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「ただの80年代セダン?いいえ大和撫子です」どんな名車よりインパクト大!マツダ4代目カペラ【推し車】
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どんな名車よりインパクト大な「ただの80年代セダン」
ちょっと聞いてください。
ウキウキ気分でクルマの博物館に来てみたら、名車や歴史的に重要なクルマの数々の中へ突然、「旧車というには新しすぎ、日本車黄金期が始まる1980年代後半でもない1980年代前半の、ごく普通のセダン」がいたら、落差の激しさにズッコケませんか?
マツダミュージアムに展示されている1982年式の4代目カペラセダン、それも中間グレードの1800SG-Xとくれば、「な、なぜこんなところへいきなりただのファミリーセダンが?!」と、思い切り脱力してズッコケてしまいそうです。
強いて言えば、筆者の昔の友人が乗り回していた実家の車が同じカペラだったような気がしますし、スッキリしたデザインで悪くはなかったものの、特別何がスゴかったという思い出もありません。
当時ありふれたファミリーセダンが、なぜこのようにマツダミュージアムへ展示されているのか、ちょっと検証してみました。
反対意見も強かった、カペラのFF化
マツダ車のFF化、それもエンジンとミッションを直列に横置きしたジアコーサ式FFレイアウト化は、同じようにFR車を作ってきた他メーカーとくらべても早い方で、1980年に発売されて大ヒットした5代目ファミリアが初でした。
しかし1982年に発売される4代目カペラの開発は少なくとも5代目ファミリア発売より早かったか発売直後のようで、マツダ公式のエピソード集にはこんな逸話が書かれています。
まだFRが主流だった開発当初、経営陣はFF採用に批判的であった。「経営状態の厳しいなか、新工場(防府)の建設に加え、多額の投資をしてFFに挑戦する必要があるのか」「ハンドリングを重視するマツダ車はFRの方が良いのではないか」
マツダ公式「マツダの名車たち カペラ(1970年~)第2章:4代目~5代目 FFに挑戦し、成功を収めた4代目」より
1990年代あたりまで、「FFはトルクステアもヒドイし、走りはFRの方が断然いいよ」と真面目に言われており、2020年代の今でもFR信者はそう言うでしょうから、当時の懸念は的外れとも言えません。
特に1970年代末くらいなら自信が持てるほど実績もありませんし、若者向けのファミリアならいざ知らず、ポジションとしては保守層向けと言えるミドルクラスセダンのカペラで、そんな冒険をしていいのかという疑問はあったでしょう。
しかも、当時計画の進んでいた防府工場(現在はMAZDA3やCX-60などを生産中)へFF車用の生産ラインを作って採算が取れるのか、まだオイルショックとロータリーエンジンによる経営危機から立ち直る途上で、そんな事をしていいのか、二の足を踏むのは当たり前。
しかし、結果的に4代目カペラのFF化は成功し、1982-1983日本・カー・オブ・ザ・イヤーを獲得しました。
シレっと宣伝された「カペラのための防府工場」
防府工場云々に至っては、あれだけ社内でFF車用生産ラインの建設が不安視されていたにも関わらず、発売された4代目カペラのカタログには「新型カペラを開発するために、私達は工場すら新しくしました。」なんて、防府工場がドーンと紹介されています。
しかも、内容を読むと「ここはカペラのための工場です。」「その前提があったからこそ、(中略)すべてにわたってカペラを本当に新設計することができたのです。」なんて書かれており、なんかずいぶん話が違うな?とツッコミを入れたいところ。
実際は「防府の新工場で作るカペラは何としてもFFにせねばいけません!そうでなければ時代に取り残されます!」と熱弁を振るい、上層部や社内各所を説得して回った御仁がいたのでしょう。
そんな出来事があったのを前提にすると、4代目カペラを見る目も少しは変わってくるもので、確かに1980年代のミドルクラスセダンとしてはなかなか先進的、コンセプトとしては他社より数年先を走っていたようですが、どうもそれだけではありません。
FFでも走りを重視したエンジンやサスペンション
またカタログに戻りますが、FF車ように新開発され、「マグナム」と名付けられたF型エンジンはショートストローク(2リッターのFE型のみはボア×ストローク86mm×86mmのスクエア型)を強調しています。
エンジン横置きFF車ではエンジンの全長が制約されるため、ロングストロークのコンパクトなエンジンの方が設計は楽で燃費もいいのですが、活発な走りのためマツダはあえてショートストロークエンジンにこだわりました!だそうです。
