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10年経っても問われる水素インフラの壁…トヨタ MIRAIに可能性はある?カギを握るのは“合成燃料”か【推し車】
既に新しくもなく、さりとて増えそうもないFCV
気がつけば、FCV(燃料電池車)の初代トヨタ MIRAIが2014年に発売されて、もう8年以上になります。
2020年にモデルチェンジした事を知らない人もいると思いますが、現在販売しているMIRAIはFRの2代目、初代は4代目プリウスの初期デザイン案でも使ったのかな?と思うほど当時のプリウスっぽいFF車で、水素タンクが収まりきらずに4人乗りでした。
まだ売ってるの?と思うくらい最近は話題に乏しいMIRAI…というよりFCVですが、ホンダも最近はどちらかというと産業用燃料電池へシフトしているように見えますし、どうもFCVには未来(MIRAI)が見えてきません。
水素燃料や代替燃料を使ってレースに出すなど、「ガソリンや軽油に代わる燃料を使った内燃機関」の方が話題としてはウケもいいですし、MIRAIが再び脚光を浴びる日は来るのでしょうか?
クルマそのものより気になるのは、「そもそもFCVの普及が成り立つ水素供給やインフラ整備ができるのか?」というところです。
増えない水素ステーション
FCCJ(燃料電池実用化推進協議会)が発表している「商用水素ステーション情報」によれば、現在日本でガソリンスタンドのように普通に水素を充電しにいける水素ステーションは、計画中のものを含めても約180件くらい。
数年前、筆者がまだFCVの未来をいくらか信じていた頃には100件をようやく越したほどだったので、頑張って増やしたのはわかります。
しかし、筆者が住む宮城県仙台市にはたった2箇所だけ、それも仙台市のみで他はなし、福島県には移動式2箇所を含む5箇所と計画中2箇所、東北地方はそれだけ、南東北でも山形県にはなく、北東北には1箇所もありません。
仙台ではタクシー会社が使うホンダ クラリティFUEL CELLを何度か見かけましたが、そのタクシー会社も返してしまってそれっきり、MIRAIなど見たこともありません。
東京周辺やトヨタのお膝元である愛知県、そしてなぜか福岡県にも結構あるようですが、大都市にあっても「目的地」になければFCVは使いにくく、現状でもっとも使いやすいのは東京〜名古屋の往復くらいです。
中には公用車として導入はしたものの、走行時間のほとんどは遠い水素ステーションへの往復に費やされて問題になった例もあり、この状況を長く続けてはいけません。
誰がどこからどうやってどこへ水素を運ぶのか?
水素は国内でも生成可能なので、エネルギー自給率を上げるカギになるとも言われますが、水素の原料は大半を海外から輸入しますし、水から太陽光発電など再生エネルギーで電気分解するにもお天気次第です。
海外で作った水素を日本へ輸入する方がコスト面でも現実的と、液体水素運搬船の「すいそ ふろんてぃあ」を建造したり、化学反応で水素を取り込んだ薬品を常温輸送する技術もありますが、まだいずれも実証実験段階。
いずれにせよ、火力発電所で燃やすならともかく、FCVなど燃料電池で使う純度の高い水素の運搬、あるいは常温輸送後に水素ステーションでの生成が大規模にできるのはまだまだ先の話のようです。
つまり、そんな中でMIRAIのようなFCVを市販している事自体、首をかしげる話で、仮にFCVがヒットしても水素を十分に供給できる見込みはなし…でも水素ステーションは増やそうという、何かチグハグな話になっています。
いくらかマシとはいえ充電スタンドも同種のチグハグな話を抱えており、急にBEVが増えてもかえって困りそうだ、という点は同様です。
カギは水素由来の合成燃料とのバイフューエル内燃機関?
最近はトヨタもFCVの話題が少なく、むしろ水素で駆動する内燃機関、水素エンジン車をレースへ投入するなど、さまざまなアプローチを模索しています。
今までガソリンか軽油、あるいはLPG(液化石油ガス)やLNG(液化天然ガス)を燃料に使った内燃機関ばかりでしたが、そこへ水素やバイオ燃料、水素とCO2(二酸化炭素)から合成した燃料で内燃機関を動かそうという話が浮上してきました。
それも、まだ世間一般には「BEV(純電気自動車)への転換一辺倒」と見られているヨーロッパの一部、充電インフラの急速整備に自信がない国、内燃機関の技術を失いたくないメーカーを抱える国からの意見ですから、驚きです。
排ガス規制への対応に自信がないのでBEVを推進したと思えば、BEVもやはり自信がないので、「結果的に、二酸化炭素を消費して排出とチャラにできるカーボンニュートラルができる燃料なら、内燃機関でもいいんじゃない?」というわけで、勝手な話ですが現実的。
トヨタの水素エンジンや、トヨタ、マツダともにレースへ投入しているバイオ燃料車もそうしたヨーロッパの動きに連動したものかもしれず、これでアメリカも現実を受け入れれば、BEVへの動きは一気に流れが変わるでしょう。
そうなると、水素由来の合成燃料、バイオ燃料、圧縮水素といった選択肢の中から、もっとも安く利用できて、インフラ整備も速いもの、あるいは従来のガソリンと両方使える「バイフューエル」の内燃機関が、そう遠くないうちに新たな方針となるかもしれません。
水素ステーションも充電スタンドも急速整備は困難ですし、水素は自動車以外にも使わねばならないところが多い割に、供給体制がまだまだです。
MIRAIのようなFCVは「もっと先の将来に備えた選択肢」と考え、地道に続ける程度にとどめておくのが無難だと思います。
※この記事内で使用している画像の著作者情報は、公開日時点のものです。
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- 執筆者プロフィール
- 兵藤 忠彦
- 1974年栃木県出身、走り屋上がりで全日本ジムカーナにもスポット参戦(5位入賞が最高)。自動車人では珍しいダイハツ派で、リーザTR-ZZやストーリアX4を経て現愛車は1989年式リーザ ケンドーンS。2015年よりライタ...