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「まるで闇と光」昭和を駆けた暴走車《神風タクシー》と《個人タクシー》誕生のキッカケ
神風タクシー追放のために誕生した「個人タクシー」
劣悪な環境を改善する取り組みが始まったものの、一度定着してしまったタクシーの“危険さ”は簡単に拭えるものではありません。
ちょうど時代は東京五輪が開催される1964年ごろ。都心部の道路が次々と整備され、自動車での走行がさらに一般化していきました。その一環として道路交通法の規制も強化。白バイの取り締まりなども相まって、道路上のコンプライアンスが向上していきました。
そんななか、タクシー業界に新風を巻き起こすべく始まったのが「個人タクシー」の制度でした。
これまで厳しい業務環境で働いていたドライバーたちも、個人タクシーとして就業することで、ノルマを気にする必要がなくなります。集客を優先するための危険な運転も減少し、「神風タクシー」も次第に姿を消していきました。
安全運転が定着したおかげでタクシーの利用者も増え、「個人タクシー」の認知度は上昇。事故率が低下したことで、タクシーは「乗って安心」の交通手段として親しまれるようになったのです。
今やタクシードライバーの間でも伝説に?
今では安心して利用できるタクシーですが、現代に「神風タクシー」は存在するのでしょうか?70代のタクシードライバーにインタビューしてみました。
――神風タクシーという言葉を聞いたことはありますか?
「名前は知ってますが、ここ最近はほとんど見たことはないと思いますね。若手はそんな言葉すら知らないんじゃないかな。今や伝説みたいなものです。それとそんな運転をしている同業者にはあったことがないかなぁ」
――実際に『神風タクシー』を見たことはありますか?
「私は見たことがないんです。『神風タクシー』が多かったのは私がまだ幼いころだったので、あまり記憶には残ってないんですよ。ただ、伝え聞いた話だと、かなりの速度で飛ばしたり、信号無視をするなど乱暴な運転手は確かにいたらしいです」
――現代にも『神風タクシー』が現れることはあるのでしょうか?
「おそらく可能性は低いと思います。当時と比べて今はノルマの規制も厳しいものはないですし、おかげさまで休日をまったり過ごせるくらいのゆとりはありますから……。
それと、『車体は企業の看板』と言う常識が浸透していることもあり、団体に所属しているドライバーはよほどのことがない限り、荒い運転はしないと思いますよ」
――利益を優先して乱暴な運転になる心配もなさそうですね。
「そうですね。当時の『神風タクシー』は、会社の風習というのもありますが、個人の運転スタイルが影響していたのではとも思います。安全に運転するよりも、お客を乗せてノルマを稼ぐことを優先させたわけです。
しかし、現代は交通法も厳しく、下手をすれば免許もなくなってしまいますから、無謀な運転はしませんよ」
昭和から現代に渡って親しまれるタクシー。私たちが安心して利用できている裏には、過酷な時代を戦い抜いた先人ドライバーたちの歴史が隠れているのですね。
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- 執筆者プロフィール
- 小高皐月
- 1979年生まれ。会社員を経て、知人の縁で編集プロダクションに就職。子育ての経験を活かして様々な記事を担当していたが、取材をきっかけにドルオタ化。クルマを走らせながら一人でカラオケするのが大好きで、歴...