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「スズキ流のジョーク?」役所の政策にやる気のなさがにじみ出たQ-conceptとは【推し車】
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♫は〜りぼーてーはりぼ~て、超小型のはりぼ〜て♪
一時期は実証実験も盛んに行われて話題も豊富だったものの、最近は新しい話題があまりなくなってしまった「超小型モビリティ」。
特に、「超小型車」などと呼ばれる軽自動車とミニカー(1人乗り4輪原付自転車)の中間的なジャンルの小型EVは期待されていたものの、主要メーカーからはトヨタがC+pod(シーポッド)を一部の販売会社からリース販売しているのみと、寂しい現状です。
小さなクルマといえば軽自動車主要メーカーのスズキやダイハツ、さらに軽EVのサクラとeKクロスがヒットした日産&三菱もあるじゃないか…と思いますが、それらが超小型モビリティを発売、または計画しているという話はとんと聞きません。
スズキ歴史館(静岡県浜松市)には東京モーターショー2011へ出展した「Q-concept」が展示されていますが…今回はその、「国交省の超小型モビリティ構想に応じたスズキのハリボテ」の画像を交えつつ、当時のコンセプトや過去のスズキ超小型車を振り返ります。
本気のミニカーCV-1を開発するも、少数生産でお蔵入り
軽オート3輪などには目もくれず、1955年に初代スズライトを発売してから1983年の初代カルタス発売まで、フロンテ800という例外を除けば「軽自動車一筋!」だったように思えるスズキ。
実は1981年に「CV-1」というミニカー登録の50ccカーを開発、同年の東京モーターショーで出品後、わずか100台ほどながらも実際に販売しています。
ミニカーは現在でも道路運送車両法上では「原付自転車」のため車検が不要で税金も安く、さらに昔は道交法でも原付自転車扱いだったので原付免許で運転可能という、すさまじくテキトーな乗り物で、その手軽さから1980年代前半にブームとなりました。
ただし基本的には原チャリのパワートレーンにFRPボディをドッキング、3輪または4輪化したキャビンスクーターで、極端な場合はリヤ片輪へ原チャリのエンジンから後ろをくっつけただけという代物まであり。
原チャリと4輪自動車も両方作っていたので、自前で部品を揃えられて有利と思ったかCV-1を発表したスズキですが、すぐにミニカーは社会問題となって先行きが怪しくなります。
何しろテキトーに作ってもナンバーを取得し公道を走れ、しかも原付免許しか持たず、教習所で公道走行のイロハを教わることもない原付ドライバーが制限速度30km/hでチョロチョロ走るには、1980年代の道路はもう危険過ぎました。
警察が交通事故の増加に音を上げ、1968年に軽自動車免許を廃止、1973年には軽自動車に車検を義務付けという安全対策も台無し、ミニカーはすぐ道交法改正で規制され、普通自動車扱いで制限速度60km/hとなる代わり、普通自動車免許が必須となります。
手軽さを失ったミニカーブームはあえなく終結、スズキはCV-1を本格販売しなくて幸いでしたが、せっかく気合を入れて作ったミニカーがお役所仕事で潰され、無駄に終わったことには変わりません。
知る人ぞ知るコミュニティ・ビークルSV250
ミニカーブームが終わってCV-1もお蔵入りになったスズキですが、この種の「軽自動車より小さいマイクロカー」への関わりは続き、1985年の東京モーターショーへ「SV250」という250ccマイクロカーを出展しました。
当時、財団法人小型車両振興協会(現・一般財団法人オートレース振興協会の前身の1つ)が構想、オートレースの収益からスズキへ試作車の開発を委託したもので、厳密に言えばスズキ車ではありませんが、当時のパンフレットにも小さく掲載されています。
全長2m×全幅1mと現在のコムスなどミニカーよりも小さいボディへタンデム(前後)2名乗り、2ストローク250ccエンジンに2速ATを組み合わせ、最高速度は60km/hを目標とした、省エネ・省スペースのコミュニティ・ビークル。
短いボンネットを持つ1BOX車を、上記の寸法に合わせ無理やり縮めたような形をしており、軽自動車用と思われるタイヤがひどく大きく見えて最低地上高も高く、それでいて幅は極端に狭いため、横から押せば簡単にコテンと倒れそうです。