これは当時のトヨタを除く日産や三菱、ホンダあたりを意識したようで、確かにショートストロークエンジンの方が吹け上がりよく、回して楽しいエンジンになりますし、エンジン全高を低く抑えられるので、ボンネットが低いのも4代目カペラの売り。
2020年代の現在からすると高回転高効率エンジンが当たり前ですが、変速比をクロスレシオ化した5速MTと組み合わせるなど、マツダは本気で「走らせて楽しいファミリーセダン」の実現に努力したようです。
さらにサスペンションも「後輪に余計なものがないFF車で独立懸架は当たり前、そこから走りを楽しくするのがマツダ流」と、4輪ストラット独立懸架採用とともに、後輪にはコーナリング中の横Gでトーアウトになるのを防ぐマツダ独自のSSサスペンションを採用。
5代目ファミリアで既に好評価を得ていましたが、「強いアンダーステアから急にフロントが巻き込むリバースステア」に悩まされがちなFF車としては画期的で、スポーツカーならともかく、ファミリーセダンのカペラでは高速安定性の良さがマッチしたでしょう。
しかし、やはりそれだけでは「よくできたFFセダン」でしかなく、いよいよデザインに注目していきます。
フラッシュサーフェス化とウェッジシェイプで空力も抜群
4代目カペラを「派手さや色気ははないものの、知的でスマートなクールビューティータイプ」に見せているのが、低いボンネットからなだらかな斜面を登るように高さのあるトランクリッドへ続くショルダーラインによる「ウェッジシェイプ」スタイル。
そして徹底して車体表面の余計な凹凸をなくして平滑化した「フラッシュサーフェス化」が拍車をかけていて、ちょっと下世話でデリカシー不足な筆者の視点からすると、「地味に見えて内面からの知性や美しさがにじみ出る、スレンダーな眼鏡美人」でしょうか。
高さのあるトランクリッドはトランク容量の広さ、リアシートを前に倒すと長尺物も積めるフレキシブルな空間も大したものですが、面白いのは「トランク部分を高くすることで横風の影響はリアに強く表れ、フロントの安定をもたらす」というところです。
それに気がつくと急に色気を感じるようになり、7年後に登場する高速安定性抜群なスポーツセダン、初代スバル レガシィとの共通項すら見えてきました。
全体的に見ると、2020年代の視点では確かに古いものの、1980年代前半のクルマとしてはとても先進的、そして整った美しさが感じられます。
4代目カペラは大和撫子だ!
どうやら、最初に感じた「80年代前半の野暮ったいファミリーセダンがなぜこんなところに?」というイメージが、筆者の中ではガラガラと崩れていったようです。
考えてみると、同時期のトヨタ コロナや日産 ブルーバード、三菱 ギャランの「保守系オヤジグルマ」のイメージが重なっており、4代目カペラ自身も細部のデザインが華やかとまでは言えないので、気づかなかったのかもしれません。
しかし、日本カー・オブ・ザ・イヤーはもちろん、北米のインポートカー・オブ・ザ・イヤーを受賞させた選考員たちにも、このカペラの本質が見えていたのでしょう。
さらにヨーロッパでも注文殺到、大量のバックオーダーを抱えて納車待ちのユーザーへ、手に入らないものの象徴、「金の牛の置物」をサービスしたほどと言いますから、現地でありふれたヨーロッパ調と明確に異なる「ニッポン」に心を奪われたのかもしれません。
イマジネーションをフルに働かせると、その姿は黒髪に黒い瞳、美しい肌のスレンダーな女性が、ある時は穏やかに慎ましく、しかし必要とあらば凛として軽快なステップを踏み、鮮やかに踊る活発という、ゾクソクする二面性を持ったイメージへと変わっていきます。
今どきこんな事ばかり書いていると怒られるのは承知のうえですが、4代目カペラは当時の理想だった日本人女性、「大和撫子」を具現化した存在だったのかもしれません。
しかしそこで誰にでも従順、忠実、都合のよい…とはならず、相手を選びそうなのがマツダ流の面白さ。。
マツダミュージアムにふさわしい展示である事に疑いはありませんが、ただ漠然と見ていては決して気づかない原石を、アナタも心の中で磨いてみませんか?
※この記事内で使用している画像の著作者情報は、公開日時点のものです。
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- 執筆者プロフィール
- 兵藤 忠彦
- 1974年栃木県出身、走り屋上がりで全日本ジムカーナにもスポット参戦(5位入賞が最高)。自動車人では珍しいダイハツ派で、リーザTR-ZZやストーリアX4を経て現愛車は1989年式リーザ ケンドーンS。2015年よりライタ...