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家族が乗る車でそんな事あっていいの?軽・ミニバンにおける衝突試験の闇とは

日常の足として用いられる軽自動車や、ファミリーカーとして不動の人気を誇るミニバンは、日本を象徴する車のジャンルです。

時代が進むにつれて車内のスペースも広くなり、「軽の後席」や「ミニバンの3列目」でもゆとりある空間を実現している車種が増えています。

一方で、車内スペースを重視することで懸念されるのは「クラッシャブルゾーンの狭さ」です。座席を車体の後端近くに置くことで、後方からの衝撃を和らげるための空間はおのずと狭められてしまいます。

実際にミニバンや軽自動車の最後部に座ってみると、後頭部がほとんどリアハッチに接するようになり、「ぶつかられた時に大丈夫だろうか」と不安になる人もいるかもしれません。

果たして、軽自動車の後席やミニバンの3列目の安全性には問題がないのでしょうか。

衝突試験で後席安全性は重視されない?

©3D motion/stock.adobe.com

結論からいえば、軽自動車やミニバンといった区分にかかわらず、自動車の衝突安全性能試験において「追突時における後部座席の安全性」は確認されないのが一般的です。

日本国内において、自動車の安全性能を調査する試験としては、NASVA(独立行政法人 自動車事故対策機構)の実施する「自動車アセスメント(J-NCAP)」が挙げられます。ここで行われる衝突試験のうち、後部座席にダミーを置いた検査は「オフセット前面衝突試験」(64km/hで車両前方の一部を衝突させる試験)しかありません。

J-NCAPの検査項目には、側面衝突や後面衝突に関する試験も含まれていますが、ここで確認されるのは前席の安全性のみです。つまり、「横から」あるいは「後ろから」衝突された時、後部座席にどれほどダメージが生じるかは検査されていないのです。

追突時の後席安全性が検査されない理由

追突された際の後部座席の安全性を検査対象としないのは、日本の自動車アセスメントに限った話ではなく、世界的に共通する傾向だといえます。

たとえば米国運輸省の道路交通安全局(NHTSA)が実施する「U.S.NCAP」においては、後部衝突試験そのものが行われていません。この理由として、NHTSAは「限られた予算のなか、死亡や重傷につながる確率のもっとも高い前面衝突および側面衝突の試験に集中するため」という説明をしています。

衝突試験は1度の検査で完成車両をまるごと潰してしまうことになるため、多額の費用が必要になります。現状のJ-NCAPにおいては、1車種に対して3つの衝突試験が行われるので、3台の車両を調達しなければいけません。

これらは基本的に、メーカーから無償提供されるわけではなく、運営団体であるNASVAが一般のディーラーから購入しています。こうしたコスト面の問題からも、実施する検査項目には優先順位をつけざるをえず、必然的に被害が大きくなりやすい前面衝突などがメインの検査となっている、といえるでしょう。

実際の事故状況から見る追突時の後席安全性

©industrieblick/stock.adobe.com

上に見たように、公的な機関による衝突試験においては、「追突時の後席安全性」は検査されないのが一般的です。そのためミニバンの3列目や軽自動車の後席が、追突事故でどの程度のダメージを受けるのかは明らかではありません。そもそも試験が行われていないため、セダンSUVの後席安全性も不確かな点が多いといえるでしょう。

したがって、追突時におけるボディタイプごとの後席安全性は、実際の事故状況から推測するほかありません。負傷者の生じた交通事故について、ボディタイプや座席ごとにどのようなリスクの違いが生じるか、に関する研究としては、日本大学工学部教授の西本哲也氏らによる「車両クラス別傷害予測アルゴリズムVersion 2021の構築」(2021年5月自動車技術会春季学術講演会における発表)があります。

この研究発表においては、交通事故総合分析センター(ITARDA)の扱うデータのうち、2009年から2018年に発生した死傷事故の事例を対象に、「軽自動車」「小型乗用車」「中型乗用車」「大型乗用車」と車両クラスを区分し、事故類型や速度変化にともなう死亡重傷率の変化を導出しています。

同研究では、前面衝突、側面衝突、後面衝突のいずれの場合にも、クラスが小さいほど死亡重傷率が高くなる傾向が指摘されています。一方で、死亡重傷率のリスクカーブは衝突形態によって異なる形状を描いており、前面衝突においては低速時からクラス間の差が生じていますが、後面衝突においては速度変化が40km/hを超えるまで顕著な差は見られません。

また、同研究においては、他の衝突形態に比べて後面衝突における死亡重傷率が低いことが示されています。死亡重傷率は前面衝突の場合で9.5%、後面衝突の場合は0.6%です。

同研究においては死傷事故の多くが中低速域において生じていることが示されていますが、これらの内容をふまえると、追突事故における死亡重傷率は他の事故形態に対して相当に低く、加えて、追突事故の多くはボディタイプごとの影響を受けにくい速度域で生じている、という背景が見えてきます。

つまり、ボディタイプと衝突安全性の間に相関性はあるものの、追突事故においてそれが顕著に表れる状況は稀である、と考えられます。各国の衝突試験に後面衝突が導入されていないのも、このような背景が一因としてあるのかもしれません。

独自に後席の安全性を検査するメーカーも

なお、車種によっては、メーカー側が独自に後席の衝突安全試験を行い、その結果を公表しているものもあります。

たとえばマツダ CX-8は、80km/hでの後面オフセット衝突試験を独自に行い、3列目の生存空間が残されることを確認しています。3列目の安全性について試験結果を公表するメーカーは世界的に見ても稀であり、その他にはボルボ XC90が挙げられます。

追突事故で重傷・死亡に至る率は相対的に低いといっても、高い速度域で大きな車に追突されればそれだけ被害も大きくなると考えられます。「どんなリスクにどれだけ備えれば十分か」は一概に決められませんが、自動車を選ぶ際の基準として、「衝突安全性がどれだけ確認されているか」をチェックすることも重要なのかもしれません。

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執筆者プロフィール
鹿間羊市
鹿間羊市
1986年生まれ。「車好き以外にもわかりやすい記事」をモットーにするWebライター。90年代国産スポーツをこよなく愛し、R33型スカイラインやAE111型レビンを乗り継ぐが、結婚と子どもの誕生を機にCX-8に乗り換える...

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