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変わらないために、変わり続ける。初代Z-ⅢからZ-9へ受け継がれるSHOEI『コンパクト&軽量』の設計思想
SHOEIのベストセラーとなるZシリーズは、軽快かつスポーティなフルフェイスヘルメット。2026年9月には、その最新作となる「Z-9」が新発売となった。このモデル、先代のZ-8から多岐にわたるデザイン変更が加えられているのだが、それでいて“Zらしさ”が感じられるのが不思議なところ。そこには、2000年に発売されたZ-Ⅲから受け継がれ続けている“何か”が根づいているからなのかもしれない。
その正体を探るべく、Z-Ⅲのデザインを担当した志田眞之氏と、Z-9のデザイナーを務めた福山伴理氏にインタビュー。最新モデル設計者が抱く初代への敬意、シリーズ生みの親だからこそ最新作に思うこと、そしてSHOEIのZに欠かせないモノなどを語ってもらった。
目次
Z-Ⅲから始まった日本のZシリーズ
じつは「ワン」と「ツー」もあった!
まずはZ-Ⅲのデザインを担当した志田眞之さんにうかがいます。これまでの経歴や、Zシリーズ以外に担当したヘルメットなどを教えてください!
美術大学でプロダクトデザインを専攻した後、SHOEIに新卒で入社したのが、ちょうど40年前の1986年。当時の造形室、現在の造形部に配属され、ヘルメットのカタチをデザインする業務に携わってきました。現在はデザイン実務から退き、商品開発を管理する立場にあります。
初めてデザインを担当したのは、市販されたモデルとしてはTF-90(※1989年グッドデザイン賞)。ツーピース構造の完全新作モデルでした。もう、知っている人も少ないかも。その後も多くのモデルを担当しましたが、変わり種では四輪レース用やジェットスキー用、パラグライダー用などをデザインしたこともあります。
そして、2000年に発売されたZ-Ⅲを手がけました。Zシリーズに関しては、途中で他のデザイナーだった時期もあるのですが、Z-7まで担当しています。

不思議に思っていたのですが、Z-ⅢはZシリーズの初代ですよね。「Ⅰ」と「Ⅱ」はどこにいってしまったのでしょう?
日本ではZ-Ⅲが初代ですが、同時期にワンとツーも市販しているんです。Z-ONEが欧州向け、Z-TWOが北米向け。日本とは規格が異なるので、大きさなどに多少の違いはあったのですが、全体的なデザインはZ-Ⅲと共通でした。


Z-Ⅲを開発することになった経緯は、覚えていらっしゃいますか?
SHOEIの場合、ヘルメットの造形は、デザイナーから提案する場合や商品企画に基づいてデザイナーが実務を担当する場合など、いろんなパターンがあるのですが、Z-Ⅲに関してはデザイナーである私からの提案でした。
Z-Ⅲを発売した2000年当時というのは、ヘルメットのカタチが派手になりつつある時代。とくにベンチレーションの大型化は顕著でした。そういう中にあって、ちょっとした反抗というわけではないのですが、異なるデザインアプローチのヘルメットということで提案しました。
なるべくシンプルで、クルマに例えるならエアロパーツ満載というような状態ではなく、ボディの造形だけで魅せるクーペのような……。ストリートで軽快かつファッショナブルにバイクを楽しむライダーをイメージしました。
当時のリーフレットには、『SWIFT MOVER』なんてキャッチコピーがあるのですが、これも軽快性をイメージしたもの。Z-Ⅲの後継であるZ-4にも継承されていました。

初代Zシリーズには「ワン」や「ツー」もあったということですが、数字の順番から想像するに、海外市場を考慮して開発されたのでしょうか?
いえ、どちらかと言えば日本国内がメインで、同じデザインのヘルメットを海外市場でも展開することになったのですが、当時は規格が異なるモデルには固有の製品名を与えていたので、結果的に日本向けがZ-Ⅲを名乗ったと記憶しています。
Z-Ⅲのコンセプトは
「シンプル」かつ「シャープ」に

