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【シボレー カマロSS 試乗記】普通のクルマでは悪口になるのが魅力に変わる7つのポイント
目次
「マッスルカー」シボレー・カマロは普通じゃない。
映画「トランスフォーマー」の主人公、バンブルビーの黄色のクルマは、5代目シボレー・カマロ。今回の試乗車は、6代目で且つマイナーチェンジをしてフロントマスクが変わった新型。
筆者は今から約20年前、3代目シボレー・カマロに乗っていた。並行輸入の中古車で5.7L V8エンジンを搭載したZ28 IROC-Z(アイロックゼット)。当時は超円高で並行輸入の中古車がとても安く、さらにガソリン価格も安く90円/Lを切ることもざらにあった時代。年10万円の自動車税を払うのは大変だったが、とても楽しかった思い出がある。
当時は携帯電話もなく、写真もフィルムの時代。今のスマホのようにパシャパシャ気軽に写真は撮れない。なぜなら1本で32枚しかとれないフィルムに600円程払った上、現像に1枚50円くらいかかるからだ。写真に撮られることが好きではなく、撮った写真もすぐに捨ててしまっていた中で、奇跡的に1枚だけカマロが写った写真を2年前に探し当て過去の企画に使用した。その写真がこれである。一緒に写っている彼女に未練があったのではない(笑)
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今回試乗したのは、2018年11月にフロント周りのデザイン変更をはじめとしたマイナーチェンジ後の最新型のシボレー カマロSS。モデルイヤーでいえば、当時乗っていたカマロと約30年の隔たりがあるが、大排気量V8エンジンを搭載したアメリカンなワイルドさは果たして健在なのだろうか?今回の試乗はこの点が最大の焦点。お借りした広報車で3日に渡って800km程走行。体感した最新型シボレー カマロ SSのインプレッションをお届けする。
「マッスルカー」の代表車のひとつ
すっかり前置きが長くなってしまったが、シボレー・カマロの概要を簡潔にお伝えしたい。既知である方はお読み飛ばしを。
シボレー・カマロは「マッスルカー」の代表モデルのひとつ。マッスルカーとは、大排気量でハイパワーなアメ車の呼称。オイルショック前の1960〜70年代の、シボレー・コルベット、カマロ、フォード・マスタング、ダッジ・チャレンジャーなどがその代表車種。アメ車全体的な特徴でもあるボディサイズの大きさもその特徴の一つである。
一言で片付けてしまうとシボレー・カマロは「普通でない車」。車用語で言えばスペシャリティカーである。実用性は最低限。実用性を犠牲にして、と書くと語弊が生じるかもしれないが、移動手段としての快適性、使い勝手と引き換えに走るさまざなヨロコビ(喜び、歓び、悦び)をもたらしてくれるクルマである。
当時、往年のマッスルカーは、アメリカの広大な大地をかっ飛ばすことを考えてつくられているため、峠を攻めるハンドリングは期待できない。アメリカではその必要性はなく、そのような場所も少ない。(数的には日本よりかは多くなるかもしれないが、圧倒的に直線道路の方が多いのがアメリカ)このため、「曲がらない、止まらない」とも言われることがあるが、本国では問題にならないのである。現在のマッスルカーは、技術が進歩しそこまでとはいかないが、基本的なスピリッツ、血筋は今でも流れている。
ここまでをシボレー・カマロの基本知識として、次項以降を読み進めていただきたい。
10速AT&ラインロック付きローンチコントロール
世界中の市販車で最多段となる10速ATをシボレー・カマロSSに搭載。(直列4気筒2.0Lダウンサイジングターボ搭載車は8速AT)マニュアルモードにすると、パドルシフトをかなりカチャカチャ動かす必要があるが、そもそもその必要性があまりないクルマ。
