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「タイヤに窒素」は意味がない?整備士が教えるメリットとデメリット
車のタイヤに窒素ガスを入れると、さまざまな効果が期待できます。
例えば、酸素より窒素の方が粒子が大きくタイヤから抜けにくくなり、さらに温度による膨張が窒素の方が少なくなります。
しかし適切に窒素ガスを管理しないと、それらの効果は期待できません。また、窒素ガスを入れているから、とメンテナンスもせず放置しておくと、窒素の圧力が低くなってしまいます。
タイヤに窒素ガスを入れるメリットやデメリット、整備士としてみてきたなかで、私個人としての見解をお伝えします。
タイヤに窒素ガスを入れる3つのメリット
空気圧が減りにくくなる
窒素の分子は酸素よりも大きいため、酸素より空気圧が減りにくいという特徴があります。
また、窒素は不活性ガスなのでタイヤに含まれる水素成分と結びつくことはありません。しかし酸素は活性ガスなので、水素成分と結びついて酸素を減らし、水を作ります。
これらの要因により、空気よりも窒素ガスの方がタイヤの空気圧が下がりづらいのです。
空気圧が減りづらければ燃費の悪化も抑制できますし、「気づいたときにはかなり空気圧が下がっていた」ということもなくなります。
温度による変化が少ない
どんな気温でも、快適な乗り心地や燃費のよさを維持し続けられる点も、窒素ガスのメリットです。
窒素ガスには温度による体積変化が少ないという特徴があります。そのため、地上との気温の変化が激しい飛行機のタイヤは空気(酸素)ではなく、窒素ガスを使います。
車のタイヤでも、夏と冬では同じ空気量を入れても、空気圧が違ってきます。また、長時間高速道路を走り続けると空気が膨張し圧力が上がってしまいます。 そうすると、乗り心地や燃費に影響がでてきます。
しかし窒素は気温の差が発生しても圧力の変化があまりなく、いつも同じコンディションで車に乗ることができます。
タイヤの劣化も防ぐ
窒素ガスはタイヤの劣化も防ぎます。酸素は、水素と結びつき水を発生させます。この水がタイヤや鉄のホイールを劣化させるのです。
タイヤ内には、金属のワイヤーが入っています。水がタイヤのなかに浸透することで、ワイヤーが劣化していきます。加えて、鉄のホイールの場合、発生した水によってホイール自体の劣化も加速します。
しかし不活性ガスである窒素であれば、水素と反応することはなく水は発生しません。
タイヤに窒素ガスを入れるデメリット
お金がかかる
窒素ガスの補充は有料としている店舗が多いです。空気であれば無料で調整してくれる空気圧ですが、窒素ガスを無料で入れてくれる店舗はあまりありません。
窒素ガスの補充料金は、1本500円程度となっています。なかには、タイヤ内を一度真空状態にして、窒素を補充してくれる店もあります。その場合、1本1,000円から2,000円ほどの料金になる場合も。
しかし、一度有料で窒素を入れると、2回目以降は無料で行ってくれる店もあるので、もし補充する場合は下調べをしてみましょう。
どこでも補充できるわけではない
整備工場でも、窒素を取り扱っている店はそんなに多くありません。どちらかというと、タイヤ専門店やカーショップに多いです。
そのため、タイヤに窒素ガスを入れてもらうためだけに、窒素ガスを取り扱っている店に行かなければなりません。
「タイヤに窒素」整備士から見てあまり意味がないと思う理由
窒素ガスのメリットは理解していますが、私自身、整備士として働いているなかで、窒素ガスはあまり意味がないと感じることがあります。
そこで、窒素ガスを入れても意味がないと思う理由をお伝えします。
「窒素ガスを入れているから」とメンテナンスをしなくなる方が危険だから
窒素ガスを入れている方のなかには、「窒素ガスを入れているからメンテナンスをしなくてもいい」と勘違いしている方がいます。
窒素ガスは確かに空気圧が減りにくいのですが、窒素ガスでも少しずつ空気圧は減ります。
いくらメリットの大きい窒素ガスを入れていても、空気圧が低すぎる状態は危険です。窒素ガスだから、とメンテナンスを怠るくらいなら、空気を入れてマメにメンテナンスする方が安全に走行できます。
窒素タイヤに空気を混ぜると意味がないから
せっかく窒素ガスを入れていても、空気を補充すると意味がありません。多少、窒素ガスの割合は高くなるでしょうが、空気内にも一定の窒素が含まれているため、効果があまり期待できないのです。
その背景には、窒素ガスを補充するデメリットでもある、店を選んで補充が必要という点で、めんどくさいと感じている方が多いのかもしれません。
せっかくお金を払って窒素ガスに変えているのに、もったいないなと感じます。
窒素タイヤはエアバルブのキャップで見分けよう
窒素ガスを入れているかどうかを見分けるためには、エアバルブのキャップを確認しましょう。窒素ガスを入れているなら、プラスチックのキャップではなく、アルミ製で「N2」と書かれているはずです。
しかし、ドレスアップ目的などでエアバルブを変えている車では、この方法は使えません。その場合は、運転席のドア付近に窒素ガスのシールなどが貼られていることがありますので確認してみましょう。
無料で補充をしてもらえないことがあるから
ガソリンスタンドをはじめ、空気圧の補充をサービスで行う店は多いです。しかし、窒素ガスを入れていることによって、そのサービスが受けられなくなります。
タイヤの劣化は紫外線の影響が大きいから
窒素ガスのメリットに、タイヤやホイールの劣化を防ぐことがあります。しかし、タイヤの劣化には酸素が発生させる水よりも、紫外線の影響の方が大きいです。
タイヤはゴムなので、紫外線によって劣化します。そのため、タイヤ内のワイヤーよりもゴムが先に劣化して交換することがほとんど。
また、最近のタイヤは鉄よりもアルミを採用しているものが多く、水によるサビをそこまで気にする必要はありません。
窒素ガスでも空気でもどちらを入れても間違いではない
以上のことから、窒素ガスを入れる意味はあまりないと感じています。
窒素ガスにメリットがあることは事実であるため、私個人としては窒素ガス、空気どちらを入れてもよいと考えています。
大切なのは、特性が違うことを理解し、タイヤのメンテナンスをきちんと行うことです。空気を入れても窒素を入れても、適正な空気圧を維持できなければ意味がありません。
お金をかけてでも、メリットの大きい窒素ガスを入れるのか、無料の空気で済ますのか。いずれにせよタイヤの空気圧や劣化状態の確認は、定期的に行いましょう。
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- 執筆者プロフィール
- 山北吏(つかさ)
- 1989年生まれ。現役整備士(整備士3級)webライター。webライター歴は1年半。愛車はインプレッサ(GH8)。車に乗るなら絶対MT!実家が田舎だったこともあり山道は得意!整備士として働き始め3年目。前職は輸入業...
- 監修者プロフィール
- 鈴木 ケンイチ
- 1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレー...