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日本政府も複数台所有する防弾仕様車が普通に買えるってホント?価格や性能は?
不安定な世界情勢から、近年は防弾仕様車の需要が高まっています。
比較的治安の良い日本であっても、乗車中を狙った襲撃事件は発生しており、要職に就く方の移動に防弾車は必須といえるでしょう。
日本ではあまり知られていない、防弾仕様車の構造や購入方法はどうなっているのでしょうか。
防弾仕様車の需要が高まっている
頑丈に思える自動車のボディも、銃火器を前にしては紙も同然です。そのため、国家の要人や大企業経営者、映画俳優やスポーツ選手などの移動には、誘拐や襲撃から身を守るための防弾車が欠かせません。
比較的治安の良い日本では馴染みが薄いものの、メキシコ、ベネズエラ、南アフリカ共和国など、海外の治安が悪い都市ではもっと身近な存在であり、防弾車でなければ安心して車の移動ができないほどです。
例えば、「ビースト」の愛称で呼ばれるアメリカ大統領が移動に使うキャデラックも、もちろん防弾仕様。現在の内閣総理大臣専用車であるレクサス LS600hLや、皇室が使う御料車のトヨタ センチュリーも防弾仕様に改装されています。
防弾車の需要は1963年のケネディ大統領暗殺以降一気に高まり、近年もテロリストの暗躍やマフィアの抗争などの治安悪化で世界的に需要が増加傾向にあります。
それにより、古くから自社で防弾仕様車を製造・販売していたメルセデス・ベンツやBMW、ロールスロイスやジャガーに加え、近年はアウディやボルボまでもが自社の車をベースとした防弾仕様のラインナップを拡大しています。
普通の車となにが違う? 防弾車の中身とは
「銃弾を弾く」などと形容されるものの、防弾車は頑丈なボディで銃弾を弾くわけではありません。
防弾車はドア内やボディの内側に、強固な特殊鋼板や防弾チョッキにも用いられるケブラーやアラミド繊維の複合材などを隙間なく仕込み、銃弾がもつ運動エネルギーを吸収することで、銃弾や爆弾の破片が車内まで届かないようにする構造です。
もっとも弱い箇所である窓ガラスも同様に、ガラスとポリカーボネートが多重に積層された厚さ5cm以上にもなる防弾ガラスで銃弾を受け止めます。
そのほか燃料タンク保護や燃料の流出を防ぐ機能が持たされるうえ、車のアキレス腱ともいえるタイヤは、撃たれて空気が抜けても構造体のみで車重を支えて走れるランフラットタイヤが装着されます。
重い防弾ガラスを開閉するためにパワーウィンドウのモーターの強化も必要であり、重くなったドアを支えるヒンジも強化され、軽く操作できるように開閉補助機構が備わる車もあります。
また、万が一の車両火災に対して作動する消化システムや、煙や毒ガスから守る消化装備や強制換気装置に加え、サイレン、回転灯、トランシーバーなど非常装備も搭載される場合があります。
このような装備により、車重は市販車と比べ物にならないほど重くなるため、相応のトルクがある大型のエンジンを搭載した車でなければ走らせることもままなりません。もちろん重くなった車を支えるサスペンションも強化されています。
さらにメルセデス・ベンツの防弾車の価格には、恐ろしく重い車を安全に運転するためのトレーニング費用も含まれているそうです。
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とはいえどんな銃撃も防げるわけではない
防弾車とはいえ、すべての重火器による攻撃を防げるわけではありません。防げる弾薬や威力は防弾設備の程度によって規格が定められています。
防弾性能は米国司法省国立司法研究所標準(NIJ規格)もしくは、欧州標準化委員会(CEN規格)で示されるのが一般的です。そのほか国ごとに独自基準が設けられている場合があります。
最低限の性能を備えた規格は、米NIJ-IIIA/欧州EN-B4規格に該当する防弾車であり、こちらはハンドガンによる攻撃を防ぐことができます。ただし、密輸拳銃として日本に多く出回ったトカレフは貫通力に優れるため、この規格では防げない場合があるようです。