着目したいのは「ラインロック付きローンチコントロール」である。日本の公道では使うことがない、というより使うのは危険であるが、なんともロマンを感じる装備である。ラインロックとは、発進時に前輪のみをロックする機構。後輪を空転させタイヤを温めて白煙を巻き上げるアレである。ローンチコントロールとは、発進前にエンジンの回転を上げて、もっともパワーの出るところでロケットスタートできるようにする仕組みのこと。
OHVエンジン
MOBYの読者層に多い20代、30代の男性には「OHV」というエンジンタイプがどんなものかピンとこないかもしれないので、簡単に解説させていただく。この解説は、カマロの最大の魅力につながる重要な要素であるが、読み飛ばしていただいても問題ない。
現在のエンジンの主流は「OHC」Over Head Camshaft の各語頭文字をつなげたもの。文字通り、カムシャフト(吸排気弁を動かす軸)がエンジンの頭に位置しているもので、このカムが2つあると「DOHC」Double Over Head Camshaft となる。1980年代から1990年台のトヨタ車では「TWIN CAM(ツインカム)」と呼ばれたエンジンタイプ。カムが1つ=シングルになると「SOHC」Single Over Head Camshaft となり、Sを省略して単に「OHC」と表記されることも多い。「OHV」Over Head Valve は、オーバー・ヘッド・バルブ の略で、カムではなくバルブ(吸排気弁)のみがエンジンの頭にあり、カムシャフトはエンジンの側面に位置する構造となる。カムシャフトとバルブの間は距離があり、プッシュロッド(押し棒)でエンジン下部から上部のバルブを上下に動かして給排気を行う機構となる。
OHVはOHCに比べるとカムシャフトがエンジンの頭にないため高さがなくなり車の重心を低くすることができ、機構的に単純で整備もしやすい。最大のデメリットは、エンジン下からロッカーアームを介してバルブを突き上げる格好になることから、高回転になるとバルブを突き上げっぱなしになり、回転数の頭打ちが低くなること。OHCはエンジンの回転をバルブを動かすカムシャフトに伝えるためのタイミングベルトが必要になるなど部品数が増えるが、現在はエンジンそのものの軽量化や耐故障性能が向上し、OHVの存在価値がなくなってしまった。現在、国産車の乗用車でOHVエンジンを搭載したモデルは1台もなく、正規輸入車で新車のOHVエンジンを搭載した車を買おうとすると、シボレーしかない。
大排気量OHVエンジンの魅力はなっといっても、ドロドロ回る迫力のエンジン音と、ぶっといトルク。発進時に不用意にアクセルを踏み込むとホイールは空転するので注意が必要なほど。しかし、カマロに搭載されている可変バルブタイミング機構付きOHVはしっかりと高めの回転まで回り、高速回転時には「ボォー」という低音を響かせてくれる。
四の五の言ってしまったが、ぜひとも体感してもらいたい、の一言に尽きてしまう。大多数の男子には気に入ってくれるはず。
453馬力!カマロは1馬力15,000円!
「453馬力」というカマロSSのスペックだけで、もう十分この車の性格を表現していると言えよう。この数値だけでも胸が高鳴る方がいらっしゃるはず。国産車で400PSを超すモデルは数少なく、日産GT-Rの570PS、ホンダNSXの581PS(モーターを足したシステム総合出力)、レクサスでV8/5.0Lを積むLS500、LC500、GS F、RC F、の477PSしか現行販売されていない。さらに、車両価格はレクサスRC Fの982万円が最安価、これ以外は余裕の1,000万円超えである。対して、シボレー カマロは680万円!1馬力15,000円というエンジンパワーにおいては文字通りコストパフォーマンスに優れているのである。
ゴテゴテした安全装備や先進技術は必要ない!
