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トルクコンバータとは?構造からオイル交換のメンテナンス方法など紹介!
トルクコンバーター(トルコン)とは?
エンジンとトランスミッションを繋げているものは何?
クルマはエンジンが発生するパワーをタイヤの回転に変えて走るものですが、パワー自体は大きく変わることはありません。そこで変速装置、つまりトランスミッションを介することで、速度を徐々に上げたり下げたりすることができるわけです。
しかし、エンジンとトランスミッションは直に繋がっているわけではありません。なぜなら、エンジンは数トンものクルマを動かすだけのパワーを持っているわけですから、いきなりトランスミッションに伝えてしまうと大変な衝撃が乗員に伝わってしまいます。
クルマを停止する度にエンジンをいちいち止めていたら面倒ですし、変速する度にエンジン、トランスミッションの双方に大きな衝撃が加わって、メカトラブルに繋がることも考えられます。そこで考えられたのが「スターディンティンデバイス」です。
トルクコンバーターとは「流体クラッチ」のこと
スターティングデバイスとは、一般的にクラッチと言われるもの。クラッチには『摩擦クラッチ』と『流体クラッチ』があります。摩擦クラッチは2枚のディスクを付けたり離したりすることで、エンジンからトランスミッションへのパワーの断切を行います。
周知の通り、摩擦クラッチはマニュアルトランスミッション(MT)に組み合わされている装置です。ディスク同士がくっ付く時に多少の滑りがあることで、スムーズに発進ができるようになっています。
一方の流体クラッチは『トルクコンバーター(通称トルコン)』と呼ばれる装置で、オートマチックトランスミッション(AT)や最近のCVTに採用されています。現在、日本を走るクルマの90%以上がAT車やCVT車ですので、同じ比率でトルコンが一般になっているわけです。
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トルコンが作動する原理は?
2枚の羽根車とオイルを使ってエンジンパワーをミッションに伝達
トルコンの作動原理は、よく向かい合わせにした2台の扇風機に例えられます。一方の扇風機を回転させると、もう一方の扇風機も電源を入れずとも風の流れで回り出します。トルコンは風ではなく、オイルの流れを使って、風車を回します。詳しく説明していきましょう。
トルクコンバーターは、エンジン側から順に「トルクコンバーターカバー」「ロックアップクラッチ」「タービンライナー」「ステーター」「ポンプインペラー」が配列されています。
トルクコンバーターカバーとロックアップクラッチについては後述しますが、基本的な作動はトルクコンバーターハウジングの中に入っているタービンライナー、ステーター、ポンプインペラーの3枚の働きによって行われます。
まず、誤解されがちなのですが、エンジンからの出力軸が回転すると同時に回るのは、タービンライナーではなくミッション側にあるポンプインペラーです。そしてエンジン側にあるのが、タービンライナーです。
位置関係が逆のように思えますが、ポンプインペラーはクランクシャフトと同軸のトルクコンバーターカバーと繋がっていることで回転し、軸はタービンライナーからATへと繋がっています。位置関係が逆なのはオイルの流れを効率よく使うためです。
2つのインペラーがオイルをかき混ぜ、流し続ける仕組み
まず、エンジンの回転と共にポンプインペラーが回転します。ポンプインペラーは中心軸付近のオイルをフィンでかき混ぜながら回転速度を速めていきますが、それによってオイルには遠心力がついてポンプインペラーへの外へと向かいます。
するとポンプインペラーの外側のフィンによって、今度はオイルがタービンライナーに向かって流れます。そしてタービンライナーの外側のフィンがオイルの流れをキャッチし、タービンライナー自身も回転を始めます。これによって、トランスミッションも回転を始めるのです。
さらにタービンライナーの外側から内側のフィンへとオイルが流れ、再びポンプインペラーへとオイルを戻します。このキャッチボールを延々と繰り返すわけです。
オイルは流れる速度が上がるにつれて遠心力が増すため、パワーをしっかりと伝えます。やがて、ポンプインペラーとタービンライナーは“ほぼ”同じ速度に回転するようになるのです。
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効率よくクルマを動かすためのトルコン内部機構の工夫
