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世界初のMaaS実用化に挑戦したフィンランドの取り組み

皆さんは、「MaaS」の実用化に成功した国はどこであるかご存じですか?「アメリカ」「イギリス」「ドイツ」「イタリア」…など大手自動車メーカーが存在する国々の名前を挙げる人が多いかもしれません。
世界で初めてMaaSのシステムを実現した国は「フィンランド」です。意外に感じる人も多くいらっしゃるのではないでしょうか。そんな皆さんに、今回はMaaSの実用化に挑戦したフィンランドの取り組みを簡単に紹介します。
日本の各自治体でも、民間企業と連携してMaaS実用化へ向けての実験が繰り返されている段階。近い将来、皆さんもMaaSの恩恵を受ける時代がやってくるかもしれません。
フィンランドがMaaS実用化に舵を切った背景

フィンランドがMaaS実用化に舵を切った背景として以下の状況が存在していました。
MaaSに取り組む代表的な事業者がフィンランド出自のMaaS Globalである。フィンランドの運輸交通省(LVM)は、ICT活用による新産業創生の取組に注力しており、その一環としてMaaSを重点領域の一つに位置付け、国家アジェンダとしてコンセプトを喧伝している。この背景もあり、MaaS GlobalはLVM及び技術庁のバックアップを受けて、MaaS Globalを設立した。WhimというMaaSアプリを通じ、バス、トラム、バイクシェア、レンタカー、タクシー、カーシェア等、各種移動手段のルート検索、予約、決済機能を一元化するとともに、サブスクリプション型43の料金体系を提供する点に特徴がある。公共交通の利便性を自家用車並みもしくはそれ以上の水準に高めることで、自家用車から公共交通による移動へのシフトを促すことを目指している。サービス提供に必要な交通事業者間のデータ連携も、交通事業者のAPIの開放を義務付けた法律の発効等、行政からの後押しで前進している。実際に、Whimの利用者に限定すると、利用前と比較して公共交通の利用が48%から74%に増加、自家用車の利用が41%から20%に減少し、自家用車から公共交通へのシフトを実現している。
(引用元)首相官邸「官民 ITS 構想・ロードマップ 2019(案)」より
また、フィンランドの首都であるヘルシンキ市で開発計画「ビジョン2020」が打ち出されていたことも、MaaSの実現に大きく影響を与えています。
【大都市圏の計画「ビジョン2050」】 ・計画の目標と開発戦略<7つのビジョンテーマ>
生活が脈動するアーバン・メトロポリス 魅力的な生活が選べるまち 経済が成長し、雇用が生み出される街 持続可能なモビリティの街 レクリエーション、都市的自然と文化環境 シーサイドの街 グローバルでローカルなヘルシンキ <都市構造モデル:レール・ネットワーク・シティ>
ヘルシンキ中心部の拡大―道路指向の環境をアーバン・シティ・スペースに変え、土地利用の効率を高める。 郊外のセンターを中央のネットワークに組み込む
(引用元)国土交通省国土政策局「各国の国土政策の概要」より
簡略をすると以下の通りです。
- 運輸交通省がICT(情報通信技術)を活用し、新しい産業を作ることに関心を持っていた
- MaaSは新しい産業づくりの重点領域に挙げられていた
- 公共交通機関のルート検索から予約、決済を一括化して自家用車利用からの移行を狙った
フィンランドのLVM(運輸通信省)が、情報通信技術の活用を目指して、新しい産業を作ることに関心を持っていたのです。新しい産業を形成するにあたり重要な政策として「MaaS」が選ばれ、実施するに至りました。LVMと技術庁のバックアップにより、MaaSの実用化を実現する「MaaS Global」社が誕生したのです。
同様に、フィンランドの首都であるヘルシンキ市では、「ビジョン2050」と銘打って2050年までの都市開発の計画方針を示しています。掲げた「7つのビジョン」では「持続可能なモビリティの街」を提示し、土地利用の効率を高めつつ「自家用車の利用」から「公共交通機関の利用」に切り替えを狙ったのです。
「政府の方向」「ヘルシンキ市の都市開発計画」が同時に噛み合ったことで、MaaSの実用化に向けて加速、実行していったと言えるのではないでしょうか。
MaaS実用化に向けたフィンランドの取り組み
MaaSの実用化に向けてフィンランドが取り組んだ政策は、「交通事業法」の改革です。
2018年に新しく施行されています。
2017年にフィンランドのLVM(運輸通信省)は、「旅客運送事業のライセンス保有者」「仲介および配車の事業者」「統合モビリティサービス提供者」、それぞれのサービス事業者に対して以下の「情報のオープン化」にかかわる義務を提示しました。
- モビリティサービスに関する主要データの標準形式によるオープンインターフェイスによる開放義務
- 切符及び支払いシステムの販売インターフェイスへのアクセス提供の義務
- 他者の代理で行動する権限
- インターフェイスの開放に関する一般要件
- サービス及びインターフェイスを結びつけるサービスの相互運用性
- ITSの展開
(引用元)国土交通省「モビリティクラウドを活用したシームレスな移動サービス(MaaS)の動向・効果等に関する調査研究(第一次中間報告(欧州調査))」
サービスの提供者は「経路」「時刻表」「運賃料金」などの最新データを、機械で自由に読み込めて利用できるようインターフェイスを作る必要が生じました。
利用者は今まで「バス」「鉄道」などの交通機関やレンタカー、カーシェアリング、自転車などその他の移動手段をそれぞれ別々に予約から利用、決済までしなければならない手間が発生しています。
サービスの提供者は利便性を向上させるために、情報を「オープンデータ」として開放し、すべての交通機関を予約から支払いまで一括で利用できるような仕組みを作る義務を与えられたのです。
LVMによる「交通事業法」の改正により、MaaSの実用化に向けて行動を起こしやすい状況を生み出したのです。
MaaSでフィンランドはどう変わったのか?