実用化には法改正で軽自動車に対し何らかの優遇策が必要とされましたが、CV-1でコリていたスズキは、「そりゃ無理な話でしょ」と思っていたことでしょう。
やる気のなさがにじみ出たQ-concept
そしてQ-conceptですが、今度は国土交通省が提唱し、2010年度から実証実験を始めていた「超小型モビリティ構想」に基づくもので、法律の抜け穴を突いたようなミニカーブームや、何となく構想して試作したきりのSV250と違って今度は国のお墨付きです。
しかし、1950年代に通産省がブチ上げた「国民車構想」や、同じく通産省が自動車業界の再編を目論んだものの、国会で廃案となった悪名高き特措法など、役所主導の自動車関連政策はロクなものがありません。
東京モーターショー2011での出展状況は、国産各社の想いが反映され、傘下のトヨタ車体が翌年発売するEVミニカー「コムス」を出展したトヨタ、ルノー トゥィージーを「ニューモビリティーコンセプト」として出展した日産の2社は、ちゃんと公道走行可能です。
ホンダは一見ハリボテの「マイクロコミューターコンセプト」を出展しますが、普通のヒンジドアを採用してステージ上での自走デモすら行い、翌年にショーモデル用の装飾を剥がした本格的な試作車を公開、後に実証実験用のMC-βへ発展させます。
ダイハツの「Pico(ピコ)」もショーモデル風ですが、サイクルフェンダーとタイヤ、操舵機構や足回りは市販車並で、少なくともその気になれば走りそうに見えました。
超小型モビリティ構想そのものに否定的な三菱、マツダ、スバルはショーモデルすら展示なし。
CV-1を作った途端にミニカーブームが潰された苦い思い出から、「作ってもどうせ、なんだかんだで使いにくくするんでしょ?」と考えたのか、スズキは「いかにもハリボテ」なQ-conceptを出展しますが、展示なしよりある意味では辛辣だったかもしれません。
スズキ流のジョークに見えて面白い
Q-conceptは実物大で作ったベーシックモデルのほか、タンデム乗車2名乗りの後席を並列2名乗りチャイルドシートとした「ママ仕様」、後席の代わりに配送用バイクと同じようなデリバリーボックスを背負った「小口配送仕様」の縮小模型がありました。
このうち小口配送仕様はサイクルフェンダーとタイヤ、素早い乗降のためかドアがない姿で、ヘッドライトが見当たらないのを除けば、「もしこれの実物大モデルを展示していれば」、スズキも本気だと思えたかもしれません。
実物大が作られたベーシックモデルは、中央の円に触れると前上方へ向けゆっくり開くシザーズドアと連動して動き、アルトスライドスリムを思わせる回転ドライバーズシートに加え、ボディ後部も後方へスライドするので後席の乗降も容易です。
かなりよく考えられていますが、可動部が多く電動のため高価になることや、開閉時に手など挟まないかが少々心配な後方スライド部分は、「こうでもしなきゃタンデム複座は使い物にならないけど、それでもいいの?」と、問いかけているようにも思えます。
さりとてC+podのような並列2名乗りではチャイルドシートを並べて子ども2人乗車は無理で、「やっぱり軽自動車でいいんじゃない?」と考えるのが自然です。
これをベースに市販車を作ろうというより、「ちょっと今までの事を思い出してみれば、最終的には軽自動車に落ち着くと思うよ?」と言いたいスズキによる、超小型モビリティ構想への辛辣なジョーク、それがQ-conceptの本質だったのではないでしょうか?
スズキには「ある日突然、予想もされていなかったクルマを市販する」というメディア泣かせの一面もありますが、いい意味で期待を裏切ってくれるなら、それもヨシ!です。
もちろんそのためには、税金も車検も普通の軽自動車と何ら変わらず、ただ小さいだけな現在の超小型モビリティ(型式指定車)に何らかの優遇措置が必要ですが、軽自動車より小さくて安全性が低く、免許制度がゆるいクルマがどうなるか、スズキはよく知っています。
※この記事内で使用している画像の著作者情報は、公開日時点のものです。
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- 執筆者プロフィール
- 兵藤 忠彦
- 1974年栃木県出身、走り屋上がりで全日本ジムカーナにもスポット参戦(5位入賞が最高)。自動車人では珍しいダイハツ派で、リーザTR-ZZやストーリアX4を経て現愛車は1989年式リーザ ケンドーンS。2015年よりライタ...