シボレー カマロには、先進安全装備は必要ございません。自動ブレーキはなし。もちろん自動運転もなし。先進性を感じる安全装備といえば、レーンチェンジアラート / サイドブラインドゾーンアラート(車線変更時の後方車両を検知し警告を発する / 車両側面側の車両の接近を警告)ぐらい。トラクションコントロールはついているが、発進時にアクセルを踏み込み過ぎると後輪は空転し滑るので注意が必要だ。
カマロSSは453馬力のパワーを存分にドライバーに感じてもらいたい仕様である。ゴテゴテした安全装備や先進技術は必要ないのである。
ワイルドでスパルタン。細かいことを気にするな。
筆者が足掛け3日で約800kmほど試乗し体験したカマロは、至ってワイルド、豪快であった。悪く言えば雑。大雑把。しかし、これが歴代のシボレー カマロの最大のセールスポイントであり魅力である。ファンが愛してやまない最大の要素なのである。粗を書き出すつもりはないが、ワイルドなマッスルカーを体感できるポイントを7点列記する。
ただ、この7つのポイントは特に筆者が読者に伝えたい点。乗る人によって感じ方は十人十色であろうから、実際には7点以上あろうかと思う。繰り返すが、これは私なりのシボレー カマロへの賛辞である。
1 無駄にでかい。小回りは効かない。
日本の駐車場のマスの大きさは、国土交通省が普通乗用車用で長さ6.0m、幅2.5mを原則最低限とすることを示しており、ほとんどの駐車場のマスがこれに近い。シボレー カマロの全長は4.785m、全幅は1.9m。
ご覧の通り、カマロはギリギリ収まるボディサイズ。シボレーの公式サイトには最小回転半径の記載がないが、その数値はちょうど6mくらいだろうか。プリウスなど一般的な国産車の最小回転半径は、5.0〜5.5m。数値的には0.5〜1.0mの小さな違いとなるが、大きいボディサイズは街乗りでは致命傷。日本の道路事情で普段乗りすることできる、ぎりぎりの大きさ。
しかし、ワイルドとスパルタンをクルマに求めたい人には最高のスペックではなかろうか?
2. ドアミラーは手でたたむ。自動である必要はない。
そもそもシボレーの本国アメリカでは、ドアミラーをたためるようにする必要がない。広大な土地があり、駐車場のマスの面積は日本の倍以上ある。国土の狭い日本では、ドアミラーは可倒式でなければならない規則がある。たためないと車検に通らないのだ。従って、電動ドアミラーなどはオプション設定すらない。
3. 気難しいオートエアコン。冬でも暑くなる。
6.2Lも排気量があれば当然発生する熱量も大きい。冬場でも長時間走ると車内は温かい。オートエアコンが装備されているが、これがなかなか気難しい。マニュアルエアコンのようにこまめに温度設定を変える必要があった。これは、昔乗っていたカマロと同じ。推測であるが、2.0Lのダウンサイジングターボを搭載したカマロなら、きちんと調整してくれるだろう。
試乗した日の外気温は8~10℃程、オートエアコンに設定していると時折冷風が吹く。エアコンを切ると暑いくらいであった。夏場の車内温度もワイルドなことになる反面、凍てつく風を車内に注ぎこんでくれる可能性がある。
4. スマホだなんてナンパなものは運転中は不要だ
スマホを置くとところはなし。唯一置ける場所はセンターコンソールのドリンクホルダー。
国産車なら、ドアパネルにペットボトルが置けるスペースがあるだろう。シボレー カマロにはそれもない。
センターコンソールにドリンクを置くか、スマホを置くか。いや、そもそも、スパルタンなクルマにはスマホなどナンパなものは不要なのだ。
5. 同乗者へもスパルタン
だいたいのクルマには、ドアパネルかピラー、ルーフにグリップがあって、ドライバーがワイルドな走行をしても同乗者はそれを掴んで体を支えることができる。シボレー カマロには、グリップがない。
一応、4人乗りのシボレー カマロ。後部座席は荷物置きと割り切ろう。これは初代からの伝統だ。身長165cm以上あれば頭で天井を余裕で押し上げることができる。助手席、後部座席ともにグリップはなし。
同乗者もスパルタンを感じて乗らねばならない。
6. 前方も後方も視界がせまい。
シボレー カマロを真横から見てみよう。長いボンネット、運転席は車の長さの半分より後ろにある。リアデッキはボンネットより高い位置にある。フロントウィンドウ、サイドウインドウの高さは低い。
どうだ、かっこいいだろう!
