火災は起きていないのに、なぜ消防車が出動するの？その背景には深刻な問題が

火の気が全くないにもかかわらず、消防車が走行している場面を見かけたことはありませんか？

火災は起きていないのに、なぜ消防車が走っているのか、疑問に思った経験がある人も多いのではないでしょうか。実は消防車の出動理由は、火災だけではありません。さまざまな理由で、消防車が日々出動しています。

実は救急車と同じ現場に出動している
「不適切な救急要請」のせいで消防車も出動が増えている？

実は救急車と同じ現場に出動している

消防車が火災以外で駆けつける理由は、救急車と同時に、あるいは先に現場へ到着し、迅速に傷病者の救護措置を行うためです。特に重傷者の場合、救命処置までの時間で生存率が大きく変わってきます。

あまり知られていませんが、PA連携によって出動する消防車には、人工呼吸器や酸素吸入器が積載されており、消防隊員は救命に関する知識・技術を持っています。つまり、救命率のアップや現場到着までの時間短縮のために、救急隊員のみならず、消防隊員も駆けつけているというわけです。消防隊員と救急隊員の連携によって、素早い救出・救命措置が可能となるのです。

このような消防車と救急車の連携は、「PA連携」と名付けられました。「P」は消防車（Pumper）、「A」は救急車（Ambulance）の頭文字となっており、それぞれを合わせて「PA」と呼ばれています。

PA連携によって消防車が出動する背景には、救急要請増加が要因の1つと言われています。年々救急車の出動件数は増加しており、その数なんと年間600万件以上。10年前と比較すると100万件以上増加しており、要請から現場到着までの時間も徐々に長くなっています。

救急車の数には限りがあるため、救急要請が重複した場合や、遠方へ出動している場合は、なかなかスピーディーに対応することができません。そこで、救急車の到着が遅れそうな場合などに、まず消防車を出動させて初動対応を行っています。救急車到着までの間、消防隊員による救護措置を行うことができるというわけです。

「不適切な救急要請」のせいで消防車も出動が増えている？

消防車と救急車が同時に出動する場面は、他にもたくさんあります。例えば、交通量の多い道路などで事故が発生した場合です。

交通事故での救出・救命活動は道路上で行うことになり、救急隊員にも危険が及びます。また、大規模な事故が発生した場合は、傷病者の救出が困難なケースもあるでしょう。一般的に救急隊は3名で編成されていますが、救急隊だけでは安全確保や救出が困難と判断された場合も、PA連携で消防車が出動します。身の回りの安全を確保し、連携して救護にあたるのです。

また「警戒出動」として、事故現場で火災の危険性がある場合にも、消防車が出動することがあります。交通事故の場合は、車からガソリンが漏れていることもあり、引火・爆発する可能性も否定できません。大惨事になる前に、消防隊によってガソリンなどが処理されるのです。

このように、大規模な事故や災害などにおいて、人命を救うためには、消防隊と救急隊の連携が不可欠となっています。しかし、「不適切な救急要請」によって、救急隊の人員・車両が割かれ、消防車が現場へ向かうことがあるというのも事実です。

先述したように、救急車の出動件数は600万件を超えており、増加の一途をたどっています。しかし、令和2年版の『消防白書』によると、病院に搬送された人数のうち、約半数が入院を必要としない軽症患者だったそうです。

病院関係者からお話を聞いてみると、「救急車は有料にすべき」や「タクシー以上の料金を請求できるようにすれば、不適切な利用は減る」といった意見がありました。

たしかに、「救急車の有料化」によって、安易に呼ぶケースは減少すると思われます。しかし、有料化した場合、本当に救急車が必要な人にとっては、経済的な負担がのしかかることになります。金銭的余裕がない重症患者が、救急要請を躊躇してしまい、手遅れになってしまっては元も子もありません。

救急車・消防車が本来の役割を果たすためにも、私たちは「適正な救急要請」について考えなければならないのです。