Z-Ⅲをデザインする中で、とくに大切にしていたことはありますか?
先ほども申し上げたシンプルというのは、Z-Ⅲに欠かせない要素だったのですが、懐古主義的にはなりたくありませんでした。ベンチレーションの大型化による派手なモデルとは一線を画したいけど、ベンチレーションがなかった時代に戻るのではなく、機能的でありながらシンプルな新しいカタチを追求しました。
後頭部に配したフィンのような折り返しとか、パーツを表に出さないロアベンチレーションなど、こだわりが多数盛り込んであります。


たしかにZ-Ⅲには、誕生から四半世紀が経った現在でも、さらに昔のヘルメットとは明らかに異なる帽体の美しさを感じます。これはどういう部分で実現されているのでしょう?
Z-Ⅲは、なるべくシャープに見せようとデザインしました。大昔のヘルメットは、丸みを帯びていてボリュームのあるシルエットがスタンダードでした。当時、LはXLと同じシェルを使っているモデルも多く、着用したときにヘルメットが大きく見えてしまうことがとても嫌でした。
なるべくスマートに見えるヘルメットを被りたいという私の願望が、シャープでコンパクトに見えるZ-Ⅲのデザインにつながったのかもしれません。
Z-Ⅲの意思を継ぐZ-9
「小さくて、軽い」は絶対に捨てられない
では次に、Zシリーズの最新作となるZ-9のデザインを担当された福山伴理さんにも、同じくこれまでの経歴や手がけたヘルメットについてお聞きしたいと思います。
SHOEI入社は2009年。同じく美術大学でプロダクトデザインを専攻し、新卒で入社しました。造形部の配属となり、ヘルメット設計の基礎を学び、初めて手がけたヘルメットはJ・O。その後、同じくネオクラシックシリーズとなるEX-ZERO、Glamsterも担当しました。
一方、国内では廃番となっているエントリーフルフェイスのRYD、システムヘルメットの最新モデルとなるNEOTEC 3も私が手がけました。

かなり手広く担当されているんですね。さまざまなジャンルのヘルメットを担当されていますが、他のデザイナーさんたちも、同じような感じなのでしょうか?
すべてのヘルメットを社内のデザイナーが担当するので、それぞれが幅広いモデルを受け持ちます。基本的には、1モデルに1名のデザイナー。複数モデルを同時進行することはないので、担当する製品に集中できます。
福山さんは、2026年9月に発売されたZ-9のデザインを担当されております。このZシリーズ最新作で、とくに重視されたコンセプトなどはありますか?
Zシリーズの歴史を学んできて、シンプルでシャープというのは根源的な部分だと思っています。そして、これを具現化するために余分なモノを削ぎ落した結果、Zシリーズには軽量でコンパクトという、もうひとつの価値が生まれました。
『小さくて、軽い』というのは、長い歴史の中でZシリーズが積み上げてきた大切なコンセプトで、これは絶対に無視できない要素でした。


そのコンセプトは間違いなく具現化されている一方で、Z-9は初代のZ-Ⅲどころか先代のZ-8と比べても、かなり多くの部分が刷新されているように感じるのですが?
軽量コンパクトあるいはシャープという不変のコンセプトを踏襲することに加え、『より良い製品に!』という開発チームの想いは当然ながらありました。
その中でとくに大きなテーマになったのは、『ベンチレーションをより効かせる』ことと、『インカムの装着に対応する』こと。ただし後者については、専用インカムを埋め込み装着できる構造にしてしまうと、シンプルで軽量コンパクトというZシリーズのコンセプトに合致させることが難しくなってしまいます。そこでZ-9は、オプションパーツのSHOEI COMLINKアダプターを使用して、クリップ式でインカムを装着する設計としています。

インカムの装着に対応するため、デザイン面でも工夫された点があるとお聞きしましたが?
そうなんです。Zシリーズは先代まで、後頭部下側の襟足あたりに、跳ね返りがあったんです。ところがこれをデザインしてしまうと、インカムのアダプターが付かないため、廃止することになりました。一方で、これまであった造形がなくなると、デザインとして少し物足りなく感じられます。これはサイドラインも同様で、被り口の切り返しは盛り込んでいません。そこで、このあたりのデザインにはかなり時間をかけ、試行錯誤を重ねて、シャープさを追求しています。ちなみに、サイドの切り返しをなくすことで剛性の向上にもつながることが分かりました。そこで、サイドはストレートに設計しながら、フチゴムの形状でこれまでのZシリーズらしさを表現しています。


