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4WS(四輪操舵)システムとは?復活した理由と新旧採用車種
4WSとは?
四輪操舵機構のこと
4WSは英語表記 4(four) wheel systmの頭文字を併せたもので、四輪操舵機構を示しています。四輪操舵機構とは四輪全てに操舵の仕組みを搭載したものです。
私たちが日頃運転している自動車がそうであるように、多くの自動車は前輪に操舵機構を持つのが一般的で、4WSの車種は全体的に少ないです。
4WSのしくみ
四輪操舵機構は、前輪にも後輪にも同じような操舵機構を設けるわけではありません。前輪の操舵機構はラック・アンド・ピニオンで、ステアリングを回して操作することで舵角を決定するわけですが、後輪の操舵はステアリングがどれくらい回っているのか(舵角がついているのか)に連動します。ステアリングが前輪と後輪の操舵の両方を担うということです。
交差点やカーブに進入する時にはステアリングを進行方向へ回すことで車を曲げていますが、具体的に車が進行方向を変えられる要因には横滑り角の存在があります。
横滑り角はスリップアングルの名称でも知られています。横滑り角が付いた時にコーナーリングフォースが発生することで、自動車は進行方向を変える(曲がる)ことができます。
横滑り角の増加によるコーナーリングフォースの発生量の増加は限界があります。それは、オーバースピードでカーブを曲がりきれなかったり、ステアリングを切り足しても(さらに舵角を与えても)それ以上に曲がらないことからも分かる通りです。
後輪が操舵されればスリップアングルがつき、コーナーリングフォースが発生します。曲がる力を生み出す点では、このように考えるのは当然の帰結と言えるでしょう。
4WSの種類
四輪操舵機構にもいろいろ種類があり、後輪の舵角がつけられる方向(後輪が向く方向)や、舵角を生み出す仕組みの2つで分類することができます。
同位相方式と逆位相方式
後輪の舵角がつけられる方向に注目すると、同位相方式と逆位相方式の2種類に分けられます。同位相方式は前輪と同じ方向へ後輪の舵角を当てる4WSで、逆位相方式は後輪が前輪とは反対の方向へ向くようにする4WSです。
例えば左カーブを曲がる時、同位相方式では後輪は左を向き、逆位相方式では右側へ向くことになります。
2種類の4WSがあると述べましたが、実際の4WS車両は同位相方式と逆位相方式の両方が採用され、操舵角と速度域に合わせて使い分けるのが一般的です。
速度域で同位相方式と逆位相方式を使い分ける理由は?
同位相方式と逆位相方式が速度域で使い分けられるのにはステアリング操作が関係しています。
例えば、高速道路で車線変更する時のステアリング操作と、駐車場で後退駐車する時のステアリング操作は全く異なります。前者ではほんの少し動かすだけですが、それに対して後者では多く回すことは、周知の通りです。
高速度域では車体は安定するに越したことはありませんし、低速度域なら小回りが効くほうが融通が効いて便利です。そのような速度域ごとに求められる(必要な)ものを実現するように工夫した結果と言えるでしょう。
機械式と電子制御式
また、4WSは機械制御式や電子制御式というように分類されることもあります。偏心シャフトやギアなどを利用して機械的に後輪を操舵するものや、アクチュエーターによる電子制御で操舵するものなどです。電子制御式は機械式よりも複雑な操舵制御を可能とします。
4WSのメリット
先でも少し触れたように車を曲げるためにはコーナーリングフォースが必要で、それはスリップアングルがつくことで生み出されますから、前輪だけでなく後輪にも舵角をつけられる(つまりスリップアングルを生み出せる)点がメリットとなっています。
高速走行時、車線変更による横滑りを防ぐ
同位相方式による四輪操舵は、主に高速走行時の車線変更による横滑りを防ぐなどのメリットがあります。同時に、逆位相方式のデメリットとして挙がる「縦列駐車が難しくなる」点は同位相がカバーしています。
大型車でも取り回しがよくなり運転しやすい
逆位相方式による四輪操舵は、回転半径や内輪差が小さくなることで、大型サルーンがあたかもコンパクトカーのような身のこなしで曲がれるようになるメリットがあります。
4WSのデメリット
前輪と後輪の両方を操舵できる構造ゆえにデメリットもあります。それは車両重量の増加、製造コスト増加、定速運転時の難易度上昇です。
装備品が増えれば重さも価格も重く高くなる
4WSを実現するために必要な部品を装着した分だけ車両重量が増加します。車両重量の増加は燃費や軽量性を悪化させる要因にもなります。
また、部品点数の増加は製造コストを上げることにもつながり、自動車に当てはめて考えればそれは車両価格の高騰の理由にもなります。実際、新車価格の安い車種で4WSのものはありません。
