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車好きなら「素晴らしさと残念さが同居する、横丁小町セルボ」って知ってる?【推し車】

不遇な扱いの多い歴代「セルボ」でもっとも短命だった3代目

スズキ歴史館に展示されている「横丁小町」、3代目セルボ

各自動車メーカーに「不遇な扱いを受けがちなクルマ(車名)」って1台くらいはありそうですが、スズキで代表的なのが「セルボ」です。

実は女性向けなのに、なんとなく男性向けスポーツスペシャルティだったり(初代・2代目)、アルトの高級モデルなのにほとんど4速ATを設定してもらえず、4気筒ターボは5速MTだけ(4代目セルボ・モード)、脈絡のないコンセプトに車名が引き継がれる(5代目)。

しかしとりわけ不遇だったのが3代目セルボで、旧型アルトをベースにした割にはかなりオシャレな仕上がりだったのに、ターボエンジンも660ccエンジンも与えられず、2年半ほどで終了してしまいます。

場当たり的な扱いが多い歴代セルボの中でも一番カッコイイと思うのですが、現在「スズキ歴史館」に展示されているのが、数少ない慰めでしょうか。

素晴らしさと残念さが同居する、通称「横丁小町セルボ」

フロント部分は2代目アルトからの流用だから、そのアルトは同年3代目へモデルチェンジしてしまった

硬派で鳴らしたフロンテクーペの550cc版的なモデルながら、女性向けスペシャルティカーだった初代、初代アルトをベースにテールをグッと寝かせたクーペルックでスズキ初のターボ車を設定するなど、半端に硬派だった2代目に続き1988年に発売された3代目セルボ。

当時のTVドラマ「スケバン刑事III 少女忍法帖伝奇」で風間三姉妹の長女を演じた人気アイドル大西 結花と、人気漫画「いまどきのこども」(玖保キリコ)を起用したトレンディなCMのキャッチコピーは「横丁小町」でした。

それゆえに現在まで「横丁小町セルボ」として記憶されており、個性的なスタイルから印象に残っている昔ながらのファンも多いクルマですが、あいにくとベースはその年の9月に3代目へとモデルチェンジしてしまった2代目アルト。

しかもその旧型の印象を強く残したフロントマスクだったため、発売直後から古臭さを感じる、いわば「出オチ感」を与えてしまい、せっかくのカッコいいキャビンデザインが活きずにマイナー路線を突っ走ってしまう、残念な結果になってしまいました。

どうも初代(1977-1982)から現時点で最後の5代目(2006-2011)まで、セルボというクルマはこういう不遇な扱いを受けることが多いような気がします。

グラスルーフやリアガーニッシュ、キャビンデザインは最高!

ブロンズガラスのグラスルーフは、ドライブ中に特別感を演出するのに役立っただろう

軽ボンネットバン全盛期の1980年代に作られたので、4ナンバーの商用車登録は当然ですが、前席を頂点になだらかに下がるルーフ、リアクォーターウィンドウを広く取らず、太いCピラーとしたキャビンのスポーティなデザインは個性的です。

スパッと潔く切り落としたようなテールゲートには、ボディまで回り込むリアスポイラーが標準で、ブリスター状に膨らむリアフェンダーと合わせてスピード感ある造形で、左右テールランプ間には横一面のリアガーニッシュが施され、特別感を与えています。

極めつけは前席頭上のグラスルーフで、濃い目のブロンズガラスにより直射日光を和らげつつもドライブ中の開放感があり、「これでドライブしたら楽しそうだな」と、ワクワクさせてくれそうです。

鉄板むき出しではなくフルトリム化されたインテリア、レモンイエローなど明るい色も使い、サイドサポートの張り出しが大きい専用シートは派手ですが、スペシャルティカーですからこのくらいのインパクトはむしろ歓迎できます。

ただしキャビンから前は1984年に発売された2代目アルトそのまま、「CERVO」マークの入るフロントグリルや、ナンバープレートを右に寄せ、いかにも冷気がよく入りそうな開口部が設けられたフロントバンパーも、ターボエンジンがないので形だけになっています。

搭載されるエンジンは軽自動車で初の1気筒4バルブSOHCを採用した、SOHC3気筒12バルブ版F5Bで、DOHC4バルブエンジンの2代目アルトツインカム12RSに匹敵する40馬力を発揮するも、燃料供給方式はEPI(電子制御燃料噴射)ではなくキャブレター式。

EPI式のSOHCインタークーラーターボや、アルトワークスで軽自動車初のDOHC4バルブインタークーラーターボを採用したスズキとは思えない思い切りの悪さで、新旧混在したチグハグさばかりが目立ちます。

これだけいい素材が揃っているのですから、せめてアルトワークスのDOHCターボが搭載されていれば、全く違う評価を受けたのではないでしょうか?

世界初の電動パワステに、「ファラオラリー」での活躍も

リアガーニッシュなどスポーツ感満載のカッコいいリアビューなのに、アルトワークス用ターボエンジンを載せなかったのが残念

動力性能面では地味な3代目”横丁小町”セルボですが、内外装では充実していたほか、追加された「ごきげんパック」には世界初という電動パワーステアリングが搭載されました。

2000年代はじめまでは油圧パワステが当たり前、電動パワステは速度などで変化させるパワーアシストの電子制御に信頼性の面でまだ難があった装備です(1990年代のダイハツ車にも採用されましたが、制御コンピューターの突然死が定番トラブルだったほど)。

それでも、エンジンに負担を強いることのない電動パワステは小排気量車にとってありがたいものでしたし、操舵支援に欠かせないので運転支援システムの実用化に大きく貢献した装備ですが、横丁小町セルボはその最初の搭載車でした。

スズキ歴史館の展示車には、電動パワステ初装備の功績から、当時のスズキ社長、戸田 昌男氏が藍綬褒章(らんじゅほうしょう・公共の利益へ尽くした人に授与される)を受けたと書かれており、当時としてはそれだけ画期的な出来事だったようです。

また、1988年11月には、かつてダカールラリーの前哨戦として開催されていたラリーレイド、エジプトをスタートする「ファラオラリー」にも女性チーム「チーム・アンジェラ」から参戦。

グラスルーフはメタルルーフへ、エンジンはアルトワークス用のDOHCターボ版F5Aへ換装したフルタイム4WD仕様と、「横丁小町セルボの皮をかぶったアルトワークス仕様」だったようです。

出場2台中1台が完走してプロトタイプクラス総合31位、1000cc以下クラスでは(他に参加車がいたかは不明ですが)優勝だったそうで、おそらく国際ラリーで活躍した軽自動車としてはスバル ヴィヴィオより古く、最古の例ではないか?と言われています。

自動車史に残る功績も残した横丁小町セルボ、4代目「セルボ・モード」へのモデルチェンジでわずか2年半ちょっとの販売で終わらせるには非常に惜しく、ライバルのダイハツ リーザのように、660ccエンジンを積んでもう少し売ってほしかったものです。

※この記事内で使用している画像の著作者情報は、公開日時点のものです。

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執筆者プロフィール
兵藤 忠彦
兵藤 忠彦
1974年栃木県出身、走り屋上がりで全日本ジムカーナにもスポット参戦(5位入賞が最高)。自動車人では珍しいダイハツ派で、リーザTR-ZZやストーリアX4を経て現愛車は1989年式リーザ ケンドーンS。2015年よりライタ...

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