Z-9で大きく刷新されたベンチレーション
Z-9は、ベンチレーションをより効かせることもテーマとありましたが、配置や形状もこれまでのZシリーズとは大きく違いますよね?
はい、頭頂部のベンチレーションが両サイドに分割配置されているというのが、これまでZシリーズの特徴になっていました。これは初代のZ-Ⅲから継承してきたデザイン。Z-7でセンターにも追加され、Z-8もその流れを汲んだデザインとなっていました。
しかし、シンプルというZシリーズのコンセプトを考えたとき、このままパーツが3個に分割されていていいものなのだろうかと考えました。加えて、ベンチレーションの高効率化という点でも、集約したほうが有利と判断しました。
一方で、ひとつにまとめたことで空気の流入量が減ってしまったら本末転倒。そこでZ-9の頭頂部ベンチレーションは、ひとつに集約しながらもZ-8と同じく4個のホールを配しています。また、より走行風の圧力を受けやすい場所に集約できたことで、走行時の空気流量は増えています。


言われてみれば、アッパーベンチレーションはデザインがまったく違いますが、どこかZシリーズらしさも感じられます。
センターに集約することで、スタイリングにZシリーズらしさが失われてしまうかもしれないという点は、とても悩みました。そこで最終的には、集約したベンチレーションパーツの外側にリブ形状を配することで、Zシリーズの個性を受け継ぐことにしました。
一方で口元のロアベンチレーションも、かなり大きく刷新されていますよね?
ロアベンチレーションは、Z-6まではZ-Ⅲのイメージを継承して左右に分割されていましたが、Z-7とZ-8はセンターに集約。私としては、初期の左右にあるデザインがZシリーズの好きなポイントだったので、これを新しいカタチで復活させたいと考えました。
ここでも、なるべく小さく見せたいという思いがあったため、一般的な上下に動かすタイプではなく、上部のみ開閉するシーソー式のベンチレーション構造を新設計。コンパクト化できることに加え、前傾姿勢になったときに走行風を受けやすくなるため、効率的な流入量アップにもつながっています。


初めてこのロアベンチレーションを見たとき、性能を疑ってしまいました。実際にはいかがでしょう?
SHOEIとしてはあまり手がけてこなかった構造なので、正直なところ最初は私も、『これ、どうなんだろう』と思いながら設計していました。
でも実際にプロトタイプを設計して風洞実験をしてみたら、想像以上に良くて驚きました。前傾姿勢時の効率に優れるのに加え、正面で受けた走行風がシールドに沿って下に入ってくるので、開口部は狭いけど、空気流入量は多いです。これは体感的にもそうですし、数値でも実証されています!

こういう新しい挑戦をするときには、自社に大型風洞実験設備があることの恩恵は大きいですか?
そうですね。現在は、あらゆる開発で活用しています。初期の設計段階では3Dプリンターも活用して、例えばロアベンチレーションの場合、既存モデルの一部に改造を加えて、ロアベンチレーション部分だけ3Dプリンターで製作したものに組み替え、形状や機能を検証することもあります。
ちなみにZ-9の場合、風洞実験で一番苦労したのは、あまり注目されない後頭部のエアアウトレットなんです。こちらは常時開放式で、負圧によりヘルメット内部に溜まった空気の排出を促す構造なのですが、なかなか思うような効果を発揮させられずにいました。
試行錯誤を重ねた結果、上部に跳ね上がりのリブ形状を設け、また開口部を最適化することで、より大きな負圧が得られることが分かり、最終的に製品の形状にたどり着きました。