2018年の「交通事業法」改正前より、MaaS Global社による「Whim」アプリを通じたMaaSの実用化が成立しています。MaaS Global社は、ヘルシンキ市で2016年よりWhimを用いたMaaSの実証実験を開始し、2017年に一般利用者向けにサービス運営の提供を開始しました。
実際にWhimを利用している人々のデータによれば、公共交通機関の利用がアプリの利用開始前の「48%」から利用後は「74%」へ増加しています。反面、自家用車の利用が「41%」から「20%」に減少しています。LVMによる交通事業法の改正でサービスの提供に必要な事業者間のデータ連携を義務付けており、自家用車から公共交通へ移行する流れを作っています。
「Whim」アプリを利用したMaaSの実現によって、バスや鉄道、レンタカー、タクシーなど、移動手段を一括利用できる仕組みを構築。移動ルートの検索や予約、決済機能を取りまとめて、公共交通の利便性を高めているのです。
よって、フィンランドは、世界より一足早くMaaSの実用化に成功しました。政府と都市のベクトルが同じ向きをとった結果、民間企業の働きによってシステムの構築に成功しています。
まとめ
世界で初めてMaaSの実用化に成功したフィンランドを例に挙げて、ここまで紹介してきました。簡単におさらいをしましょう。
- フィンランド政府は情報通信技術を活用して産業の開拓を目指し、軸として「MaaS」の実現を掲げた
- ヘルシンキ市は「持続可能なモビリティ都市」の実現を目指して「MaaS」の実用化に動いた
- 政府の後押しにより「MaaS Global」社が立ち上がり、「Whim」アプリの開発に成功
- 「自家用車」から「公共交通」への利用意識の変化が現れている
一つの組織だけが独自に動いたのではなく、政府や自治体、民間企業が協力した行動を起こした結果が、MaaSの実用化に結びついているのです。加えて、実際に利用している人たちの交通手段の利用意識の変化につなげています。
現在は、フィンランドに限らず、「ドイツ」「イギリス」でも、MaaSのシステムを利用したサービスが存在。日本でも各地で実証実験の検討や計画が立ち上がり、国土交通省によるプロジェクトの推進が始まっています。
皆さんも、フィンランドの例を知り、よりMaaSに関心が湧いたのではないでしょうか?MaaSによって交通機関が気軽に利用できる仕組みを手に入れられる時代がやってくることを願いましょう。
(参照元)
1.国土交通省「官民ITS構想・ロードマップ2019」
2.国土交通省「各国の国土政策の概要」
3.国土交通省「MaaSの普及に向けた課題」
4.国土交通省「MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)について」
5.国土交通省「MaaS(マース)について、石井国土交通大臣が世界に発信しました!」
6.国土交通省「モビリティクラウドを活用したシームレスな移動サービス(MaaS)の動向・効果等に関する調査研究(第一次中間報告(欧州調査))」
7.首相官邸「各国における取組事例」
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- MOBY第3編集部