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「これぞ空力スペシャル」当時最速のBEVコンセプトカー!プジョーの創業200年記念車・ EX1【推し車】

数々の実績を残したEVコンセプトカーの雄

フロントマスクは2010年のジョネーブモーターショーに出展されたハイブリッドコンセプトカー、SR1を踏襲したプジョーEX1 flickr.com Author:Rutger van der Maar CC BY-SA 2.0

4輪でありながら2輪のように絞り込まれた姿を持ち、空気抵抗など何するものぞと切り裂くように走る…市販車でもポラリス スリングショットのようなスリーホイラー(前2輪・後1輪)や、ケータハム セブンのような古式ゆかしい旧車じみたクルマならありますが。

それが最新のBEVとなると未だコンセプトカーの領域で、2010年にパリモーターショーで発表されたプジョー創業200周年記念車、EV1などその典型的な例です。

あくまで従来からあるコンセプトカーの姿を踏襲したとはいえ奇抜な姿で、パワートレーンに当時としては斬新な前後モーター4輪駆動を採用、当時のEVにおける加速記録やニュルブルクリンクサーキット北コースの周回記録を塗り替える実績を残しました。

フランスの老舗、プジョーの創業200年記念車、EX1

極端に狭いトレッドの後輪は1996年の「アスファルト」から、エアロダイナミクスは2007年の「フラックス」からと、それまでのコンセプトカーの集大成

神社仏閣の建設会社や呉服屋上がりの百貨店ならいざしらず、江戸時代の鎖国政策で産業革命を経ぬまま明治維新を迎えた我が日本において、「工業製品のメーカーとして創業200周年を超える企業」などなかなか考えにくいものですが、これが欧米ならわりとある話。

フランスのプジョーもそんな老舗メーカーの1つで、現在も名品として名高いペッパーミルや、諸々の金属製品メーカーとして1810年に創業、1882年からは自転車へ参入するや、すぐに自動車にも興味を示して1889年に最初のプジョー蒸気自動車を製作します。

自動車メーカーとしては現在のメルセデス・ベンツの源流となった企業より早く、「世界最古の自動車メーカー」と言われるプジョーですが、2010年のパリモーターショーには創業200周年記念事業として、1台のBEV(純電気自動車)、EX1を出展しました。

日本でこれに近いことができそうなのは、江戸時代末期の1853年に創業したIHI(旧・石川島播磨重工業)を源流に持ついすゞくらいでしょうか(三菱やダイハツはもっと歴史が浅い)。

奇抜なようで、プジョーとしては案外オーソドックス?

2005年のスリーホイラーコンセプト「20Cup」とリア周りやコクピット周りの処理に共通点があり、EX1とは「突然変異」的なモデルではなく、プジョーが追求してきた理想における、ひとつの到達点だ flickr.com Author:Rutger van der Maar CC BY-SA 2.0

前後にモーターを持つ4輪駆動の後輪は極端にトレッドが狭く、ボディ形状はコンピューターシュミレーションによる空力解析結果の最適値をそのまま外形としたようなルックス、一般的なルーフはもちろんフロントガラスもなく、最低限のウインドデフレクターのみ。

EX1を簡単に説明するとこんな「空力スペシャル」ですが、妙に市販車じみたフロントマスクをはじめ、単なる理想を形にしただけのコンセプトカーとは言い切れない、妙なほど現実味を感じさせるクルマで、もっと言えば「新しい」とまでは感じさせません。

それもそのはず、このEX1にはさまざまな、しかも結構以前から存在するコンセプトカーを元ネタとしています。

最初の原型と言えるのが1996年のパリモーターショーへ展示された「アスファルト」で、市販車じみたフロントマスクから、4輪ながら極端にトレッドが狭い後輪へと絞り込まれる台形レイアウトや、ウインドシールドがないコクピットはEX1そのもの。

さらに2005年には後輪をダブルタイヤかと思うほど太い1輪としたスリーホイラーの「20Cup」をフランクルフルトーターショーで発表。

さらに同年のジュネーブショーでは空力デザインを徹底させた「フラックス」を発表し、この3台のコンセプトカーの特徴を全て取り入れたうえで、2010年のジュネーブショーで発表したハイブリッドスポーツコンセプト「SR1」のフロントマスクを合体させました。

EX1はこうした一連のコンセプトカーの延長線上にあり、集大成として空力性能に優れたスーパースポーツEVとして仕上げられ、見たものに「新しい」と「どこか懐かしい」が同居したような、不思議な感覚をもたらします。

市販車としてもっとも実用性に難を感じるのは、ウインドデフレクターのみでウインドスクリーン(フロントガラス)も幌もないところですが、ルノースポール スピダーなど、海外の割り切ったオープンスポーツでは案外珍しくありません。

カタチだけではない、意外な実力派

成都やニュルで打ち立てた記録は既に過去の話となったが、内燃機関モデルの派生形ではなく純粋なEVスーパースポーツが出るならこういう形であってほしい、という理想が詰まっているようにも思える flickr.com Author:Rutger van der Maar CC BY-SA 2.0

プジョーEX1が「ある意味、コンセプトカーとしては意外なほど保守的で市販車チックなデザイン」だったのには理由があり、市販車と似たルックスで数々の世界記録へ挑み、プジョーのブランドイメージ向上へ大きく貢献する役割があったからです。

前後のモーターで最高出力340馬力、最大トルク48.9kgf・mに達するパワートレーンと、バッテリーが重いEVとはいえカーボンファイバーなど軽量素材を多用して1t以下へ抑えられたEX1はショーの会場から解放されると、猛烈な加速にモノを言わせました。

最初に大きく取り上げられたのは、2010年12月に中国の四川省成都市にある軍用空港で挑戦したEV加速記録で、1/8マイル(約201m)加速8.89秒など、いくつかのFIA(国際自動車連盟)公認記録と、0-100km/h加速3.49秒などいくつかの非公認記録を樹立。

それもフランス人ドライバーだけではなく、中国人ブロガーのドライブによっても記録を叩き出しており、中国市場における「プジョー」ブランドのイメージアップに大きく貢献する偉業と言われました。

また、翌2011年5月にはドイツのニュルブルクリンクサーキット北コースでタイムアタックを実施、当時のEVによるベストラップ、9分1秒338を叩き出します。

その後、EV関連技術の急速な発展でそれらの記録は次々に塗り替えられていったので、現在の視点から見れば過去の話に過ぎないとはいえ、2010年代のハイパースポーツとしては十分なパフォーマンスを誇る1台だったのです。

※この記事内で使用している画像の著作者情報は、公開日時点のものです。

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執筆者プロフィール
兵藤 忠彦
兵藤 忠彦
1974年栃木県出身、走り屋上がりで全日本ジムカーナにもスポット参戦(5位入賞が最高)。自動車人では珍しいダイハツ派で、リーザTR-ZZやストーリアX4を経て現愛車は1989年式リーザ ケンドーンS。2015年よりライタ...

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