ステーターによる「トルクの増幅」
しかし、このキャッチボールをし始めたばかりの時は、受動的な動きのタービンライナーはオイルインペラーよりも速度が遅いため、軸に沿った直進的な流れになります。
そのため、戻ってきたオイルの流れはオイルインペラーの回転を手助けするほど強くありません。そこで登場するのが、ポンプインペラーとタービンライナーの間に挟まれているステーターというパーツです。
前述のように、ポンプインペラーから送られたオイルはタービンライナー回して、再びポンプインペラーへ戻ろうとします。この時、オイルの流れは軸沿いに直進する流れになっているのですが、これをステーターで整流して、ポンプインペラーの働きを助けるように外側に向かう流れにします。
この渦のような流れによってポンプインペラーの回転は容易になり、エンジンの力に加えてオイルの流れる力にもサポートとされることで、より強いオイルの圧力を生むのです。これが、いゆわる「トルクの増幅」です。
しかし、タービンライナーが回転速度を上げると、そのフィンの形状ゆえに自然とオイルに効率的な流れを作ろうとします。となると、今度はステーターの整流がかえって邪魔になってしまいます。
そこでワンウェイクラッチを取り付けることにより、ポンプインペラーとタービンライナーの回転速度がほぼ同じになった場合、ステーターがオイルの流れを妨げないように空転するようにしています。
ちなみに、ステーターによるトルクの増幅によって、アイドリングでもクルマを動かすことができます。これを「クリーピング」や「クリープ」と言います。一時期はクルマの誤発進を防ぐためにクリーピングを無くすクルマもありましたが、発進がしにくというユーザーの声から、再び見直されています。
伝達損失を少なくするトルクコンバーターカバーとロックアップクラッチ
さて、流体を利用するスターティングデバイスだからこそ衝撃のない発進を可能にしているわけですが、パワーを伝えるのが流体ということから伝達損失があり、100%の力を伝え切ることができません。そこで登場してくるのが、初めに紹介したトルクコンバーターカバーとロックアップクラッチです。
ロックアップクラッチは、MT車に付いているクラッチと同じような構造です。トルクコンバーターが一定の回転数に達すると、タービンライナーと同軸で繋がったクラッチが、ポンプインペラーと繋がっているトルクコンバーターカバーに押しつけられて締結します。
これによって、エンジンとトランスミッションは流体を通して接続されるのではなく、軸によって繋がることになるわけです。
ロックアップは燃費の低下防止やレスポンスの向上につながる機構で、クラッチ板をタービンライナーの背面に押しつけるタイプやトルクコンバーターの外にロックアップクラッチを設けるタイプもあります。
トルコンも定期的なオイルメンテナンスが必要
トルクコンバーターの中に入っているオイルを「ATF(CVTの場合はCTVFで別)」「トルコンオイル」と言います。
オートマチックトランスミッションのオイルは循環して、トルクコンバーターに回ってきます。その際、トランスミッション内の潤滑・冷却・洗浄も行うので、当然ながら劣化します。
最近のクルマのATFは、10万kmまで交換しなくてもノートラブルという話もありますが、一般的には30,000〜50,000km、車検ごとに交換するのが望ましいと言えます。
ATFを長年交換していない場合、いきなり全量を変えてしまうと、AT内のスラッジが剥がれ落ちるなどが原因でメカトラブルになることがあります。交換する時は、販売店に相談しながら実施するといいでしょう。
今回はトルクコンバーターについてお話してきましたが、もはやクルマには欠かせない大切なメカニズム。昨今のクルマでは、各部の電子制御化によって、ロックアップクラッチの作動も細かく制御できるようになりました。
これにより、イルの伝導損失をさらに減らせ、キビキビとした快適なドライビングが可能になっています。非常にスタンダードな機構でも、周辺のメカの進化によって、トルコンも変わりつつあります。
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- 執筆者プロフィール
- 山崎 友貴
- 1966年生まれ。四輪駆動車専門誌やRV雑誌編集部を経て、編集ブロダクションを設立。現在はSUV生活研究家として、SUVやキャンピングカーを使った新たなアウトドアライフや車中泊ライフなどを探求中。現在の愛車は...