その次に高いEN-B5は、ライフルやサブマシンガンの銃弾も防げ、手榴弾の破片も防御可能な規格です。マフィアの抗争やテロリストの襲撃から逃れるならこれくらいの性能は欲しいところですね。
NIJ-III/EN-B6は、比較的小径の弾丸を使用した狙撃を防げる規格です。プロの殺し屋に命を狙われているならこのレベルの防弾車を用意しましょう。
NIJ-IV/EN-B7は、民生用で最高の防弾性能を誇る規格であり、大径の銃弾や徹甲弾を用いた対戦車ライフルも防げます。紛争地域を安全に走行するならこれくらいの性能が必要です。
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エレガントな装甲車!メルセデス・ベンツガード
高級車メーカーの代表であるメルセデス・ベンツは、防弾車開発においても長い歴史があります。「メルセデス・ベンツガード」と呼ばれる防弾仕様車は、SクラスとマイバッハSに設定される世界各国の要人御用達の防弾車です。
最高の防御性能を誇るとされる最新のメルセデス・ベンツガードは、装甲車並の防弾性能を備え、ルーフ・フロア・サイドの3箇所のテストでドイツで最高性能の防弾・防爆性能を獲得しています。
至近距離からのライフル弾も防げるため、最新のメルセデス・ベンツガードに乗る要人を襲撃するなら、重機関銃を搭載した戦闘車両や戦闘ヘリ、対戦車ライフルなどを用意しなければなりません。つまり並の装備では手も足も出せないということです。
それでいながら、外観や車内の豪華さはメルセデス・ベンツそのもの。メルセデス・ベンツガードは街中を普通に走れる世界一安全でエレガントな装甲車といえるでしょう。
防弾装備に加え、V型12気筒エンジンに換装されたメルセデス・ベンツ S680 ガードは45万7,100ユーロ(約6,200万円)と非常に高価。しかし、国際会議などの移動では防弾仕様のメルセデス・ベンツが用いられ、日本政府も防弾仕様のマイバッハを複数台購入しています。
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一般人でも防弾車は購入できる?
防弾車は一個人でも入手可能です。ただし購入するにあたって、犯罪歴や社会的信用などの入念な身元調査が行われる点には注意が必要です。
とはいえ、防弾車は日本へ正規輸入されておらず、新車で手に入れて乗るには並行輸入をしたうえ保安基準に適合させる必要があります。
まれに中古車でも防弾車が販売されますが、樹脂が用いられる防弾ガラスや防弾パネルは経年劣化により防弾性能が低下するため、中古の防弾仕様車の購入はおすすめしません。
防弾車としての性能を発揮できるのはおおよそ製造後3年であり、5年以上が経過すると防弾性能が低下します。緊急で防弾車が必要になる場合は、リースやレンタルを利用するのがよいでしょう。
このような状況を踏まえると、日本で防弾車に乗るには、既存の車を防弾仕様に改造する方法がもっとも手軽といえます。
マイカーを防弾仕様に改造したほうが早い?
改造による防弾性能はドアの厚さなど車の基本設計によって制限があるものの、原則としてどのような車でも防弾仕様にできます。
防弾仕様車に改造するための費用は400万円程度から。もちろん防弾性能を高めるほど費用は上乗せされ、おおよそ車両価格の30〜50%が改造費用の目安です。海外ではポルシェやフェラーリ、テスラやアストンマーティンを防弾車に改造した事例があります。
依頼する際は、専門業者にどれほどの防弾性能が必要かを正確に伝え、見積もりを出してもらいましょう。
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- 伊藤友春
- 1981年生まれ。自動車専門Webライターとして執筆活動中。自動車の構造に明るく、ほとんどの整備や修理をDIYでこなす。輸入車・コンパクトカー・変わったデザインやコンセプトの車が好きで、現在の愛車はその最た...