前輪操舵のみの車種と比べて変わった動きになる
前輪だけを操舵する車両と比べると少し特殊な動きをする点もデメリットと言えるでしょう。特に低速域、より具体的には駐車する際に如実に現れます。
4WSが低速時に逆位相方式となるのは先ほど説明した通りです。つまり駐車する時や狭いところをゆっくり通る時に後輪が前輪とは反対側を向くわけですが、左右車輪が隣の車両や障害物などに接触しないよう気をつける必要があります。
また、逆位相方式の状態で曲がると内輪差減少によりオーバーハング傾向になってしまいます。内側に寄せすぎて擦ってしまうリスクが下がる代わりに外側の障害物等との距離感を正確に把握しなければなりません。
慣れていない人が4WSの車両を運転する際や、自身の車両を別の人に運転してもらう際には、これらのことを把握するまたは伝えるようにしましょう。
4WSが採用された車種
現行の国産車ではほとんど見かけない4WSですが、輸入車にまで視野を広げると採用車があることに気がつきます。ここでは一部の車種を紹介します。
4WSが採用されている現行車
BMW 5シリーズ
BMWの4WSはインテグレイテッド・アクティブ・ステアリング(前後輪統合制御ステアリング・システム)と呼ばれています。
価格:7,600,000円〜
BMW 7シリーズ
7シリーズ(ガソリン車モデル)は1,132万円からの価格帯で、5シリーズと比べるとおよそ400万円高いですが、6気筒ツインパワーターボエンジンは最高出力280kW(381PS)のスペックです(ヨーロッパ仕様車暫定値)。
価格:11,320,000円〜
レクサス LC
レクサス・ダイナミック・ハンドリングシステム(LDH)はレクサス独自の統合制御システムです。後輪の切れ角制御や、ギア比可変ステアリングなどが採用されています。Sパッケージグレードに標準装備です。
価格帯:税込14,500,000円〜
ポルシェ 911GT3
ポルシェは自社の4WSをリアアクスルステアリングと呼び、911GT3や911ターボなどハイスペックモデルに標準装備されています。
価格:22,960,000円〜
日産 フーガ
日産のセダン車であるフーガの370GTタイプSモデルには4WSが標準装備され、4輪アクティブステアの名称が付けられています。
価格:税込5,955,400円〜
過去に販売されていた4WS採用車の例
ホンダ プレリュード(3代目)
1987年に発売された3代目ホンダ・プレリュードは世界初の4WSの自動車として有名です。1990年代の4WS車群雄割拠時代の先駆けと言えるでしょう。
日産 スカイライン(R31からR34系まで)
日産の4WSはHICAS(ハイキャス:High Capacity Actively Controlled Suspension)の名称で知られ、1985年にR31型スカイラインへ搭載されたのが最初です。その後、HICAS IIやSUPER HICASと進化し、さまざまな車種へ採用されました。
現在、4WSが価格帯の高い車両へ採用されています。大規模な技術革新が起きない限り製造コストが下がることはないと考えられます。輸入車は国産車よりも採用車種が多いので、国産車における新たな4WSの台頭にも注目です。
なぜ国産車から4WSが消えた?そしてなぜ復活した?
かつて1987年に世界初の4WS搭載の量産車として「ホンダ プレリュード(3代目)」が登場し、当時は注目を集めました。それから、1990年代には国産車に無数の4WS採用車が群雄割拠する時代となりましたが、その後は鳴かず飛ばず。
なぜ国産車から4WSが消えたのかというと、さきほど「デメリットがない」とご紹介した理想的な操舵の挙動が、一般的な二輪操舵と比べると”かえって違和感になる”との認識が広まってしまったことや、機構の複雑化、重量増加、新規技術ゆえの高価格がデフォルトであったため、自然と廃れてしまったのです。
しかし近年、また4WSを搭載する車種が登場してきています。復活の理由のひとつに、新型車の大型化にともなって小回り性能も重要視されてきたことが挙げられます。
大型のセダンやSUVは高級志向で人気が高まる一方で、都市部での使い勝手も必要です。コストがかかり、車両価格が高額になっても、4WSを導入して小回りを向上させたモデルのほうが支持される傾向になってきたとも言えるでしょう。
さらに、車の高性能化にともない、 駆動系やブレーキ 、車両姿勢などを統合的に制御する必要が出てきたことも、4WSへ再び注目を集めました。操舵はもちろん、車速や姿勢などをすべて電子制御することができれば、車の性能向上はもちろん、緊急時にドライバーの操作を的確に車がサポートすることも可能です。
いずれにせよ、復活した4WSは高級車・高性能車を中心に積極的に採用されているデバイスと言えるでしょう。
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