Z-9は大きく変わった。それでも「Zらしさ」は変わらない
こうやって、Z-9をデザインされた福山さんに詳細を直接お聞きすると、これまでとはイメージが大きく変わったように見えて、じつはかなりZシリーズらしさが盛り込まれていることがわかります。
Z-8からはかなり大胆にデザインが変わっていますが、Zシリーズの本質的な部分を、かなり意識しながらデザインしました。
一方でアッパーベンチレーションのように、従来のデザインから大きく変更した部分もあります。それがお客様にどう評価されるのかという怖さは、製品化された現在でも正直なところ感じています。
でも私の中にあるZシリーズは、進化を続ける洗練された存在。初代のZ-Ⅲや先代のZ-8だけということではなく、これまで25年以上の歴史を理解しながらデザインしたのがZ-9なんです。

そんな最新作を見て、Zシリーズの生みの親でもある志田さんは、どのような感想を持ちましたか?
最初にモックアップを見たとき、素直に『カッコいい』と思いました。初代のデザイナーとしては、ロアベンチレーションのイメージをZ-Ⅲから受け継ぎながら、現代的にアップデートしている点もうれしく思っています。
もちろん、デザインを比べたらZ-ⅢとZ-9は別物。でも、シャープとかコンパクトといったコンセプトはしっかり受け継がれていて、Zらしさが溢れていると思います。

ちなみにZ-9は、想定するユーザー層などはあるのでしょうか?
Zシリーズは年齢性別、車種を問わず幅広く使われているモデル。Z-9に関してもこれは同じで、とくにターゲットは想定していません。
シーンも、ツーリングから日常ユース、ワインディングから高速道路まで、オールマイティに使える機能と性能を盛り込んであるので、あとはユーザーそれぞれがスタイリング込みで思い思いにZ-9とのライディングを楽しんでもらえたらうれしいです!
ところでSHOEIには以前から、開発チームなどの社員が新製品などの実走テストにも参加しているイメージがあります。福山さんもバイクに乗りますか?
はい、トライアンフのスクランブラー900を所有しています。もちろんZ-9は購入しましたし、スクランブラーのようなバイクにも意外とマッチするデザインだと感じています。
すでにいくつか発表していますが、今後も多彩なグラフィックモデルが追加される予定。きっと自分の好みや愛車に合うZ-9に出会えると思います!

志田さんは、プライベートでバイクのほうは?
もちろん乗っていますよ。ただ、ちょっぴりマニアックでして、愛車はビューエルのS1ライトニングというモデル。スポーツ・ロードスターというようなカテゴリーのバイクなので、Zシリーズもピッタリです。

Z-9にも受け継がれた
デザイナーが想う「Zシリーズらしさ」の本質とは?
では最後に、Z-9のデザイナーである福山さんにうかがいます。志田さんの時代から25年以上にわたり継承されてきたSHOEIのZシリーズ。その個性を端的に表現するなら、どのような言葉を使いますか?
Zシリーズらしさの本質は、これまで話してきたように、シンプルでシャープ、軽量コンパクトなところにあると思います。
これらを踏まえ、Zシリーズらしさをひと言で表現するなら『精悍(せいかん)』。これは、SHOEIの製品リリースなどでも頻繁に使われるワードです。意味をあらためて調べると、『顔つきや態度や体つきなどにムダがなく引き締まっていて鋭さがあり、勇ましさや力強さが満ち溢れている様子』というようなところにたどり着きました。
Zシリーズは、シンプルでシャープというのはもちろんそうなのですが、そこだけに収まらない魅力があると感じていました。精悍さこそがZシリーズだと思います。

初代となったZ-Ⅲのデザイナーを務めた志田さんは、いかがでしょう?
精悍というのは、腑に落ちますね。たしかにZシリーズには、シンプルとかシャープというイメージがあるのですが、どちらかと言えばシンプルというよりはシャープのほうが強く、それはまさに精悍という意味でのシャープです。

Zシリーズ生みの親として、『本当は、これだけは残しておいてほしかった……』というデザイン要素はありますか?
デザインコンセプトとして、これでなければダメというモノはありません。Zシリーズは、さまざまなアプローチが許されるモデルだと思いますから。でもやっぱり、精悍さだけは受け継いでいってほしいです。根底にあるものだけ忘れなければ、時代ごとに変わっていいんです。そしてもちろんZ-9も、それを実現したヘルメットだと思っています。

(編集協力:株式会社SHOEI)
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