閉できないため前席に乗員がいないと後席からの前席ドア開閉が面倒、前席乗員が乗ったまま不用意に後席ドアを開けると、組み込まれたシートベルトで前席乗員を思い切り締め上げる欠点はありました。
(※基本的には現在のMX-30でも同様)
しかし「販売店で十分に説明してから販売すればOK」として、後席に乗り込む時や荷物を放り込む時、後席ドアの後ろに回り込まなくてもいいなど、使い勝手や乗降性の面ではむしろ高評価を得ます。
さらにRENESISは低速トルクが薄いため発進加速は苦手で、さりとて運転を楽しみすぎると燃費が極端に悪化する、エンジンオイルを食うため頻繁に追加や交換が必要、特に前期型でチョイ乗りではプラグがカブりやすく、再始動が困難な場合もありました。
そのため頻繁にエンジンの設計が変更され、スターターモーターを強化するなど対策に追われますが、エコランに徹する限りはそれなりに燃費良好で、そもそもハイパワーマシンで本気を出した時まで燃費の良さを求めるのはそれこそ贅沢と、あまり問題になりません。
結果的には、「維持費の高さを許容できるなら、ファミリーカーとしてもスポーツカーとしても高い実力を備え、満足感の高いクルマ」となりました。
そもそも2013年に生産終了以降、「ロータリーエンジンで走るクルマ」の後継車がないため代わりもなく、どうやらRX-8は「最後にして最高のロータリースポーツ」となりそうです。
※この記事内で使用している画像の著作者情報は、公開日時点のものです。
【推し車シリーズ】まとめて読みたい人はコチラ!
メーカー別●●な車3選はコチラ
スポーツカーを中心にまとめた3選はコチラ
「ちょいワルオヤジに乗ってほしい車」などの特集はコチラ
- 執筆者プロフィール
- 兵藤 忠彦
- 1974年栃木県出身、走り屋上がりで全日本ジムカーナにもスポット参戦(5位入賞が最高)。自動車人では珍しいダイハツ派で、リーザTR-ZZやストーリアX4を経て現愛車は1989年式リーザ ケンドーンS。2015年よりライタ...