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幼稚園バスにシートベルト設置義務がない理由…理想と現実の狭間で揺れる現場とは
近年、幼稚園バスが絡んだ事故がたびたび報じられており、簡易ベルトが付いているバスを導入する施設が増えてきました。
実は、幼稚園バスではシートベルトの設置が義務化されていません。かねてよりその危険性は指摘されていましたが、さまざまな障壁もあり、義務化には至りませんでした。
園児たちの身の安全を確保するためには、シートベルトが必要なようにも思えますが、なぜ設置義務がないのでしょうか。
幼稚園バスにおけるシートベルト設置の難しさとは
道路交通法において、6歳未満の子どもはチャイルドシートを着用することが義務付けられています。しかし、先述のとおり幼稚園バスにおいてはシートベルトの設置義務そのものがありません。
国土交通省は平成25年に『幼児専用車の車両安全性向上のためのガイドライン』を作成しています。
同ガイドラインでは、安全対策として「シートバック後面への緩衝材の追加」や「シートバックの高さ変更」などに言及したり、諸課題を解決したシートベルトの開発を目指すことにも触れたりしています。しかし、「シートベルト設置の義務」に関しては明記されていません。
シートベルト設置を義務化していない理由について、以下の3点が挙げられています。
- 幼児自らベルトの着脱が難しいため、緊急時の脱出が困難である
- 幼児の体格は年齢によって様々であり、一定の座席ベルトの設定が困難である
- 同乗者(幼稚園教諭等)の着脱補助作業が発生する
このなかでも最大の要因となっているのは「幼児自らベルトの着脱が難しい」という点でしょう。
自身での着脱が困難ということは、万が一火災や水害などが発生した際、ベルトを外すことができず、車内に取り残されてしまう可能性があります。このような事態を想定すると、シートベルトで園児の体をしっかりと固定することは必ずしも安全とは言い切れません。
シートベルトの設置について、10年ほど幼稚園教諭として働いている筆者の知人は以下のように話しています。
「さまざまな意見があるとは思いますが、園児たちの命を守るためにはシートベルトが必要だと考えています。衝突事故などが起こったときには、シートベルトによって怪我を防げることも多いでしょう。
ですが現実問題として、自分でシートベルトの付け外しができない子も多くいます。だからといって添乗員1人で付け外しの補助を全て行うのは困難です。
また、緊急避難時に園児がベルトを外すことができず、車内から出られない可能性があることを考えると、少し怖い気持ちもあります。」
幼稚園バスが絡む事故において、園児が目の前のシートに頭などをぶつけて怪我をするケースが多いため、シートベルト設置を義務化すべきという意見があるのも当然でしょう。
現場もシートベルトの必要性を感じてはいるものの、やはり幼児が自分でベルトを着脱するのは困難という点がネックになっているようでした。
実際に事故も多数起こっているという状況から、園児のシートベルト着用に対する現場の苦悩をうかがうことができます。
幼児用保護ベルトの開発が問題解決の糸口に?
株式会社エムビーエムサービスは、幼児用保護ベルトを開発し(特許出願中)、2021年7月には製品紹介動画をYouTube上で公開しています。
こちらの幼児用ベルトは、一般的な二点式のベルトとは異なり、ランドセルを背負うような形で両肩・胸部を支えられるよう設計されています。
胸部ベルトのバックルはマグネットが内蔵されており、ワンタッチ・ワンプッシュで着脱可能。肩のベルトも上下12cmの幅で調整でき、さまざまな体格に合わせられようになっています。
さらに、ドライバーとスパナがあれば座席への取り付けも簡単です。
幼児用保護ベルトの登場により、「シートベルト未設置問題」の解決へ一歩近づいたといえるのではないでしょうか。
特に近年では、車両の安全装備のひとつとして「衝突被害軽減ブレーキ」も数多く実装され始めており、自動で急ブレーキがかかることも考えられます。
新たに開発された「幼児用保護ベルト」は大きな意義をもたらすに違いありません。この事例を皮切りに、幼稚園バスへのシートベルト設置義務化が進み、園児たちの身の安全が確保されることを願うばかりです。
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- 執筆者プロフィール
- 成田 佑真
- 1993年生まれ。普段は医療機器販売を行っているが、暇があれば自動車関連記事を読み漁る。現在の愛車はA4。子どもの頃からマークⅡに憧れ、社会人になりマークXを購入。週末は必ず手洗い洗車を行い、ドライブに出...