しかし、このワイルドなデザインと引き換えに、前も後ろも視界は狭い。地下駐車場から急な坂を螺旋状に登っていくようなところでは勘で走ろう。長いボンネットは、6.2L V8エンジンを収めるために必要なのだ。
後ろは気にするな。
ルームミラーはあるが、これもよく見えるとは言い難い。いっそのこと助手席に座ったかわいい女性と目線を合わせるためにあるかと思ってしまう。
しかし、とは言っても2020年を目前にした現代のクルマ。レーンチェンジアラート/サイドブラインドゾーンアラートは装備され、高解像度リアビューカメラ / リアパークアシストもついている。
必要最低限な安全は確保できるのである。
7. 燃費が悪い
燃費が悪いといっても、現在の自動車の平均的な数値と比べてのこと。1960年代〜70年代のマッスルカーは、ガソリンを撒いて走ると言われたリッター2〜3km、よくて5kmといったこところ。日本のマッスルカー愛好家で、燃費の悪さを自慢する方は少なくない。
試乗した2019年型シボレー・カマロSSの6.2L V8エンジンは、市街地走行で5〜8km/L、郊外走行で8〜10km/L、高速道路では10〜12km/Lといった燃費で、決して良い数値とは言えないが、6.2Lという大排気量とワイルドな走りを考慮すれば優等生である。
カマロのV8・OHVエンジンには、可変バルブタイミング機構と気筒休止システムが備わり、高出力と低燃費を両立させた地球に優しいマッスルカーなのだ。
ハイパワーとロマンを買うのだ!
やれ低燃費だ、エコだ、安全だと並びたてているクルマたちに苛立ちを覚えるなら、ぜひ、シボレー カマロをおすすめしたい。そこまでいかなくとも、日常に刺激が常に欲しい方、人とは違うカーライフを送りたい方にもおすすめしたい。
筆者が約20年前に乗っていたカマロと、現行モデルのカマロの基本的なスピリッツは不変であった。クルマの電動化や自動化が進む今日にあって、その潮流に乗らないシボレー カマロSSに私は敬意を表する。今も昔と変わらぬコンセプトで売られ続けていたこと、とても嬉しかった。
ちなみに、カマロ LT RSは、ダウンサイジングされた2.0L 直列4気筒を搭載。こちらはエコに配慮したアメ車らしからぬエンジンではあるが、2月に開催された、JAIA輸入車試乗会で少しばかり乗ったときは、直4にしては骨太のカマロらしさを残していた印象があった。次の機会に、このモデルにも試乗しインプレッションをお届けしたい。
シボレー・カマロSS|画像ギャラリー
今回の試乗ドライブコース
中央自動車道大月インターチェンジを降りて国道139号線を北上。河川敷に降りての撮影は、途中で県道505号小和田猿橋線に入った桂川で。また、奈良子川に沿うような山道へも寄り道。奥多摩湖からは東京都道206号川野上川乗線「奥多摩湖周遊道路」へ入った後に南下。都道206号は「檜原街道」と名称が変わり、山梨県道・東京都道33号上野原あきる野線、上野原インターチェンジまでを走行。
試乗車 シボレー・カマロSSのスペックと価格
グレード | SS |
モデルイヤー | 2019年 |
全長 | 4,785mm |
全幅 | 1,900mm |
全高 | 1,345mm |
ホイールベース | 2,810mm |
車両重量 | 1,730kg (*1) |
乗車定員 | 4名 |
エンジン種類 | V8 直噴 OHV・NA(自然吸気)6.2L 可変バルブタイミング機構付き |
最高出力 | 333kW [453PS] / 5,700rpm |
最大トルク | 617N・m [62.9kg·m] / 4,600rpm |
使用燃料 | 無鉛プレミアムガソリン(ハイオク) |
駆動方式 | FR |
トランスミッション | 10速AT |
JC08モード燃費 | 未公表 |
WLTCモード燃費 | 未公表 |
サスペンション(フロント) | ストラット式 |
サスペンション(リア) | マルチリンク式 |
タイヤサイズ(フロント) | 245/40ZR 20インチ |
タイヤサイズ(リア) | 275/35ZR 20インチ |
新車車両価格
❏ シボレー カマロSS(試乗車)車両本体価格
新車車両本体価格;6,840,000円
オプション
電動サンルーフ:151,200円
フロアマット:48,600円
❏他グレード車両本体価格
シボレー カマロ LT RS:5,292,000円
シボレー カマロ コンバーチブル:6,156,000円
※価格はメーカー希望小売価格、消費税込み
試乗レポート・撮影:宇野 智(MOBY)
- 執筆者プロフィール
- 宇野 智
- モーター・エヴァンジェリスト/ライター/フォトグラファー/ビデオグラファー/エディター エヴァンジェリストとは「伝道者」のこと。クルマ好きでない人にもクルマ楽しさを伝えたい、がコンセプト。元MOBY編...