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正規の大発明?「スライドドア+コンパクトカー」その答えは…プジョー『1007』にあり【推し車】

斬新であっても、そこに「本質」はあるか?

2002年のパリモーターショーで発表された1007原型のコンセプトカー、「セサミ」

筆者には個人で飲食店を経営していて、仕入れは自らの愛車、初代トヨタ ポルテで行っていた知人がいるのですが、彼がポルテを買い替えようという時、どうせなら面白いクルマがいいというので勧めたのが今回紹介するプジョー1007でした。

大きな片側スライドドアで食材を横からも積めて便利とポルテを重宝する彼なら、運転席も電動スライドドアの1007はさぞかし興味津々…と思いきや、中古車情報サイトで写真を見た瞬間に即、「却下」。

運転席は普通のドアの方が便利だし、車内もポルテより奥行きがなく狭い、こんなの使えないよ…さすがは何だかんだで使い勝手にこだわる商売人、他にどれだけ面白いところがあろうと、「本質」を外したプジョー1007が失敗した理由は、まさにこれに尽きます。

世界初の両側電動スライドドア式3ドアコンパクトカー

開口部をあまり取れずに後席へのアクセスは不便で、何のためにスライドドアを採用したのかよくわからなくなっている

このクルマをプジョーが作った時、遠く離れた極東の島国でスズキというメーカーが1988年に発売した、「アルト スライドスリム」というクルマの事を知っていたでしょうか?

そして、そのアルト スライドスリムが前期型の両側スライドドア式3ドアハッチバックから、後期型では運転席側前後ヒンジドア+助手席側スライドドア式の変則4ドアへ変更された事や、その意味も。

かつてスズキが実験的にラインナップしてみた軽自動車のコンセプトは、2000年代に入って新たに解釈され、日本ではトヨタ ポルテ(2004年)、フランスではプジョー1007(2005年)という2種の大型スライドドアつきコンパクトカーが生まれました。

ただしポルテは初代ヴィッツ系のプラットフォームを使い、体が不自由なこともある同乗者の乗降性や、助手席側前後席への人・荷物のアクセスを重視した「ユニバーサル・デザイン」で作られたクルマ(現在だとトヨタのJPNタクシーに近い考え方です)。

対する1007は新時代のMPV的なファミリーカーとして提案しており、アルト スライドスリム前期型の失敗要因だった手動スライドドアは電動化、「両側に電動スライドドアを持つ世界初の3ドアコンパクトカー」ではあったものの、その本質を理解していたかは疑問です。

基本的には旧時代プジョー車の乗り味と安全性、遊び心が売り

1~2人乗りならそれなりに便利だったとも言われたものの極度の販売不振で短命に終わり、プジョーへ莫大な損失をもたらした1007 ©art_zzz/stock.adobe.com

あえてスライドドア以外の部分から触れると、2000年代後半からプジョーユーザーを困惑させる、少々前衛的過ぎた前後デザインになり始めた頃で、ピニンファリーナがデザインしたサイドパネルとは若干チグハグながらもかろうじて許容範囲。

ボディサイズは初代ポルテと同程度、日本ではギリギリ3ナンバーなものの5ナンバー車といって差し支えなく取り回しは良好、電動スライドドアのメカ重量や補強で車重は1.2t超と重いものの、意外にトルクフルなエンジンで巡航に入ればパワー不足を感じさせません。

全高1,630mmとトールワゴン系ですが、トップヘビーによる不安定感や不快なロールを感じさせないよう足回りは適度に固められ、緩いロールで横Gを軽やかにいなしつつ優雅にコーナリングするという、ちょっと古い306あたりまでの「プジョーの猫足」風です。

ミッションは5速MTか「2トロニック」と呼ばれる5速セミATのうち、日本仕様ではセミATのみですが、スズキのAGSと同じシングルクラッチ式で、慣れないと(学習しないと?)変則ではややダルな印象を与えますが、クルマの性格的に大きな問題はなし。

面白いのは内装の一部を自分で交換可能な「カメレオキット」というオプションで、購入後にオリジナルのカラーコーディネートを可能として、内装に華を持たせる遊び心を用意しています。

両側スライドドアのために補強されたボディは衝突安全性能にも寄与したらしく、各部のエアバッグと合わせ、ユーロNCAPの衝突安全テストでは当時のメルセデス・ベンツCクラスに匹敵する高得点を記録しました。

「本質」を妥協してしまった失敗作

売れ行き好調なら追加されたであろう1.6リッターDOHCエンジンのスポーティ版、1007RCもお蔵入りになってしまった。

しかし、デザインや安全性能、それに新鮮味を重視した結果だと思われますが、スライドドア開口部が小さい事による、後席へのアクセスや横からの荷物出し入れといった使い勝手の悪さ、コンパクトすぎて荷室が狭く、後席も2人乗りで空間も充分でないのは問題です。

さらに肝心のスライドドアは電動開閉のため、頻繁かつ迅速さが求められた場合には運転席の乗降性が悪いとされ、窓を下ろしたままスライドドアを開くと、ドアを閉じるまで窓を閉められず、リモコンで窓だけ閉める事もできません。

すなわち、クルマを降りてドアを閉めてから窓が開いているのに気づくと、「スライドドアを開けて乗り込み、ドアを閉めて窓を閉め、またスライドドアを開けて降りる」となり、「降りた後くらいはリモコンで閉めさせてよ!」と、もどかしい思いをするハメに。

しかも電動スライドドアの開閉はあまり速くありませんし、パワーウィンドウスイッチとドアのスイッチが紛らわしいため、有料駐車場の出入り口や料金所でウッカリすると窓ではなくスライドドアを開けてしまい、閉めて窓を開けるまで待たされます。

大型スライドドアで後席へ容易に乗降できたり、荷室にも余裕があるといったメリットがない以上、「妙なメカニズムを組み込んだ結果としてこの種のクルマに求められる本質を見失い、あるいは妥協した、ただ使いにくいだけのクルマ」になってしまいました。

極端な話、後席や荷室など大して使わず、両側スライドドアのオシャレなクルマが欲しいというならオススメできますが、そんなユーザーはほとんどいなかったようで、たった4年程度(日本では3年弱)で販売終了という、失敗作になったのです。

結局両側スライドドアにするなら現行のリフターくらいのサイズで後席両側スライドドアと広い荷室を得るか、コンパクトカーでやるなら運転席側はヒンジドアが正解。

一足早く初代ポルテを販売していたトヨタなど、「アルトスライドスリムの失敗を見てなかったのかな?」と、首をかしげていたかもしれません。

結局、1007は2002年にコンセプトカー「セサミ」として発表された時、「オープン・ザ・セサミ!(開けゴマ!)」と、電動スライドドアをスルスル開ける以外にあまり意味がなく、DOHCエンジンを積んだスポーティ仕様の「1007RC」も市販されずに終わりました。

※この記事内で使用している画像の著作者情報は、公開日時点のものです。

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執筆者プロフィール
兵藤 忠彦
兵藤 忠彦
1974年栃木県出身、走り屋上がりで全日本ジムカーナにもスポット参戦(5位入賞が最高)。自動車人では珍しいダイハツ派で、リーザTR-ZZやストーリアX4を経て現愛車は1989年式リーザ ケンドーンS。2015年よりライタ...

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