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韓国EV優勢は本当?ヒョンデ「充電5分で200キロ」の実態
韓国最大の自動車メーカーである現代(ヒョンデ)自動車は、かつて2001年に日本市場に参入したものの、販売が振るわず2010年に撤退した経緯があります。
当時は性能や価格面において、日本車に対する明確なアドバンテージを示せずにいた感のあるヒョンデですが、その後着実に世界シェアを伸ばし、2021年には販売台数で世界4位になるなど、世界有数の自動車メーカーとして成長を遂げました。
2022年に日本市場へと再び参入するにあたって、目玉となるモデルが電気自動車の「アイオニック5」です。世界的にも評価が高く、2022年の“World Car Awards”では、最高賞の“World Car of the Year”やデザイン賞の“World Car Design of the Year”など複数の賞を受賞しています。
とりわけアイオニック5の強みの1つが、充電性能の高さです。EVの普及にあたって課題とされる「充電時間の長さ」ですが、アイオニック5は一部報道で国産EVを圧倒する充電性能を有することが紹介され、「日本のEVは遅れている」といった不安の声も聞かれます。
専門家の間では「黒船」に喩えられる例も多く見られるアイオニック5ですが、実際に国産EVと比較した場合、充電性能はどれだけ優れているのでしょうか。
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「350kW級」の充電器に対応するアイオニック5
バッテリーの充電にかかる時間は基本的に、充電器の出力に依存します。この点で、アイオニック5は「350kW」という超高出力の充電器に対応しており、日産 アリアの「130kW」やトヨタ bZ4Xの「150kW」を大きくリードしています。
アイオニック5のエントリーモデルはバッテリー容量が58kWhですので、仮に350kWの仕事率で充電しつづけた場合、約10分で最大容量に達することになります。ヒョンデの公表値では、このモデルの最大航続距離は498kmとされており、理論的には5分の充電で250km近く走行可能な電力が得られることになります。
一方、アリアの標準モデル「B6」は、バッテリー容量が66kWhであり、130kWの仕事率で充電すれば約30分で最大容量に達します。日産の公表値において、アリア B6の航続距離は470kmですから、5分で約80km走れる分の充電が可能ということになります。
こうして見ると、アイオニック5が相当に優れた充電性能を誇っていることがわかります。ただし注意しなければならないのは、実際の利用シーンにおいて理論値どおりの充電時間になることは稀だということです。さらに、日本の充電環境においては、そもそも「充電性能の差が生じにくい」という面にも留意する必要があるでしょう。
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充電時間が理論値どおりにならない理由
現実の場面で充電器を利用する際には、さまざまな環境要因に左右されるため、「充電時間がどれくらいか」を一様に示すことは困難です。測定方法・記載方法はメーカーによって異なりますが、さらに同じ車種であっても、カタログやメディアによって数値にバラツキが見られることがあります。
たとえばアイオニック5は、一部メディアでは「5分で200km走行可能」と理論値に近い数値が取り上げられていますが、ヒョンデの英語版サイトにおいては「5分で100km」という記載がなされており、条件や環境によって差が生じうることが読み取れます。こうした差はどこから生じるのでしょうか。
大きな要因として、充電器側の仕様や車両側の仕様によって、充電中の出力は変動しうる点が挙げられます。たとえば350kW級の充電器であっても、充電中つねにこの出力が発揮されているわけではありません。
とりわけ影響の大きな要素として、バッテリー保護のために導入されている「バッテリー管理システム」があります。このシステムにより、バッテリーの容量が0%あるいは100%に近い段階においては、充電速度が低下するのです。
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急速充電器の普及が遅れることで、国産EVも出遅れる?
350kW級の急速充電器に対応するアイオニック5ですが、日本における充電インフラの整備状況からすると、現状ではその性能を十分に発揮できる機会はほぼないと考えられます。
先に挙げたヒョンデの英語版サイトにおいては、充電時間について「10%から80%まで18分」という記載がありますが、日本語版のサイトにおいては「10%から80%まで32分」と異なる数値が記載されています。
この違いは、日本に普及する充電器の出力が相対的に低いことに由来するものです。欧米においては350kW級の充電器が拡充されていますが、日本国内ではいまだ、急速充電器として「90kW級」の普及が急がれている段階です。
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つまり今のところ、日本国内ではアイオニック5であっても、アリアやbZ4Xであっても、充電時間に大きな差が出ることは考えにくいでしょう。実際に、日産の公式ページでは、アリア B6の充電時間を「バッテリー残量警告灯の点灯から容量80%まで約45分」と記載しており、先に挙げたアイオニック5の「32分」との差は決定的なものではないといえます。
このような事情から、国内市場においては当面、アイオニック5の「充電性能」というアドバンテージは発揮されにくく、「いきなりアイオニック5に国内のシェアを奪われる」という事態になる可能性は低いのかもしれません。
しかし、高出力の充電器が拡充されている地域においては、アイオニック5が有する「充電性能の優位」は無視できないものでしょう。国内メーカー各社が世界のEV市場で戦ううえで、高出力充電器への対応は必須になっていくと考えられます。
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- 鹿間羊市
- 1986年生まれ。「車好き以外にもわかりやすい記事」をモットーにするWebライター。90年代国産スポーツをこよなく愛し、R33型スカイラインやAE111型レビンを乗り継ぐが、結婚と子どもの誕生を機にCX-8に乗り換える...